ファイブ・イージー・ピーセス

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

『ダーティメリー・クレイジーラリー』や『悪魔の追跡』が近くＤＶＤ発売されるというのは僕にとって心躍るニュースですが、玉石混交のアメリカン・ニューシネマの中でも強く心に残るこの『ファイブ・イージー・ピーセス』が、いま観てもそれほど古さを感じさせないのは、家族との葛藤や先行きの見えない人生への焦りなど、いつも変わらない主題を丁寧に描いているからだと思います。
　初めて観たのは僕が中学生のとき、地方の小さな名画座でした。肉体労働者として登場したジャック・ニコルソンが、帰宅途中渋滞に合い、車を降りて、目の前のトラックの荷台に上がって唐突にピアノを弾き始める、それも鮮やかに。このシーンはレビュアのタルコフスキーさんが指摘されているように、とても愉快で印象に残る名シーンです。資産もちの音楽一家に生まれ幼少から音楽教育を受けてきた主人公は、やがて父に反発し、家と断絶していたことが次第に明かされます。
　その父が倒れたという知らせに、ウェイトレスの恋人カレン・ブラックを連れて三年ぶりに帰郷する。父はもう口もきけなくなっていた。その車椅子の父を前に積年の思いを主人公が吐露するシーンもまた心をうちます。親との関係に不安定なものを感じている人には、より胸に迫るかもしれません。
　本作のジャック・ニコルソンは抑えた演技が実に素晴らしく、また主人公の金持ち一家に紛れ込んで場違いなムードを自覚しつつも笑顔を失わないカレン・ブラックが、けして美人とはいえないのに、実に愛らしい名演を見せます。このあたりは中学生の頃はあまり分からなかったことです。
　ラストの主人公の「寒くない、寒くない」という台詞をどう解釈するかは見る者に任されているように思います。７５点。

1970年作品

『イージーライダー』の製作スタッフが組んだ映画で、なんとその年のアカデミー賞4部門ノミネートされたという。
(ノミネートだけで受賞は逃した)

ジャック・ニコルソンが主演で「アメリカン・ニューシネマ」の流れの作品ですが、特にこれと言って感動するところはありませんでした。

主人公ボビーの姿には当時のアメリカ社会が投影されているのでしょう。
ピアニストを目指す音楽一家に育つけれど挫折して、肉体労働のその日暮らしをしている。
知り合った下品だけど愛らしい性格のレイと恋人関係になり、
レイが妊娠しているのに、ぷいっと行きずりのトラックに乗って、
姿を消してしまう。
いい気なもんだなぁ・・・と思います。
内面の鬱屈よりも、男の責任感を望みたかったです。

ニュー・シネマの傑作の１本ではあるが、他の多くのニュー・シネマが若者たちの葛藤を描いているのに対して、この映画は中年にさしかかった男の苛立ちを描いた点で異色である。
前年、「イージー・ライダー」で注目を集めたジャック・ニコルソンが、この作品の奥行きのある演技でますます評価を上げ、名優への道を進んでいくきっかけとなった作品でもある。

カリフォルニアの油田の石油採掘現場で働く中年のロバート・ボビー（Ｊ・ニコルソン）は、もともと音楽一家出身のクラシックピアニストだったが、故郷と身分を捨て、今は自堕落な生活を送っていた。しかし、父親が脳卒中で倒れたため、ウェイトレスをしている恋人レイ（カレン・ブラック）を連れて、はるばる故郷のピュージェット湾へと向かう．．．
初心者向けのピアノ教則本を示す‘ファイブ・イージー・ピーセス’を題名としているのは意外だが、主人公ロバートの反骨精神が各所に見てとれ、特に、レストランでメニューにありもしないサラダトーストを出せと迫る場面や、交通渋滞の中で車から飛び出して、ピアノを載せたトラックの荷台に飛び乗り、喧騒と混乱のただ中で、静かにピアノを奏で始めるシーンなど、ニュー・シネマの中でも出色の場面であろう。

また、カレン・ブラックの出世作でもあり、彼女はお脳の弱い女を絶妙に演じている。　ボビーの姉ティタに扮したロイス・スミスや、看護人スパイサー役の個性派ジョン・Ｐ・ライアンなど、脇役も曲者揃い。
そういえば、ボビーの兄カールに扮していたのはラルフ・ウェイト。１９７２年〜米ＴＶ「わが家は１１人」の主人公で知られている‘あの人’である。

「イージーライダー」で脇だったニコルソンの本領を初めて世間に知らしめた秀作である。どこにも自分のいられる場所がない、自分がいるとそこが駄目になってしまうと父親に涙で告白するシーンに当時のアメリカンニューシネマの神髄を感じる。さすらうしかない男たちの映画が当時とても多かったし彼らのリアルな哀しみと虚無感にとても共感したものだ。相手役のカレンブラックの馬鹿女ぶりが地に見える位似合っていて、こういう馬鹿女いるよなぁと妙に感心する。ドライブインで唐突に長距離トラックに便乗してブラックを置いてけぼりにして去って行くラスト、しばらくドライブイン前の情景を淡々と映し出す終わり方にも当時のアメリカンニューシネマのタッチを感じてとても懐かしい作品である。

トラックの後ろに乗ってピアノを弾き、そのままどこかへ行くシーンがかっこよかった。ラストに音楽が流れないで終わっていくところも良かった。