ジャコメッティ　最後の肖像

　ジャコメッティ展の取材にパリを訪れていた、アメリカ人の芸術評論家ジェイムズは、ジャコメッティに頼まれ、彼の絵のモデルとなる。ところが、数時間の予定だったはずなのに、１週間たっても、２週間たっても、描いては消しの繰り返しで、ポートレートはいっこうに完成しない。彼のような芸術家にとって、作品はいつまでも未完で、完璧への途上にすぎないのだと悟ったジェイムズは、一計を講じ、画家の弟ディエゴと協力して、最後の肖像画として作品を遺すことに成功する。

　ややもすると退屈しそうになるこの映画は、単純に晩年のジャコメッティと彼の絵のモデルとなったジェイムズの18日間を描いているのではない。ジェイムズが、モデルの苦行に耐えつつ、その冷静で鋭い観察眼によって記録した、ジェイムズの視点によるジャコメッティと彼を取り巻く人々の暮らしぶりが描かれているのだ。彼の記録は、さらにそれを映画化した監督や脚本家のフィルターをかけられて、見事な人物群像となって結実している。

　ジャコメッティ、その妻アネット、彼女の恋人伊作、愛人の娼婦カロリーヌ、弟ディエゴ、画商ピエール、娼婦の元締めの人物に至るまで。そして、彼のアトリエや住居の詳細な佇まい。これはある意味忍耐強く苦行をやり遂げたジェイムズの勝利と言えるかもしれない。大変な思いをしながら無駄にモデルを務めたのではないという、彼の得意げで満足した表情が浮かんでくるようだ。少なくともジャコメッティ最後の、類まれなるひとつの肖像画を救い出したのだから。

2017年(イギリス）

ジャコメッティはスイス生まれ。
20世紀を代表する彫刻家で画家そして版画家。

1964年パリ。
アメリカ人の美術評論家ジェームズ・ロードが、ジャコメッティの肖像画のモデルを勤めた18日間が描かれている。

2〜3日で完成する筈が、長引いて帰るに帰れなくなるロードを、
美男俳優のアーミー・ハマーが淡々と演じている。

個性的な作風の奇人の芸術家ジャコメッティをジェフリー・ラッシュが、ケレン味タップリに演じる。

妻のアネットの前で公然と娼婦でモデルのカロリーヌを抱くジャコメッティ。
日本人哲学者の矢内原伊作と、これまた浮気をする妻のアネット。
伊作はジャコメッティのモデルとしても重用されて、日本からわざわざ、パリに呼ばれるほどだった。

伊作は映画では重要な役割はしないが、伊作のポートレートを見ると、
かなりの美形なのだ。
ジェームズ・ロード(アーミー・ハマー)も飛び切りの美男子なので、
美形には執着があったらしい。

しかしこの映画は、納屋風のアトリエの混沌とした有様や、創作に悩むジャコメッティを描くが、根本的に人間像の掘り下げが浅い。

肖像画の筆を置けずに苦悩し、描いては消して、また消すを繰り返す
自信喪失の芸術家に見えてしまう。

ロードの仕事は、この映画の原作となった著作を完成したこと。
そして18日間で肖像画を完成させたこと。

椅子に座り両足を広げて座り、膝の間に両手の拳を握る。
このポーズはジャコメッティお気に入りのポーズだった。

ジャコメッティは彫刻家としての方が評価が高く、有名な彫刻は手脚が針金のように細く極端に長い人物像である。
一度見たら忘れられない造形である。
彫刻の数々、肖像画の数々を見るに、非常に特徴的で独創的。

ジャコメッティの時代に先駆けている芸術家の感性は、天性の才能を感じる。

しかし映画としては、STORYも月並みで華やぎがなく、面白さに欠ける。

芸術、特に近代美術は全く理解ができないので、描いた方の人生とかを理解して見ようとしています。理屈から入らんと、感性がないもんとしてはわけわからんのだな。

ということでジャコメッティ。名前は知ってるけど、どんな作品かは知らず。この映画はよくある展開のものでストーリーの中で人となりを描くやつですが、わかりやすいおっちゃんで良かったです。

画風っぽい、変な硬さがある（こんな表現でええんかな？）ジャコメッティ、と感じました。まあ、もうちょっと理不尽な扱いをうけるモデルの視点が欲しかったけど、それは贅沢なのかな。