バベットの晩餐会

デンマークの貧しい農村地帯に、パリコミューンで夫や子供を失った女性がやってきます。
教会の貧しい姉妹のもとで、家政婦になった女性。
思わぬことで手にした大金で、村人を招いて晩餐会を開く、ストーリーにしてしまえばそれだけなのですが、まるで絵画の名作のように深く、美しく、重みのある世界。
見終わった後、なんともいえない幸せな気持ちで、心が満たされます。

在庫がたった一枚ですが、それでも待っていたくなる、そんな映画です。

このDVDは廃盤になっているので今やプレミアがついてとても手に入れられないような値がついています。
本当は購入して何度も見たいほどすばらしい映画です。

デンマークの寒村での出来事が静かに美しく描かれていますが、映画のタイトルにある晩餐会に出てくるフランス料理がまたすばらしいのです。
今では日本でも有名になったシャンパンのヴーヴクリコが初めて日本に紹介されるきっかけになったと聞いています。映画公開当時銀座のホテル西洋でこの晩餐会と同じメニューを食すイベントがありました。

派手な演出はありませんが、何回見ても見終わると心が洗われたような清らかな気持ちになり、ポロッと一粒涙がこぼれるような本当によい映画です。

映画会社にはこういういい映画こそ是非デジタルマスター版で再販してくれたらと思います。

ミニシアター全盛期、こぞってヨーロッパ作品が上映されて映画通の女子学生やＯＬさんで館内は賑わってましたね。
本作も当時話題だった作品の一つでした。私も映画好きの女友達から勧められて観てみました。
しかし、退屈でつまらなかった記憶があります。
淡々と進行するシナリオで、劇的なエピソードもないし・・・
身寄りのない主人公のバベットが、クジで当選した大金はたいて、贅沢な食卓を恩人にプレゼントするだけなんです。風景や映像の美しさを味わうのも本作の見所かもしれませんが、やはり映画はシナリオ次第と思っている私にとっては、起伏の少ない演出や展開は厳しいです。
しかも、料理のシーンが意外に生々しいんです。小鳥の首をナイフで切ってるシーンとか、ちょっと気持ち悪かったですね。海がめスープも美味しそうに見えなかったし（笑

観終わって何も感じず、私のツボにはハマりませんでした。ごめんなさい。

　何と美しい映画だろう。静かな余韻が残り、心が満たされていく。

　便利で快適でカラフルな現代生活のなかで、私たちが見失ってしまいがちな何か、物質的には貧しいけれども心豊かな生き方、素朴で清廉で慎ましやかな信仰に生きる生活が、淡々と描写される。こうしてキリスト教は、人々の日々の精神の糧となって息づいてきたのだろうと感じさせられる。

　牧師の生誕100年を祝した晩餐会の場面は圧巻だ。ここでもフランス料理の真髄であり原点とも思える、時間と手間と本物の素材を惜しげもなく使った芸術的な料理の数々が、本物のシェフの鮮やかな手際で次々と調理され、最高級のワインとともに食卓へと運ばれる。その真価がわからない人々に供されるからこそ、このすばらしい料理がいっそう輝きを増すというパラドックス。ことばは不要だ。画面からでも、この晩餐が彼らにとっていかに至福の時であったかが伝わってくる描写は見事だ。彼らの何という満ち足りた様子。この贅を尽くした食事はまた聖餐でもある。「神の栄光は等しく与えられる。」バベットにとって、饗宴は芸術的行為であると同時に宗教的行為でもあったのではないだろうか。彼女の、世俗から離れた、穏やかで澄んだ秘められた意志を感じる。

　この映画自体が、まるでバベットの晩餐のように、至福であり最高の贅沢だ。

清廉な人々の、はじめて経験する夢のような晩餐会は、純粋な思いが繋ぐ奇蹟のような一夜。
贅を極めたフルコースに、姉妹と村人たちは、はじめ戸惑いを隠せない。しかし、その料理を完璧に解するゆいいつの客人・将軍ローレンスの振る舞いに導かれるように、やがて彼らも人生初の食の悦びを享受していく。
ストイックであることを刷り込まれた客人たちは、贅沢な食事に素直に「美味しい」と言えない・・・・摩訶複雑な表情にクスッと笑いがこぼれた。

とにかく、フランス料理の様式の美と、バベットの作り出す品々が魅力的でしかたない。バベットはパリ・コミューン以前、名店『カフェ・アングレ』のシェフだったのだ。
言葉も生活様式も違うこの土地で、失意の底から立ち直ることができたのは姉妹のおかげ。
姉妹の誠実さが、恋した男たちのその後の人生を変えて、そしてバベットを救った。そのバベットの純粋な感謝が、敬虔な村人たちの老齢によるひがみを溶かし、ローレンスの昔の恋を悔いのない奇麗な思い出に変えていく。
たった100分のなかに、どれほど時の流れロマンとロマンスを感じただろう。こんなにも芳醇な感慨を得られる作品は、めったに出会うことができない。