天使の涙

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タランティーノのお墨付きをしょった「ウォン・カーウァイ」監督作品です。

イカした映像と音楽を、厭というほど見せられて、これ以上続いたなら、途中で止めちゃうよ！と思った途端に、金城君が登場してきて、食用の豚を洗いながらデッキブラシで踊るところが面白いですね。
この作品は、２部構成になっていて、
金城君の方は、期限切れのパイナップル缶を食べて話せなくなってしまったという設定なのですが、２つの別れがあります。
１つは、実父との、もう一つは通りすがりの恋との別れ。
小道具としてビデオが登場するのですが、お父さんが、金城君に「撮るな！」と言って、猛追撃していたくせに、お父さんは、そのくせ深夜こっそりビデオを笑いながら見ていて、それをドアの陰からこっそり見ている・・・
そして、お父さんの遺品を整理するシーンで、無骨男だったお父さんが写っているビデオを見ていると、生き生きと仕事をし、とびきりの笑顔を向けているから、たまりません。

そして、もう１つは、殺し屋のエピソード。
外見からするイメージと全く違ったところが、良かった。
殺し屋と同級生が、バスの中で偶然出会ったシーン、殺し屋は、本当はキメたかったのに、見破られてしまって過去を知られているので澄ましてもいられない。案外普通の男の子だったりして、何気ない設定が面白い。

言葉少なく、映像と音楽で見せるという表現方法は、なかなか難しいのではないでしょうか？
一歩間違うと、なんじゃこりゃぁ！素人とスレスレの線で、哀しみや、怒りの複雑な感情表現を距離感と温度差をうまく利用して実に上手く映像として表現していると思います。

金城君が、監督に愛されていることが、よく分かりますね。
自分にはナイーブで、他人には図太い感じの金城君が上手く撮れていると思います。
素敵な彼に見とれているうちに、映画は終わってしまいましたよ。

　どうしてウォン・カーウァイの作品が好きなのかわかった。
　この監督の描く孤独には言い訳がないんだ。偉大な天才だから孤独なんでもなく、経営者だから孤独なんでもなく、離婚したから孤独なんでもなく、死に別れたから孤独なんでもなく、彼の映画のキャラクターはみんな、この世に生まれてきたから孤独なんだ。
　でも、それって実は私たちのことなんだ。生まれてきた人はみんな、理解しがたい身勝手な他人の中で生きている。時には両親と言う名の他人や夫と言う名の、妻と言う名の、子供と言う名の他人の中で生きている。
　私も含めてみんな自分勝手だ。みんな自分の主観のレンズでゆがんだまま世間を眺めている。ドイルの撮影が主観的でとってもいい。
　みんな身勝手で主観的なんだけど、ウォン・カーウァイはその身勝手な孤独な生き物たちをとてもきれいに見せてくれる。私も自分の身勝手や濃いい主観をこの映画を見たら許せそうな気がするな。

「天使の涙」は技巧に振り回された酷く居心地の悪い作品だ。極端な広角を始めとする多様なレンズ、手持ちにジャンプカット、目もくらむような多彩なアングル、シュール&クールで不可思議な物語展開。まるで技法と目新しさの博物館のような作品なのだが、こうした構成からもわかるように一見前衛風でありながら作り出されたものは古臭ささえ感じてしまう紋切り型の代物だ。そして、酷く退屈だ。この退屈さと古色蒼然さは例えばタランティーノやチャン・イーモウと共通したものを感じるが、「欲望の翼」や「花様年華」で見せた造形的なセンスが仄かに感じられるためかろうじて最後まで見通すことはできた。まあ、かなり我慢はしたが。しかし、恐らくこの造形的なセンスこそがウォン・カーウァイないしは「天使の涙」的な作品のもっとも課題とすべき事なのだろう。つまり、「天使の涙」はウォン・カーウァイの「映像主義」が行き着いた一つの帰結点だと思うのだ。映像主義を耽美主義だとか審美主義だとか言い換えてもかまわないだろうが、造形的な美しさに耽溺しすぎることにより陥ってしまうある種の病のようなものだと思う。まあ、ウォン・カーウァイの場合はこれより後の作品である「花様年華」では危うさぎりぎりの線で押さえる作品を成し得ているのだから、本作品(の系統の作品)はもしかしたら確信犯的なものなのかもしれないが。

眩しい、暗い、寒い、痛い、暖かい、柔らかい、ざらざらしている。そんな、感触を楽しむ映画だと思います。

この映画にストーリーは必要あるのかな？
ないような気がします。良いと思えばそれでいいし、肌に合わないなら、それもそれでまたいい。料理と同じく、好みですね。

監督らしい雰囲気がやっぱりいい。どのカットもレトロでちょっと退廃的、明るいのに暗い。鮮やかな映像と音楽で惹き付けつつ、短く印象的な場面を小気味良く切り替えていくのも好きだ。
音楽と同じようにテンポよく配置された台詞、声。そして、それのリフレイン。流れに淀みがなく、綺麗で観やすい。

限りなく稀薄な『自分』の存在を必死に確認しながら、他人だらけの世界をふわふわと泳ぎ渡っていく魚みたいな登場人物たちも魅力的。しっかりした物語や理詰めの感動はないけれど、切ない。じわりじわりと感情を直に刺激される。

細切れのエピソードや場面のパッチワーク。
登場人物と一緒に、フィルムの続く間だけ、あの街の刹那的な快楽、哀しみや孤独を味わい、共有できる映画です。

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これぞウォン・カーウァイ！

目の眩む様なスピードの中に、監督お得意の単純な様でいて、そのクセ微妙で複雑な人間関係が絡み合います。
思いっきり前衛的であり乍ら、実は根っこには泥臭いクラシックな雰囲気さえ感じる、監督独自の世界です。

本作では随所でアンマッチな対比が面白く、楽しめます。

欧米的美貌のミシェル・リーを黒髪にして、クールな女性に。
（『ヒーリング・ハート』等ノーマルな現代劇では全く魅力が出ませんが、この彼女は素敵です。存在が非日常的なんでしょうか？）
東洋的丸顔のカレン・モクをブロンドにして、キュートで騒々しい女性に。

素朴な風貌のレオン・ライをアウトローの殺し屋に。
現代的ルックスの金城武を口のきけない三枚目の青年に。

チャーリー・ヤンは独りで二つの顔を対比させています。
片想いの男との電話では、媚びた表情と優しい声音。
自分を出し抜いた女友達とは、歪んだ表情に攻撃的な口調。

そしてごく単純なところでは、金城武と父親の対比。
ビジュアル的には、どう見ても親子に見えない組み合わせです。
でもこの二人の親子関係は、ほのぼのと温かく素敵です。

「期限切れのパイナップル缶」は『恋する惑星』から繋がるエピソード。
人間関係にも使われる、面白い表現です。
因みに「期限切れ」には２つの表示があります。
「賞味期限」は「この日迄は美味しく食べられますよ」の表示。
「消費期限」は「この日を過ぎると健康被害があっても責任持ちませんよ」の表示です。
彼らと彼女達の場合は、どっちだったんでしょう？

彼女を乗せて疾走するバイク。
その圧倒的なスピード感。
お尻がキュッと締まって、身体がフワッと宙に浮くこの感覚。
非日常に連れて行ってくれる、幸せな時間です。

私のウォン・カーウァイ監督への「期限」は当分来そうにありません。