波止場

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『レッドパージ・ハリウッド』。　上島春彦氏の労作で学ぶことの多い本ではあるが、氏は「波止場」をこう評している。
[左翼主導の組合は腐敗しており、資本家と協調路線をとる「御用」組合のみが正しく,何の見返りも求めずに組合腐敗を暴いた協力的証人は共産主義者により陰湿な報復を為されるが、決してひるむことはない、というのが『波止場』の言わんとするところである。]　

果たしてそうだろうか、ぼくにはそうは思えない。
たしかにカザンが自分のことと映画の中の物語を結び付けたいのは事実だ。“自分の話と自分の感情を投影した”と自伝にも書いてある。　でも「波止場」を見ても、上島氏のような解釈は読み取れない。

ぼくには組合幹部の連中は共産主義者に見えない。マフィアに見える。　
左翼が組合活動に熱心で貢献してきたのはたしかだが、組合は左翼だけのものではないし、特にアメリカでは多くの組合がマフィアに牛耳られてきた歴史を持つ。　港湾労働を仕切っていたのは日本でも山口組などやくざだったし、実際に当時ニューヨークの港湾労働組合はマフィアが支配し、労使双方に対し脅しと搾取を行っていました。　　　そしてマフィアは概して反共的でしょう。
組合を我々の手に取り返せと労働者が言うせりふのある映画が、どうして反組合映画なのか。

自伝を信じる限り、カザンは１９３０年代にはリハーサルにギャラを払わせるよう俳優組合で活躍し、証言後も除名動議は古参の組合員らによって否決され、退会もしていない。
また反共ではありますが、カザンは自らを左翼とみなしていますし、ぼくもその左翼的な体質は感じます。　　

ブランド演じるテリーのやったことは内部告発です。実際殺害など犯罪が行われているのだから。　　カザンが実際にやった証言、それによって思想の自由の侵害と、法を犯していない人間の仕事が奪われる結果になり、この映画の内部告発とは似て非なるものです。

[組合幹部一味を壊滅させるが、その背後にいる黒幕はびくともしない]とあるが、黒幕とは誰?
証言をテレビで見ている男なら、マフィアに賄賂をもらっている政治家でしょう。
よろめくテリーを待ち受ける男を指すなら、荷主でしょう。　労働者たちが就業ボイコットしたので再開を待っているのです。

鳩を殺した犯人も、誰かは直接に描いていないのでわかりません。しかし組合幹部よりもむしろ、よそ者に味方したことに反発した地元住民、それも鳩をテリーに投げつけた子どものほうが、犯人として可能性が高いのではないでしょうか。いずれにしても共産主義者ではありません。

「波止場」は反共、反左翼組合でなく労働者たち民衆の勝利を描いたからヒットもし、アメリカ以外の国(ベネチア映画祭で賞をとっています)でも、また時代を超えても評価されているのだと思う。

トリックがあるとしたら、作品の中ではなく、作品の外でおこなわれるのでしょう。
違う理由で作品は成功しました。　その成功を、カザンの行動への賛同の意味を結び付けたい、重ねあわせたいとする意図に対し、つながりを否定するのが批判者として妥当と思う。
それなのに、トラウマや義憤から、作品の解釈を”深読み”し結びつけることは、逆サイドからカザンの思いを裏打ちすることであり、トラップに自分から掛かっているようなものではないでしょうか。　　　カザン作品を評価するぼくが言うのも何ですが・・・。

仕事にあぶれた自分を娘に見られる父親の屈辱、情愛あふれた手袋のシーン、タクシーでの兄弟の会話、そしてリー・J・コッブ(ぼくは彼が好きです。でも彼もいわゆる裏切り者になりました)との対決など、やはりこの映画は名作だと思う。　DVDは残酷で、粗も目立たせますけれども。
出演者の名演技と、それぞれの実際の人生を思って、複雑な感情になり、やっぱり泣いてしまいました。

なお参考資料として、DVD「アメリカン・マフィア」第2巻の第３話「ギャングと労働組合」があり、Discusさんでも借りられます。CBS制作でNHK・BSでも放送されたことがあります。
実写フィルムと再現フィルムの区別が雑で、実は「波止場」のフィルムが使われていたりしますが、それなりに参考になります。
「ホッファ」という映画もありましたが、マフィアに牛耳られたアメリカの労働組合の実態は、驚くべきものがあります。

さっきBSでやっていたので観た。私は映画好きではなく、女優好きで映画を観ているので、こういうテーマの映画は不得意なんだけど、なかなか面白かった。

マーロン・ブランドがチンピラから神父の言葉によって覚醒し成長する、という映画である。
私は家内がクリスチャンなので、その思考を理解するためにキリスト教というものを研究したことがある。

どこかに書いた事があるが、ウチの息子はハーフである。どこに行ってもいじめに遭う。
家内は息子が生まれたときこう言った。

「私達の子供はアイデンティティの事でもきっと苦労するだろうし、両親の国同士の異なる価値の衝突にもさらされるだろう。そういうとき、彼には普遍の価値を持つ拠り所となるものがきっと必要だと思う。あなたはどう思うか。」

心配している内容は十分理解できた。親としての私達がいなくなっても、彼を支えてくれる何かがきっと必要だろう。家内は「あなたの同意を得て息子に洗礼を受けさせたい」と言った。

そういう分けで、私はクリスチャンではないが、息子はクリスチャンである。
このとき、私は「人間には生きるための規範となる絶対的な価値観が絶対的に必要なのではないか」と初めて思った。
日本で生まれ育った私には、宗教というものに触れる機会がなかったため無宗教になった。別に日本人だから宗教を信じないのではなく、触れる機会が日本には無いという環境の所為である。そして、日本人には『絶対的な価値観』というものが不幸にして無い、と私は思う。あるとすれば「人の迷惑にならない事」が日本人の最重要な掟である。

この映画の主役は、教会には顔を出すが聖書なんか理解していないというチンピラである。
そいつが、神父の言葉の力により、自分の成すべき事を判断するための確固な規範を見つけるのである。
八百長試合をした後ろめたい過去を持つ、人をまっすぐ見ることのできないチンピラが、悩みながらも最後には自信に溢れた顔付きになって行く。
神父の話で、「仕事を求めて朝波止場に並ぶ君たちの中にゴッドは共に並んでいる」「ゴッドはいつも見ている」という下りはキリスト教をまったく信じることができない私でも強く心を揺さぶられるものがある。

そういう規範を、日本人はいま持っているだろうか。何が私たちの行動の基準となっているだろうか。
昔は武士道という規範があった。今は無い。

アメリカにキリスト教がなかったら、この映画は存在しなかった。
宗教を持つ人々のことをうらやましく思う映画だ。

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　赤狩り（共産主義者の排斥）に映画界が揺れた５０年代、アメリカ合衆国下院非米活動調査委員会の公聴会に呼ばれたカザンが、自らの共産党員歴を不問に付し映画制作を保証してやるとの誘いに乗り、８名の同業者を共産主義者として「密告」したのは有名な話だ。裏切り者の影はずっと彼につきまとう。
　だから１９９９年のアカデミー賞受賞式では、およそ晴れの場には不似合いな不穏な空気が流れた。証言の直後に制作されたこの「波止場」はカザンの密告の言い訳であるとも受け取られている。

　しかし、言い訳の形式にしては見事すぎる。無駄のない巧みなストーリーの運び、名言頻発の台詞、比類ないほど力強い映像、バーンスタインの音楽の豊饒さ、特に弦の盛り上がりがすばらしい、何をとっても完璧と思わせる。マーロン・ブラントは言わずもがな脇役たちも、港湾労働者のエキストラに至るまで抜かりはないという感じ。　広い背景に群像を配した構図がとくにいい。すべてをフレームのうちに収めて、そこにあらゆる人間の思念を感情を行為を運命を盛り込んであるとの、映画人の誇りと自信が漲っているかのようだ。倉庫の扉がゆっくり閉まるラスト、まさにすべてフレームに収めたぞと胸を張っているかのよう。
　重大な告白時に鳴る汽笛、オープニングに登場した豪華客がラスト近く静かに岸を離れていく趣向、代々の殉教者の象徴のようなジャンパー、そして屋上の鳩。演出も小道具も申し分ない。映画の美学の正統を味わい尽くせる映画と思う。

　では言い訳の中身に納得できるか。テリーは確かに勇気を奮い起こし、眠っていた誇りを取り戻し、自ら痛みを引き受けて「組合」の悪行を証言した。映画に登場する港湾労働者を取り仕切る「組合」は実際はマフィアの支部のようなもので、人殺しまで辞さない犯罪集団だ。断じて「密告」などではない、真実の証言だと誰もが思う。思わせる。
　しかしこのギャングもどきの一団に「組合」と名付けるところに、カザンの微妙なすり替えの意図を感じてしまう。自分が密告した共産主義者たちと卑劣なギャングとでは根本的に違うのに。
　共産主義者、社会主義者が活動の拠点とすることの多い労働組合への敵意というか、ああした連中に牛耳られた組合は腐敗していると暗に語っていると読み取ることもできなくはない。証言したテリーが仲間に無視されるのも、勇気ある証言をしたら共産主義者たちから逆に迫害を受けたとの、カザンの被害妄想の暗示かとも邪推してしまう。
　最後に扉の前で労働者たちを待ち受ける謎の男、この辺りの真の支配者なのだろう、の存在も気になる。「組合」なんか超越した「国家」そのもののメタファーなのだろうか。国家の安寧のためには密告もやむなしとの。

　オバマ大統領の就任演説にも、確か「全体主義と共産主義の支配に勝利してきた歴史」とかなんとか、中国はこの共産主義の部分を翻訳せずに伝えたらしいが、いうくだりがあった。共産主義思想はアメリカではまだ特別の脅威をもって受け取られているのかと、驚いた。カザンもずっと「共産主義」の亡霊に怯えてきたのかもしれない。　自分の国の「赤狩り」なんて運動自体、どんな偏狭な共産主義政府に負けない卑劣悪質な政治運動だということに、気付かなかったのだろうか。

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テリー役のマーロンブランドの硬派な演技が光ります。労働者から不当な金を巻き上げ、波止場を仕切るボスのジョニーには誰もが逆らえません。口封じに平気で殺人を実行し、犯行を闇に葬ろうとするやり口には正義と民主主義のかけらもありません。そんな中、殺人事件を機に、唯一の真相究明を訴えるバリー神父とイディの勇気ある行動にテリーは感化されてきます。最後には法廷で証言台に立つテリー。勇気あるその行動に波止場の仲間たちも立ち上がります。
誰もが自分の保身を考え、正そうとはしない社会の悪と闇に対して、勇気を持って毅然と立ち向かい、正義を追求し、正していく姿勢こそ最も大切であることを考えさせられました。

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面白かった。マーロン・ブランド以外の前知識なしに鑑賞したが、見た後も「マーロン・ブランド」。この一言に尽きる作品だったと思う。

↓↓↓↓

冒頭から緊迫した雰囲気に飲み込まれた。
波止場を取り仕切るボスに歯向かう者は次々と抹殺され、虐げられている労働者たちは彼とその組合の下で極貧の生活を強いられている。穴の開いたブルゾン、丈の短いズボン。彼らの吐く息の白さと丸めた背中から、寒さと生活苦を痛い程感じる。
友人が殺害される事件に一役かんでしまったテリー（マーロン・ブランド）がその友人の妹イディに見せた二面性に私は心を捉えられた。
正しいと思うことが出来ない”歯痒さ”。そしてそれは、イディと出会ったことでかつてはプロボクサーとして一心に闘っていたが、今は「ゴロツキ」と呼ばれる存在であることを思い起こさせられた自分に対してでもあった。
反面、ハトを育てたり弟分？たちやイディに対しては優しさを持つ若者でもある彼。カフェで自分をさらけ出したテリーに惹かれ「どうか、この若い二人が幸せになれますように」とエンディングを思う。
タクシーの中での”別れ”の演技力。兄の名を「チャーリー・・・。」と三回呼ぶのだが、その後言葉はない。
人間臭い神父も非常に印象に残る。煙草をふかす、人を殴る。「人を拳銃で殺すことが勇気か？」とテリーを諭す。

そして爽快と言うよりは切なさがほのかに残るエンディング。


『ゴッドファーザー』でしか見たことのないマーロン・ブランド。古い映画だが楽しめた。話し方はドン・コルレオーネを髣髴とさせる部分もあったが、若さと才能にあふれた彼を見ることが出来て良かった。