氷点

病院長・啓造の長女ルリ子が殺害され、犯人は獄中で自殺した。
啓造は、ルリ子が殺害された時、妻・夏枝が村井医師と過ごしていたことに
嫉妬と怒りを覚え、ある企みを実行する。
犯人の遺児・陽子を引き取り、何も知らない夏枝に養育させたのだ。
数年後、啓造の企みを知った夏枝は、陽子に辛くあたるのだった…

山本薩夫監督作品。三浦綾子原作「氷点」を映画化した。
心正しき少女・陽子が、自分の中に罪を見出した時…
「原罪」をテーマにした高邁な作品だが、ドロドロで下世話な物語だ。
現在の価値観で視聴すると、引っかかる部分もある。
原作に登場した外国人宣教師や聖書への言及等が割愛され、宗教的要素が薄まった。

啓造（船越英二）は人格者然としているが、実は嫉妬深く陰湿な人物だ。
夏枝が村井医師と姦淫した（実際にはしていない）と確信して嫉妬懊悩する。
だが、夏枝に問い質すこともなく、彼女に陰湿な企みをしかけた。
乳児院の高木医師には「陽子を養女にするのは『汝の敵を愛せの精神』だ」と説明する。
罪深い…

陽子の出自を知った夏枝（若尾文子）は、彼女に辛く当たる。
ルリ子の死に何の責任もない陽子が気の毒だが、夏枝も哀れだと思う。
美貌を誇る夏枝は、若い男に媚態を見せる俗っぽい一面を持つ。
親子ほど年齢差のある大学生・北原（津川雅彦）と二人きりで会食した夏枝は
「私たち、何に見えるでしょう（ウフッ）」とか言い出す。
めんどくせーな…
しかし、北原は夏枝を瞬殺で拒否するのだった。北原、お前ｗ

夏枝と啓造の長男・徹（山本圭）は、血の繋がらない妹・陽子を愛している。
おっとり優等生風、幸薄そうな優しい風貌で応援したくなった。
夏枝の友人で日舞の師匠・辰子（森光子）が、さばけた物言いの人格者。
日本舞踊シーンが巧みで、本物感があった。

物語の舞台は北海道、旭川市郊外。
原作には「見本林」という記述があり、バンクシャ松、ドイツトーヒ、
欧州アカマツといった種名の響きに情緒があった。
本作でも雪原を流れる川、冬木立、旭川雪まつり、アイヌ舞踊など、
旭川の風景が物語を引き立てていた。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

新聞連載小説というものを初めて読んだのがこの原作で、TV放送も時々見ていました。夏枝が新珠美千代、夫が芦田信介、陽子が内藤陽子、叔母が市原悦子だったかな。何と言っても新珠美千代が怖くて、以後彼女を見るたびに夏枝がチラついてしまいます。あと覚えているのは内藤陽子がもの凄く大根だったことくらいか。
この映画を見て意外だったのは、僕の中では「氷点」は原罪がテーマという記憶があったのですが、あまりその点が表面に出てこないところです。
昔は陽子と夏枝を中心に見ていたので意識していなかったのですが、今見るとこの亭主はとんでもない男で、相当にサディスティックに歪んでいますね。映画を見ると殺された娘に対する愛情というより妻への復讐心しか感じられず、かなり引いてしまうところがあります。
若尾文子には新珠美千代ほどの怖さはなかった、というかいじめの場面が少ないし。でも、息子の友人に妖しく媚を売ったり、なびかんばかりの風情を見せたり、陽子とその友人の交際宣言に対し逆上するところなどは凄みはありました。
結局のところは、時間の制約により細やかな心理描写に欠け、どうしてもダイジェスト版という印象を受けてしまいます。
僕は、若尾文子目当てで見たので不満はありません。

氷点（１９６６年、日本・大映、モノクロ、９７分）

北海道・旭川市出身の作家、三浦綾子さんの同名小説を映画化したものですが、映画よりもテレビドラマのほうが有名かもしれませんね。
私がいわゆる三浦綾子文学に初めて触れたのは、「塩狩峠」（１９６８年・新潮社）でした。
クリスチャン作家である彼女は、明治時代に起きた実際の列車事故を題材にして「塩狩峠」を執筆しました。主人公の若き鉄道員が乗った列車が塩狩峠に差し掛かったとき事故が発生、キリスト教信者でもある彼は、自ら犠牲となって多くの乗客の命を救った．．．そういう筋立てでした。

さて、この「氷点」を観ることにしたのは、三浦綾子さん原作に加え、監督が社会派の山本薩夫であることでした。実は、もう一つ理由があるのですが、それは後半に記すことにします。

昭和２１年のこと。
旭川市の内科医・辻口啓造（船越英二）と妻夏枝（若尾文子）の間には、２人の子供（長男・徹と長女・ルリ子）がいたが、３歳のルリ子が殺害される。啓造は、自分の病院に勤める内科医の村井（成田三樹夫）と夏枝が密会していたときにルリ子を亡くしたことで、妻の夏枝に復讐心を抱いていた。ルリ子の代わりの女の子が欲しいという夏枝に、啓造は、ルリ子殺害の犯人の娘とされる陽子（妻には、それとは知らせず）を引き取り育てることにする。成長した陽子（大楠道代）は明るく素直で、大学生になった徹（山本圭）とも仲が良かった。だが、陽子出生の秘密が徐々に明らかとなる中、啓造、夏枝、徹の３人は、それぞれの自我を通す言動が目立ちはじめる。そんなある日、陽子が自殺未遂を起こす．．．。

安定したキャスティングで、本編最後に紹介されるクレジットは次の順で流れます。
若尾文子、安田道代（この頃はまだ大楠道代ではない）、山本圭、津川雅彦、森光子、船越英二、成田三樹夫、鈴木瑞穂、明星雅子．．．といった具合。
ファンである成田三樹夫がもう少し活躍すると期待したのですが、前半でほぼ姿を消してしまいました。
若尾文子の演技力よりも、大楠道代のはつらつとした表情に魅了され、若尾の陰、大楠の陽、その対比が効果的で、映画の骨幹を成していたような気がします。

前述の、‘この映画を観ることにしたもう一つの理由’
それは、旭川が舞台。
私事ですが、北海道が大好きで、旭川を含め、道南、道東、道北と、もう何度訪れたか数えきれません。
プライベートよりも仕事で訪れたことのほうが断然多かったのですが、多くの都市や観光地に思い出は尽きません。本編では「旭川の冬まつり」が登場しますし、アイヌの古典舞踊が出てきたときには、思わず画面に食い入るように見ました。白老を訪れたときに、何度か見学しました。

旭川から比較的近くに、美瑛、白金温泉があります。美瑛は最近は観光化しすぎて足が遠のいていますが、昔はパッチワークだけでなく、北海道らしさを感じる様々な原風景が好きでした。
白金温泉には、訪れるたびに泊まる宿がありました。温泉の質が良く、望岳台から眺める雄大な十勝岳連邦のパノラマは絶景です。

いくらでも喋ってしまいそうなのでこれで終わりにしますが、「氷点」を観てよかったと思いました。
「汝の敵を愛せよ」．．．映画に何度か登場する 言葉です。

連続ドラマで、もっといびるシーンが多かったとの親の意見。
白黒ながらも充分に見られる作品。
面白かった。

原作にくらべると，ドロドロとしたシーンが
少なかったのですが映画ならではの演出と俳優の熱演が
光っていました！特に主演・若尾文子さんの演技は
原作の夏枝そのままで素晴らしかったです！！