「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」(2018、英国/スペイン/フランス/ポルトガル/ベルギー、カラー、132分)。監督はテリー・ギリアム、原作はスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテス(1547〜1616)「ドン・キホーテ」(1605〜1615)、脚本はトニー・グリソーニとテリー・ギリアム、撮影はニコラ・ペコリーニ、音楽はロケ・バニョス。原題「The Man Who Killed Don Quixote」は「ドン・キホーテを殺した男」。 ドキュメンタリー「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2002)公開から16年。当時は「キホーテ」役がジャン・ロシュフォール、「グリソーニ(サンチョ・パンサ)」役はジョニー・デップだった。ギリアムはその後2005〜2015年に幾度も再チャレンジ。「キホーテ」にロバート・デュヴァル、マイケル・ペイリン、ジョン・ハート、「グリソーニ」にデップ継続のほかユアン・マクレガー、ジャック・オコンネルが話題に上ったが、資金・スケジュール面などで失敗。執念で完成を見たのが本作。配役は完全に変化する。「キホーテ」役ジョナサン・プライス(1947生)は「未来世紀ブラジル」(1985)の主演、「バロン」(1989)と「ブラザーズ・グリム」(2005)へ出演、年齢を重ね役柄に相応しい風格を持ったということだろう。「グリソーニ」役のアダム・ドライバーはギリアム作品へ初出演・初主演だったが、現代のCMデクレクターが「サンチョパンサ」に擬してセルバンテスの描いた近世に「次第に」入り込んで活躍する過程を好演している。 「トビー」(ドライバー)はスペインでCMを撮影中、ある男からDVDを渡された。それは彼が10年前の学生時代に監督して評価された映画「ドン・キホーテを殺した男」だった。彼はバイクで撮影現場となっていた村へ行く。かつて「キホーテ」を演じた靴職人の老人「ハビエル」(ジョナサン・プライス)は自分を今も騎士だと信じ、「トビー」を従者「サンチョ」として、現代の不思議な妄想冒険旅行に出発する。 いきなり1600年代初頭の「ドン・キホーテ」の世界にタイムトリップするのではなく、現代、過去を巧みな脚本で併行融合していくのが本作の味噌だ。風車の場面でも、先に風力発電のプロペラ現代装置と昔ながらの木石の風車を一緒に見せておく。負傷した「キホーテ」を運んだ村が、「トビー」はムスリム過激派テロリスト拠点でないかと怖がり、逃げ出そうとする。───中世の異端尋問官が異教徒の摘発のために現れ───これは彼の夢落ちだが、現実の不法滞在者を取り締まる警察が現れ、二人は村を出て行く。滝壺で、「殺した男」の「ドルネシア」役の女優「アンヘリカ」(ジョアナ・ヒベイロ)と再会するが、彼女はロシア富豪「アレクセイ・ミシュキン」(ジョルディ・モリャ)の囲い者となっていた。 その後、「鏡の騎士」が「キホーテ」に一騎打ちを挑んで敗れる。その正体を知った二人は、すべてが茶番であったことを悟った。そこからまた、複雑な物語が繰り広げられ、最後は、新しい「キホーテ」と「サンチョ」の旅が始まるところが、この映画の興味深いところ。「未来世紀ブラジル」や「バロン」のような手作り感満載の特殊効果の大場面はない。原作にも本作にも戦闘場面はないのだ。けれども、衣装は凝っている。 タイムトリップではなく、現代劇が古典の作品世界と併行・融合しているのが傑作の由縁。
「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」(2018、英国/スペイン/フランス/ポルトガル/ベルギー、カラー、132分)。監督はテリー・ギリアム、原作はスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテス(1547〜1616)「ドン・キホーテ」(1605〜1615)、脚本はトニー・グリソーニとテリー・ギリアム、撮影はニコラ・ペコリーニ、音楽はロケ・バニョス。原題「The Man Who Killed Don Quixote」は「ドン・キホーテを殺した男」。 ドキュメンタリー「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2002)公開から16年。当時は「キホーテ」役がジャン・ロシュフォール、「グリソーニ(サンチョ・パンサ)」役はジョニー・デップだった。ギリアムはその後2005〜2015年に幾度も再チャレンジ。「キホーテ」にロバート・デュヴァル、マイケル・ペイリン、ジョン・ハート、「グリソーニ」にデップ継続のほかユアン・マクレガー、ジャック・オコンネルが話題に上ったが、資金・スケジュール面などで失敗。執念で完成を見たのが本作。配役は完全に変化する。「キホーテ」役ジョナサン・プライス(1947生)は「未来世紀ブラジル」(1985)の主演、「バロン」(1989)と「ブラザーズ・グリム」(2005)へ出演、年齢を重ね役柄に相応しい風格を持ったということだろう。「グリソーニ」役のアダム・ドライバーはギリアム作品へ初出演・初主演だったが、現代のCMデクレクターが「サンチョパンサ」に擬してセルバンテスの描いた近世に「次第に」入り込んで活躍する過程を好演している。 「トビー」(ドライバー)はスペインでCMを撮影中、ある男からDVDを渡された。それは彼が10年前の学生時代に監督して評価された映画「ドン・キホーテを殺した男」だった。彼はバイクで撮影現場となっていた村へ行く。かつて「キホーテ」を演じた靴職人の老人「ハビエル」(ジョナサン・プライス)は自分を今も騎士だと信じ、「トビー」を従者「サンチョ」として、現代の不思議な妄想冒険旅行に出発する。 いきなり1600年代初頭の「ドン・キホーテ」の世界にタイムトリップするのではなく、現代、過去を巧みな脚本で併行融合していくのが本作の味噌だ。風車の場面でも、先に風力発電のプロペラ現代装置と昔ながらの木石の風車を一緒に見せておく。負傷した「キホーテ」を運んだ村が、「トビー」はムスリム過激派テロリスト拠点でないかと怖がり、逃げ出そうとする。───中世の異端尋問官が異教徒の摘発のために現れ───これは彼の夢落ちだが、現実の不法滞在者を取り締まる警察が現れ、二人は村を出て行く。滝壺で、「殺した男」の「ドルネシア」役の女優「アンヘリカ」(ジョアナ・ヒベイロ)と再会するが、彼女はロシア富豪「アレクセイ・ミシュキン」(ジョルディ・モリャ)の囲い者となっていた。 その後、「鏡の騎士」が「キホーテ」に一騎打ちを挑んで敗れる。その正体を知った二人は、すべてが茶番であったことを悟った。そこからまた、複雑な物語が繰り広げられ、最後は、新しい「キホーテ」と「サンチョ」の旅が始まるところが、この映画の興味深いところ。「未来世紀ブラジル」や「バロン」のような手作り感満載の特殊効果の大場面はない。原作にも本作にも戦闘場面はないのだ。けれども、衣装は凝っている。 タイムトリップではなく、現代劇が古典の作品世界と併行・融合しているのが傑作の由縁。