シラノ・ド・ベルジュラック

ロクサーヌ　・・ひどい♀　どこの世にも次元にもどこの陸にもいるあの手合い。
気づかぬふりを自然体として身につけているから、罪の意識も奢りの感情もない。
ない　から、始末しきれない。したたかに淑やかに繁殖し続ける。今世　次世　来世　虎視眈々と。
シラノの読む詩は、言葉意味はわからなくても詩体を作っているなにかが伝わってきた。
とってつけたような鼻のおかげで俳優　ジェラール・ドパルデューの顔が優しく見えた。
ラストの真実は彼女には勿体ないけど、美しいシーン。
いつもうっとおしく感じていた羽飾りのふわふわが剣先のように見えた。

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３人の男女の物語にしてこれほど叙情的で
これほど文学的でこんなにも切なく
時代を超えて想いをはせることのできる物語があったなんて
と、この映画に感動したことを今でも覚えている

シラノ
孤高の天才詩人であり哲学者　
権力に立ち向かう正義感の持ち主　その上　剣は一流　
連隊の隊長である彼の帽子には　志の象徴であるかのように凛とした羽飾りが風になびいている
ただ彼には唯一にして最大のコンプレックスがある
それは異様に大きく巨大化した彼自身の鼻

ロクサーヌ
美しく可憐であり　シラノが秘かに想いを寄せる愛の象徴
それを知らない彼女はシラノを兄と慕い　自身の恋の相談を始める

クリスチャン
ロクサーヌが想いを寄せる容姿端麗な青年
クリスチャンもまたロクサーヌに恋をしている
ただ端正な容姿とは別に　驚くほど恋に奥手で不器用
ラブレターの一通も　気持ちを伝える美しい言葉の一つも自ら発することができない

シラノは愛するロクサーヌの為　二人の仲をとりもとうと紛争する
戦地に赴くも勇ましく戦い　隊長として連隊を指揮
隊員の一人でもあるクリスチャンを庇いながら　彼の変わりにラブレターを代筆
敵軍を交わしながら手紙を届け　ロクサーヌへの愛の言葉を送り続ける

命がけで届けられるその手紙　それはシラノの気持ちそのものである
しかしそれはクリスチャンの名で送られる
シラノの言葉にして彼の手紙ではない

シラノの魂は気高く美しい

彼の体は大きく豪快で自身に満ち溢れている
剣さばきも巧みで右に出るものはいない
権力に立ち向かう糧は　友情と己の強い精神　そして揺ぎ無い哲学にある
そんな彼がひとたび筆を握れば
溢れ出す　詩的で美しい言葉の数々

劇中　シラノを演じるジェラール・ドパルデュー
彼の作品は相当数観ているけれど
この役以上に彼を賛美できるものがない
私の中のシラノは彼しかいない

私はこの映画、そして小説のラストシーンを
とにかく気に入っている

薄暗い景色の中　
シラノは独白する
最期の力を振り絞って発する自らの誇り
そしてそれを見守る間に真実を知り
暗闇から光を見出すようなロクサーヌの表情

瀕死の状態の中立ち上がり　暗闇に向かって剣を振りかざす
彼は死という最後の敵に立ち向かう

その暗闇の中で彼が見たものは
今まで彼が戦ってきた　偏見　卑怯　虚偽の亡者　
それらが崇高な魂を奪い取ろうと襲ってくる
彼は朦朧とする意識の中　あるだけの力を振り絞りそれらと戦っているのだ

彼は車輪のように剣を振りかざし
こう叫ぶ「貴様達は俺のものを皆奪る気だな、桂の冠もバラの花も！
　さあ奪れ！だがなお気の毒だが、貴様達にはどうしたって奪りきれぬ
　いいものを、俺はあの世に持っていくのだ。
　それも今夜だ、俺の永遠の幸福で蒼空の道、広々と掃き清め、
　紙のふところに入る道すがら、はばかりながら皺一つ
　汚点一つつけずに持っていくのだ、他でもない、それは・・・・・」

ロクサーヌが「それは？」と聞き返す

シラノ最期の言葉にして
彼の生き方

「私の羽飾り（こころいき）だ」

＊台詞は岩波文庫シラノ・ド・ベルジュラックより引用

古典が退屈させない脚本で丁寧に作られています。何と言ってもシラノ。ドパルデューは元からシラノだったんじゃないかって位のはまり役。ギシュ伯爵も中々。

戯曲っぽい台詞回しに抵抗がないなら、諸手オススメ

戯曲の古典的作品だとのことで名前は聞いたことあるけど、中身を知らないまま観ていました。なかなかにいい。設定されている時代の雰囲気がよく出ているし、役者たちもいかにもって感じで素敵だ。

長鼻のシラノは、そこまで言うほどブ男なんだろうかと思ってしまうけど、だからこそ超人的活躍をするところがいいですね。そして、彼の恋。超絶不器用な男ですから・・・って感じで、観ていてもどかしく感じてしまう。それは観ている方が男だからかなぁ。

女性陣はこれ観て「ここまで愛してくれる人、でもブ男」という設定を、どう感じるんでしょう。「いいとは思うけど、やっぱり顔もね・・・物語なんだから、そうあってほしいな」ってなるのかな。「美女と野獣」みたいなのが多分、理想だろうね。

フランス人が好きなキャラクターのアンケートをとると常連は決まっているという。
ダルタニャン、ジャン・バルジャン、
そして、なんといってもシラノ・ド・ベルジュラック！

彼らはいずれも勇気ある男たちだが、中でもシラノは一味違う。

友情に篤く、虎のように勇猛果敢、そして哲学や天文学、詩もに通じる文武両道。
剣を振り回しながらでも気の利いたセリフをすらすらと思いついて
周囲を笑わせたりするくせに、
愛するロクサーヌの前ではコチンコチンになる恥ずかしがり屋さんだ。
その外見からくるコンプレックスゆえに。

本作のドパルデューはまさにシラノが原作から飛び出してきたかのよう。
この実在の英雄を華やかに、かわいらしく（いや、本当に）演じ、観るものを惹きつける。

この映画はもう何度観ただろう。
sautet さんのレビューにもある、岩波からの引用、
終幕にあたる死神への長台詞はとても切ない。
映画でも、シラノが修道院のロクサーヌを訪れるあたりから、
いつもボロボロと涙が出て困ってしまう。
プレシューズを気取るくせに、こんないい男に気づかないロクサーヌは大馬鹿者だ。
そして外見を愛されたと苦しむクリスチャンもなんて辛いんだろう。

この物語（映画も原作も）は、美しい言葉で満ちている。
皮肉、罵倒、かけひき、そして影として語りかける愛の多彩な表現。
自国の言語への誇りを持ち、愛を重んじるフランス人の気概だろうか。

ただ、言葉以上にしみわたってくるのは、シラノが大事に守り続ける
男らしい生き様と心意気＝一点の汚れもない羽根飾り　だ。
果たして自分にこのような羽根飾りはあるだろうか？　
ないから憧れるんだな。。。ははは。

シラノのかっこよさは大正時代に既に日本に伝わり、
「白野弁十郎」として最近も上演されているようですね。
（ロクサーヌ：千種、クリスチャン：来栖　って。。。）
日本人の方がより義理人情にしばられて大変そう。見た事ないけど。
いや、やっぱ、シラノの映画の方が絶対いいはず。