ピグマリオン

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ミュージカル『マイ・フェア・レディ』の原作戯曲の映画化。　ストレート・プレイです。
見比べるとなかなかにおもしろいです。

ヒロイン・イライザを演じたのは、『マイ・フェア・レディ』のブロードウェイの舞台ではジュリー・アンドリュース、映画ではオードリー・ヘップバーンでした。
本作で演じるのは、ウェンディー・ヒラーで、映画初主演、オスカーにノミネートされました。

主に舞台で活躍した女優さんで、日本で言うと杉村春子に相当するでしょうか。
映画では『わが命つきるとも』とか『オリエント急行殺人事件』など、年をとってからの貫禄ある姿しかしりませんでしたが、本作では当時２６歳。　こんな若いときもあったんだ。　(当たり前)
初々しいが、さすがにうまい。

上記の二人のイライザに比べると、美人ではないですね。(失礼)
「淑女」になってからも、ファルコン(『ネバー・エンディング・ストーリー』の・・・)かと思ってしまいました。　　(重ねて、失礼) 愛らしいですがね・・・。

ヒギンズ教授を演じるのは、レスリー・ハワード(共同監督も)。
優柔不断なやさ男の『風と共に去りぬ』のアシュレーしか知りませんでしたが、今回はがらっとキャラが変わって、いつまでも大人になれないガキですね。
そこが大人の貫禄のあるレックス・ハリソンのヒギンズ教授よりもおもしろい。

女性を自分好みに”調教”するのは、男の一つの願望でしょうが、そもそも自分のほうが言葉遣いも行儀も悪い独身貴族だし、母親に叱られてばかりいる駄々っ子のようです。
自分のほうがよっぽど教育が必要。(笑い)

そして、和田誠さんの「お楽しみはこれからだ」に紹介されているように、『フランケンシュタイン』と『マイ・フェア・レディ』は同じ話という考えがありますが、自分が創り育てたものが思い通りにならず、振り回される様はやはり面白い。
”調教”などと、そんな都合のいいことになるはずがない。　
むしろ逆にされてしまうのが普通です。(爆)

人間が人間をつくるおもしろさ。
言葉が人間を作り、言葉が人間を枠にはめるというおもしろさ。

そしてイライザとフレディという若い男が外でキスしようとすると、警官が「ここはパリではないぞ」と叱るところがツボでした。
今はさすがに違うでしょうが、それでもやはり男女関係にオープンなラテン系とちがう、イギリス人のオクテの、あるいはムッツリ・・な国民性、民族性に親近感を感じました。

監督：アンソニー・アスキス/レスリー・ハワード（1938年・英・96分・モノクロ）
脚本：ジョージ・バーナード・ショー
原作（戯曲）：ジョージ・バーナード・ショー『ピグマリオン』

ミュージカル映画『マイ・フェア・レディ』の元ネタと聞いて、観てみたい！と逸る気持ちを抑えて、まずは1964年版（オードリー・ヘプバーンがイライザ役）の復習をしました。
見比べてみたい事、確認したいことが沢山あって、ワクワクしました。
イライザ、ヒギンズ教授、ピカリング大佐、イライザの父親、ヒギンズ教授の母親、イライザに恋する青年フレディなど、登場人物はどんな感じ？
イライザの発音を矯正し、花売り娘からレディへの変身の過程は？
興味は尽きません。
本作でイライザを演じるのは、ウェンディ・ヒラ―で、当時26歳だったようです。
全体に地味で大人っぽい顔立ちで、確かに若いのですが、オードリーに比べると「華」が足りないのかな。
しかし、進歩はめざましく、舞踏会のシーンではすっかり美しくなって、ハンガリーのお姫様に間違えられる程です。
イライザがそこまで洗練されていくには、ヒギンズ教授（レスリー・ハワード）のスパルタ特訓がありました。
有名な発音訓練「the rain in Spain stays mainly in the plain」や
「in Hertford,Hereford,and Hampshire,hurricanes hardly ever happn」も出て来ます。
イライザの発音を録音するレコードの他に、オシロスコープも使っていました。
Hを正しく発音出来ているかを確認するロウソクのシーンなどもあり、『ピグマリオン』独自のシーンや、『マイ・フェア・レディ』で忠実に再現されているシーンを比較しながら楽しみました。
初めてのシーンには興味津々。お馴染みのシーンには何故か嬉しくなりました。
競馬場でのシーンがなくて、ヒギンズ教授の母親の家が、最初のお披露目のシーンになります。
イライザは、天気と健康だけを話題にするようヒギンズ教授に言われていたのですが、インフルエンザの話題で脱線して以前の言葉が出てしまい大失敗。
さらに大使館での舞踏会に向けての特訓が始まります。
舞踏会ではトランシルヴァニアの大使の息子にダンスを申し込まれます。その時、イライザのドレスの長い裾を左手に掛けて踊るのですが、本当に優雅で綺麗でした。
ヒギンズ教授は、自分の教育の成果に大満足、ピカリング大佐との賭けにも勝って悦に入っていますが、イライザは今後の事が不安でなりません。
物語冒頭、「ピグマリオン」とは神話上の人物で、彫刻が道楽だったこと。自分で彫った理想の女性像ガラティアに恋をし、神に祈って彫刻に生命を与えてもらったという説明のテロップがありました。
この後、その神話そっくりの展開が待っています。
よもや自分がイライザに…？と、どこまでも鈍感で横柄なヒギンズ教授です。（母親は、あんなに素敵な婦人なのに）
この教授こそ、紳士になるための教育を施されるべきでしょう。（笑）
イライザが言うように（名セリフなので、是非ご確認下さい）、ピカリング大佐は本物の紳士です。
とても楽しい見比べでした。大満足です。

昭和で言えば13年、そんな大昔に、こんなステキなラブロマンス映画を作ってしまうとは驚嘆です。
『マイ・フェア・レディ』の元ネタなわけですが
本作のイライザはオバサン顔で、正直なところ見た目はあまり可愛くはありません。
演じるのはウェンディ・ヒラーという方で
本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたようです。
そりゃあ、オードリー・ヘップバーンと比べたら誰でも見劣りはしちゃいますよね。
あまり可愛くはないイライザではありますが、愛嬌はあります。
そして徐々に変身していくにつれ、綺麗に見えるようになりますので、あら不思議。
ヒギンズ教授を演じるのは、レスリー・ハワード。
かの有名な『風と共にに去りぬ』でアシュレイを演じた方です。
アシュレイ役では気弱でスカーレットに振り回される優男を演じたハワードさんが
本作では、傲慢で自分勝手な教授を巧みに演じています。

あと、当時のイギリスでは、路上でキスをしていると、警官に叱られていたのだという事実も
判って、驚きでした。
ミュージカルではないので、歌いませんが、王道ラブコメという感じで
とても楽しく見れました。

『マイ・フェア・レディ』の公開当時淀川長冶と古波蔵保好の昔話の中で出てきたのが本作でした。
『マイ・フェア・レディ』の元ネタでエスプリの効いた面白い作品だったという話で爾来４０年是非観たいと想い続けていまた。
英国の階層によって言葉遣いや発音が異なるというのを知ったのはビートルズが来日した時で数日間ビートルズの話題であふれた中でジョンとポールの言葉のちがいからその出自までを取り上げていたのが妙に記憶に残っています。
私の英語力では当初のイライザとヒギンス教授の言葉遣いのちがいが漠然としか分からないので二人のやり取りの本来のおもしろさが受け取れないのは少し残念。
この時代に階層のちがいや、女を自分好みにしたい女からすれば一笑に付すしかない男の幻想を笑い飛ばしているようなバーナード・ショウの原作脚本は皮肉たっぷりで斬新です。

ピグマリオン（１９３８年・イギリス、モノクロ、９６分）

６４年「マイ・フェア・レディ」はあらゆる面で華やかでした。
カラー作品のミュージカルであり、オードリー・ヘプバーン主演、衣装、振付け、撮影も見事でした。
その元版が本作「ピグマリオン」と知り、興味を抱きつつも白紙の気持ちで観ました。

第一の感想としては、「歌」の有る無しを別にすれば、両作品ともオリジナル戯曲に忠実に作られているのだろうということ。つまり、それだけジョージ・バーナード・ショウの戯曲の完成度が高いということなのでしょう。本作はミュージカルではありませんが、英国らしい気品を感じました。

第二の感想は、ウェンディ・ヒラーという女優に近づけた気がしたこと。
感想というより納得感、満足感ですね。彼女を最初に見たのが７４年「オリエント急行殺人事件」でした。公爵夫人に扮した彼女は出演時６２歳でしたが、メイクの効果（？）もあってか、かなりの年配女性でした。しかも顔がほぼ白塗りで、不気味感漂う雰囲気に、この女優さんの他の出演作品をみてみたいと真剣に思ったものです。
本作におけるウェンディ・ヒラーのイライザは、花売り娘から貴婦人への変身ぶりが、彼女の誠実な演技力によって光っていました。特に冒頭の、貧相な下町娘としてヒギンズらとやりあう場面は見事でした。

第三の感想は、ヒギンズ教授についてです。
「マイ・フェア・レディ」ではレックス・ハリスンが舞台からの続投で、完璧な演技と歌を披露し、陽気さが前面に出ていたように思います。一方、本作のレスリー・ハワードは ‘底意地が悪く、非人情的な男’ として描かれており、これでは酷評されるのも仕方ありません。しかし、いかにも英国紳士然として出色であり、本来イライザを想う気持ちは両者ともオリジナル戯曲に忠実なのであろうと．．．。
そして両作品とも、ラストのヒギンズのセリフは ‘イライザ！僕のスリッパはどこ？’ そんな一語だったように思います。

クスクス笑ってしまったのは、前半のイライザが下町娘丸出しの場面です。
タクシー運転手がイライザに、‘タクシーは初めてか？’ と訊くと、‘千回以上乗ってらあ！’ と答える。
ヒギンズが ‘チョコはどうだ’ と勧めると、‘レディだから吐き出さねえぞ’ と言う。
他のなにかの場面でも ‘知ってらあ’ と答える場面があり、‘．．．らあ’ という語尾が可愛いです。
ピアース夫人から、風呂で身体や髪を洗ってもらう際は、‘きゃあ〜〜’ と悲鳴をあげたりと、地がでている下町娘という感じでした。一方で、ヒギンズ教授の特訓に耐え、エチエットの本まで読んで勉強する姿には、ウェンディ・ヒラー２６歳の若さとひたむきさが感じられました。

前述の「オリエント急行殺人事件」以降、８０年「エレファントマン」や６６年「わが命つきるとも」など、ウェンディ・ヒラーがクレジット上位にランクされた映画も観てきましたが、彼女の２０代の作品を観るのは今回が初めてでした。
年齢は別として、ＤＩＳＣＡＳさん、５０年「旅路」のお取扱いを宜しくお願いします。

監督はアンソニー・アスキスと、主演のレスリー・ハワードの２人ですね。
アンソニー・アスキスは、６３年「予期せぬ出来事」、６４年「黄色いロールスロイス」を手掛けています。又、本作の編集が、まだ下積み時代だった、名監督デヴィッド・リーンであったと知り、ちょっと驚きました。

「マイ・フェア・レディ」の元版ではありますが、本作が「マイ・フェア・レディ」を創らせた．．．そう思いたくなる作品でした。