タバコ・ロード

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　破壊力のあるドタバタと、貧困の厳しさを突きつける重いシーンが交互にやってきて、コメディなのかシリアスなのか、ともすると混乱されるかもしれませんが、実に美しく、映画としてのバランスを見事に保った秀作です。
　ジョン・フォードの作品としては、『怒りの葡萄』『果てなき船路』のあと、『わが谷は緑なりき』の前という、非常に密度の高い傑作を連打していた時期にあたります。おそらく企画的にはスタインベックのベストセラーを映画化した『怒りの葡萄』が大ヒットしたことによる二番煎じなのでしょう。コールドウェルの原作は読んでいないので、このパワフルな悲喜劇がどの程度原作に由来するものかは分かりません。
　とはいえ、後に監督になるナナリー・ジョンソンの実に知性的な脚本をもとに、アイリッシュな馬鹿騒ぎとユーモア、詩情溢れる演出、ちょっとやっつけ仕事気味ながら、まさにフォードならではの秀作に仕上がっています。
　ジョン・フォードの作品について、よく「詩情」という言い方がされますが、それほど難しいことではありません。僕なりの解釈では、台詞でなく、風景や無言のアップなどに物語やそこに込められた思いを雄弁に語らせるということです。そこに映るものから観客が受け取る意味まできちんとコントロールしている。よく考えてみれば映画監督としては当たり前なのかもしれませんが、押し付けと思わせないでこれを成し遂げるのは、とっても難しいことのように思います。
　この『タバコロード』でも、冒頭と終盤に、実に詩情溢るるカットがリフレインします。明暗のコントラストの強い映像で捉えられた脇に木と柵のある坂道、そこをとぼとぼ行く貧農の老夫婦の姿に、強く心を揺り動かされます。また、思いがけず自動車に拾われた後の老妻の長めのアップも、その心情を百の台詞より雄弁に語って、感動的です。
　この無知で人生に投げやりな貧しい農民、七年間収穫はなく農に倦んでいて、十八人出来た子どもは五人死んで、ほとんどはわずかな金と引き換えに売り飛ばしたらしい。家に残ったふたりの子どもは精神的に未発達で、こころを病んでいるとも見える（だから「売れ残った」のだろう）。けれども、映画が、ジョン・フォードが彼らに向ける視線は限りなく暖かい。
　信頼するレビュアーのケチケチさんとは少し違う表現になりますが、ラスト、当面の危機をしのいでほっとし、居眠りをする主人公、その姿に将来の危機を見て今日の安堵はごまかしと見なすことはもちろん出来るのですが、映画はその愚かさを批判してはいないと感じます。将来を思って右往左往するより、今日の歓びと今日の哀しみをただかみ締めること、それもまた人生を豊かにすることではないかと思うのです。８０点。

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笑いに満ちた展開です。しかし、物語が進むにつれ、気楽に笑っていられなくなります。笑いを創り出しているのものは、貧しい農夫たちの愚かさなんですね。貧困であるが故の無知や暴力や無気力。信仰心など上辺だけの物ですし、食べるに困っていれば人間そうなるでしょう。貧困による精神の失墜がさらなる貧困を呼び、それは悪循環を繰り返します。
多くの者たちが土地を離れ、近代化する社会の流れに乗っていったわけですが、この物語はそこに取り残された貧しい白人農夫の物語です。「怒りの葡萄」では土地を離れることをギリギリになって拒もうとした老農夫がいましたが、この作品はそこに取り残されることを選んだ農夫にスポットを当てた、呼応する作品なのかもしれません。

「近代化される社会に取り残されたのが悪い」「それが資本主義社会だ」そう切り捨ててしまえばそれまでですが、元々貧困にあえぎ無知であった彼らに対して、先を見通す力がないことを責めることが出来るでしょうか。映画の中にもたびたび「あなたのいる隅を照らしなさい」という歌が出てきますが、社会的な救済から取りこぼされた農民たちなのではないでしょうかね。

ストーリー展開の上でも、個人の力によって一応の救済はされますが、それはまったく焼け石に水です。主人公が疲れて眠るように終わるラストカットは、彼の行く末を暗示しているように感じます。


＜以下、ある意味、重大なネタバレ。＞





ラストシークエンスで、ばあちゃんの話が台詞に現れます。しかし我々観客はよほど注意して観ていないと、ばあちゃんの存在にさえ気づかないと思います。この物語が描く社会の隅に埋もれてしまう農夫たち、その存在と重なるような寂しさを感じてしまいます。

ジョン・フォードの傑作「怒りの葡萄」と「わが谷は緑なりき」の間にある作品。
制作は１９４１年で日本に輸入されて公開されたのはその４７年後というちょっと訳あり？の映画のようだ。ずっとお蔵入りだった理由は「貧しいアメリカ人を描いている」からと、解説サイトに載っていた。
貧しいだけなら、「怒りの葡萄」の一家も貧しいんだけれど。
原作は南部に住んだコールドウェルが１９３２年に発表した小説。大恐慌時の南部の小作人、日雇い農民らの凄まじい窮乏の中、物欲と性欲を剥き出しにして生きる絶望的生活を描いて衝撃を与えた。ジャック・カークランドがそれを戯曲化。ロングランのヒットになった。
つまり「タバコロード」のジーヌーじいさんの一家は貧に「鈍」が加わって、すっかり堕落してしまっている。冒頭から欲望剥き出しぶりが描かれ、娘婿からカブを奪い取ろうと大騒動。泥のついたままかぶりつく。夫婦には１７，８人の子ども（自分たちにもわからない）がいたようだが、みんな出て行ってしまった。「売った」ケースもあったのかもしれない。
残ったのは障害を持つ息子と娘、それにジーヌーの老母。
貧しい生活だが家族愛で結びついているか、といえばそれが全然そうではない。まだ１２歳の娘を冒頭のカブを持ってきた男に売ったようだ。男は当然ながら当惑して口をきかない幼妻に暴力をふるうようだがジーヌーは意に介さない。このやり取りも、喜劇仕立てなのだがよく考えれば、笑えない。それにこの一家全員字が書けない。
地主からトウモロコシを貰えば子どもたちには知らせず食べてしまおうとする。老母のことは山に入ってしまおうが無視。
およそジョン・フォードの映画の人物たちとはかけ離れている。人間の尊厳もヒューマニズムもない。
尊厳なんて笑い飛ばして開き直って生きる様子が、笑いを取るのだろう。確かにおかしい。大恐慌時、なんでもあり、明日は明日の風が吹く、と開き直って、本能のままに生きるジーヌーたちの姿に、観客は呆れかえって大笑いし、慰めを見いだしたのか。
しかし、字が書けないことを笑うのはうしろめたい。とうもろこしをあわてて隠すようすはいまひとつ笑えない。心から笑えるのは突然始まるすばらしい賛美歌の二重唱ぐらいか。舞台はどうかわからないが、ジョン・フォードのこの映画には笑える軽さがあまりない。衣食足りず礼節を知らない人々を、バカにしているだけではないか、らしくない、と感じないこともない。
そのあたりが長い間公開されなかった理由かもしれない、と思ってみる。
それでも車を走らせるシーンはダイナミックで映画的、夫婦が救貧農場へと丘の上をとぼとぼ歩いて行くは、「東京物語」の熱海の岸壁並みに美しい。枯れ葉の舞う地面にも先行きの不安と哀愁が滲み出ている。やっぱり笑ってはいられない。

一週間前から生活苦のために強制禁煙しています！１０月から値上げだからその前に・・・・
早くも禁断症状が

　Ｊ・フォード監督の１９４０年作品“怒りの葡萄”41年に作成した“わが谷は緑なりき”と“タバコ・ロード”・・・。
タバコ・ロードはまさに“怒りの葡萄”と“わが谷は緑なりき”をＭＩＸしたような作品。
それにしても古典的なノーテンキ的親父ギャグが面白い。