暗黒街の弾痕

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

邦題から受けるイメージはギャングものだけど、ボニーとクライドなんですね、これ。よい映画です。
　面白い場面はいっぱいあるんですが、ガスで銀行襲撃するとこなんてすごいアクションだし、扇形に広がる刑務所の鉄格子の影なんて、息をのみますね。paroleさんご指摘の霧の中の脱獄シーンも実に素晴らしい。
　そのほか僕がとても好きなのは、この作品はアップ、ことにヘンリー・フォンダのアップが実にいいんです。もう死刑が避けられないと覚悟を決めたフォンダが、面会してきた恋人シルヴィア・シドニーに「銃を手に入れろ」というところ。右、左とゆっくり眼球を動かしたあと、まっすぐ恋人を見つめる眼の力強さ。フォンダはこのとき無実を主張しているわけだけど、ここで凶暴な本性がふいっと表れる。
　終盤、逃避行に入ってのシドニーが実にけなげで泣けてきます。８０点。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

なんととラングの『暗黒街の弾痕』までがとうとうリストに載ってしまった。クロード・シャブロルの『いとこ同士』も同時に在庫されていたし、ジャケットを見る限りは両作品ともIVCのもののようなので、もしかしたらいよいよIVCがレンタル許諾を開始したと言うことなのかも知れない。だとするなら早速リクエストしなくちゃ。マスターの品質には今一つ問題がある(ことが多い)IVCだけれど、エイゼンシュテインやプドフキンやドヴジェンコはIVCからしか発売されていないし、タルコフスキーやキートン、ドイツ表現主義、フランスの詩的リアリズム、黄金時代以前のハリウッド作品などIVCならではの作品が山ほどあるのだ。

フリッツ・ラングのハリウッド時代の代表作の一つと言っても良いであろう『暗黒街の弾痕』は、中盤過ぎに物語が急展開するまでは教科書通りのB級フィルム・ノワールと言った感じでともすれば飽きを感じてしまうようなものなのだが、主人公が冤罪により無罪の罪で刑務所に収容された中盤以降に変化が起こり、一転してスリリングな画面が展開し始める。霧深い刑務所の中で恩人である刑務所付きの牧師を追っ手と間違えて殺害してしまうシーンがその転回点と言えるのだが、人物達の認定さえうまく出来ないほどの霧がまるで異次元への扉の役割を担っているようであり、霧の深さと鮮やかとすら言えるその変化の様がなんとも美しく感動的だ。

DISCASに在庫されている『復讐は俺に任せろ』や『仕組まれた罠』と言った職人技的な作品と比べると、表現主義時代の色濃さを感じることができ、作家性もより強いように感じるので、『死刑執行人もまた死す』と並んでハリウッド時代のラングの作品の中では最も好きな作品だ。そう言えば、『死刑執行人もまた死す』の発売元もIVC。早速これもリクエストしなければ・・・。

ボニーとクライドなんでしょうね。これ。
ただ　私は外聞でしか知らないので　
イメージしたのが成瀬監督の「浮雲」でした。

どんなに愛を語り合っても
鉄格子の中で垣間見せる表情の凄味が消えないんです。
この顔を見たことがあるからこそ　きっと周りは
改心を信じきれないんだろうって確信してしまうような目つき。
冷酷な核が覗く　そのときを。

彼が本当に愛を信じたのは　最後の最後じゃないかって
そんな風に思ってしまいました。

　ロキュの69日連続レビュー　�V　　第５４日

( ネタばれあり　)

僕は最近までシルヴィア・シドニーという女優のことを知りませんでした。
ジェームズ・ボールドウィンの映画批評エッセイ「　悪魔が映画をつくった　」を読んで、彼女を知り興味を抱いて、『　激怒　』『　暗黒街の弾痕　』『　迷子の大人たち　』を観ました。

そのうち『　激怒　』『　暗黒街の弾痕　』を観て、ボールドウィンが「　現実を喚起させる唯一のアメリカ映画の女優　」「　共感し、思い入れがある女優　」として挙げている所以がよくわかりました。
この2作品とも愛する男性が社会から理不尽な扱いを受けたとき、彼に寄り添い、力になろうとする女性を演じていて、そのひたむきさ、健気さに僕も胸を打たれました。
本作はボニーとクライドがモデルと言われ、言わばアウトローの道行きであり、フィルムノワールの代表格として、クラシックとされているのですね。

原題は『　You Only Live Once　』で、「　人生は一度きり　」という意味は、一般には「　後悔のない人生を送れ　」と前向きに取られる言葉です。
でも、本作で、主人公エディ・テイラー( ヘンリー・フォンダ　)は人生をやり直そうとしますが、前科者のレッテルを張られてチャンスを奪われ、濡れ衣を着せられて、誰も信じられなくなり、人生に行き詰ってしまいます。
「　人生は一度きり　」は本作では、「　不条理だろうと、それがお前のの人生なんだ。　烙印は一生付いて回り、セカンド・チャンスはない。　」とアイロニーをこめた、閉塞的なニュアンスとなっているのです。

さらにネタバレですが、牧師の声で「　門は開かれている　」というラストは、「死んだあの世では」ということで、「　現世では、君たちには門は閉ざされている　」という皮肉なものとなってます。
ジェームズ・ボールドウィンが、黒人の現実の人生はまさにそうだ、と共感するのはその点なのでしょう。

ところで、『　OO７は二度死ぬ　』の原題は『　You Only Live Twice　』ですが、フィルム・ノワールのクラシックである本作から、いただいたタイトルでしょうか。

３０年代ハリウッドを代表する最高傑作のフィルム・ノワールでしょう。　監督がフリッツ・ラングとくれば、もう観るしかないですね。
３１年「Ｍ」、３６年「激怒」、４０年「地獄への逆襲」、４３年「死刑執行人もまた死す」、４４年「恐怖省」、５２年「無頼の谷」、５３年「復讐は俺に任せろ」等々、どれも素晴らしかったです。

この映画は、３６年「激怒」に続くラング監督渡米第２作品目ですが、何といっても撮影監督のレオン・シャムロイのカメラワークが最高です。銀行襲撃場面の、車をたたきつけるような豪雨、その車の運転席に潜む‘瞳’の恐ろしさ、霧の中のシーンや、刑務所内での光と影の映像美、どれも息をのむショットばかりです。

若かりしシルヴィア・シドニーの潤んだ瞳が魅力的で、ヘンリー・フォンダの無実を真正面から訴える目とうまく合致して、恋愛映画のジャンルにも十分入る名作です。（邦題とは合わないけれど．．．）