小さな兵隊

ゴダール監督の『勝手にしやがれ』に次ぐ長編2作目。
アンナ・カリーナが初めて主演したゴダール作品。
とても渋い印象の映画です。
アルジェリア独立問題という複雑な背景はあるものの、
目を奪われるのはやっぱりアンナ・カリーナ。
この映画の中だけでもどんどん可愛くなっていきますね。
ちょっとフワフワのスカートに、ペタンコ靴、シンプルなセーター、
音楽がかかった途端踊り出す。
可愛いなぁ。
この時の会話が好きです。
“バッハは朝8時、モーツァルトは夜8時
　ベートーヴェンは真夜中・・・”
ハイドンで踊るヴェロニカ（アンナ）がたまらなく可愛い。
あと、やっぱり思い出すのは椅子に座るヴェロニカと机の上の一輪の花。
あの場面だけ時が止まった写真のよう。
この映画ではヴェロニカがずっと鏡に向かってる。
その姿に可愛いなぁと視線を送る。
でもその視線ってゴダール監督の視線でもあるのかな。
拷問のシーンが妙に陰湿で、ちょっと暗くじとっとした印象。
でもその中でアンナ・カリーナがとても鮮烈な印象を残す映画です。

「小さな兵隊」（1960、フランス、白黒、119分）。
ゴダール（1930生）の「勝手にしやがれ」（1959）に続く第２長編です。白黒撮影はラウル・クタール（1924〜2016）。
ゴダール作品はディスカスでも人気ですが、この作品は名作なのに、なぜか空白領域になっていて、すぐに借りられます。主演はアンナ・カリーナ（1940〜2019）です。ゴダールとカリーナはこの映画の撮影後に結婚、「気狂いピエロ」（1965）の撮影後に離婚しますが、映画の協働は「未来展望」（1967、６人の監督によるオムニバス「愛すべき女（め）女（め）たち）」中の１編」まで続きます。

スイスのジュネーヴで、報道カメラマン「ブリュノ（ブルーノ）」（ミシェル・シュボール）は、「ヴェロニカ」（アンナ・カリーナ）という女性と会った。彼女は彼のホテルの部屋でモーツァルトの音楽に合わせて天真爛漫にバレエを踊る娘だった。「ブリュノ」はカメラマンの仕事で欧州を動き回っているが、フランスの極右秘密組織「ＯＡＳ」の情報収集の仕事もしていた。いま、組織を裏切っているのではないかと疑われ、「ＯＡＳ」の幹部から、組織に不利益な記事を書いている「パリヴォダ」という匿名ジャーナリストの暗殺を命じられた。拒否するが、彼は軍隊から脱走した秘密を握られていた。彼は「ヴェロニカ」を連れて逃走する。暗殺に失敗した「ブリュノ」は、「ＯＡＳ」の対立組織「ＦＬＮ」(アルジェリア民族解放戦線)のスパイに捕まり、拷問される。
1954年から1962年までのアルジェリア独立戦争は、植民地になっていたアルジェリアが、植民するフランスから独立しようとする戦争だった。東側はソ連、中国などの主要国が独立側を支援、北アフリカ諸国も独立側を支援。──「支援」は参戦ではありません。──フランス側を支援したのは、国家としてはスペイン（フランコ政権）、イスラエル、南アフリカ共和国ですが、対抗上、ＮＡＴＯ軍が支援に入り、均衡が保たれたましたが、かなり危うい状況だったのです。「アルジェの戦い」（1966）は戦後に作られた映画ですが、ゴダールは交戦中の真っただ中で、この映画を作ったことになります。フランス国内にも「ＯＡＳ」派、「ＦＬＮ」派がいて、どちらにも参加しない、興味がない、反戦、平和を叫ぶ人のほうが圧倒的に多かったでしょう。

「後悔が自由の始まりだった」という意味深な、よく考えると意味不明なことを「ブリュノ」はつぶやきます。彼も大多数の若者と同様、ノンポリであり、軍隊逃亡という弱みを摑まれ動かざるを得なかった男ですが、自分がこの立場だったら、どんな行動をできたであろうか、と考えると、背筋に冷たい汗が流れそうです。
ゴダールはこの映画でも、自然にオーディオ・コメンタリーのような形態で、「キャメラマンのラウル・クタールがよく言う──“最悪の事態”だ　撃とうとするたびに邪魔が入る」というつぶやき解説を入れています。
──「ブリュノ」は撃てない。今は。

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「行動の時は終わった」という台詞で始まるゴダールの2作目。不協和音のピアノとぶっきらぼうなつなぎが情報機関が入り乱れるジュネーブの街を不穏に切り取る。
　ブリュノ（ミシェル・シュボール）はフランス通信社の記者、実は諜報員、そして脱走兵。どこかジョニー・デップに似ている彼は、組織から某人物の暗殺を指令されているが、なんだかんだと逃げ回っている。
「暗い青空がパウル・クレーの絵のようだ」
「それよりも可愛い娘、レスリー・キャロンみたいな娘がいる。君はきっと五分で恋をする」
　恋なんかしやしないと言ったものの、ものの見事に恋してしまう。
　ヴェロニカ・ドライヤーという役名が微笑ましいアンナ・カリーナがゴダール映画に初登場。最初は遠目に、続いて車内の「後ろ頭」、取り出した鏡に垣間見える表情――って、『女と男のいる舗道』のオープニングにそっくりじゃないか。ゴダールはおずおずとアンナに近づく。ドライヤーは『裁かるるジャンヌ』のドライヤーからもらった。デンマーク出身のアンナ・カリーナにはドライヤーとの接点があったからだ。
　ブリュノとヴェロニカの室内での長いやり取りは、『勝手にしやがれ』を彷彿とさせるが、それには劣る。ゴダールのカリーナへの距離感がどうやら、「恋」のそれだからだ。水着を撮らせたことがあるんだろう、裸を見せるのは嫌い？　と迫るブリュノの台詞は、『勝手にしやがれ』の端役をヌードがあるからと言って断ったアンナ・カリーナへのあてつけか、いやふたりの出会いの再現なのだから。
　背景にあるアルジェリア問題はもはやない（別の形で噴出はしているけれど）。ゴダールは二作目でぐっと作品に政治性を押し出してきた。制作当時に進行している社会問題を重要なモチーフとしているのだが、それは消えてしまった。後に残ったものは？　
　それは恋だ、政治が消えて、60年代ゴダールの映画はかえって純粋な恋愛映画になったのだと言ったのは、トリュフォーの言葉を山田宏一氏が伝えていたのだったか。
写真引換券の暗号指令などの小技を楽しみ、過剰に内面を語るナレーションに気圧され、大好きな女性に「寝るつもりがないなら腕をとるな」と言い放つええかっこしいに苦笑し、ドラマチックにはけっして描かれないヴェロニカの運命に涙する。75点。

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