暗黒街の顔役

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　製作に奇人アビエイターことハワード・ヒューズ、監督ホークス、脚本ベン・ヘクト他による、ギャング映画の傑作。暴力描写や人物の虚無的な性格設定などが問題視されて、かのヘイズ・オフィスとずいぶんモメたことでも知られている。
　実は個人的にはホークス作品としてはあまり上位に来ないし、ギャング映画としても『民衆の敵』などのほうが好きなのだけれど、この作品がすごいのは言うまでもない。観る者を突き放すような、タフな知性に基づく即物的な暴力映画。あまり使ったことがない表現だけれど……実にクールなのだ。

　アル・カポネをモデルにした暴力的なギャングが成り上がっていき破滅を迎えるまでという物語にさして魅力はない。冒頭、「ギャングの実態を描いて警鐘を鳴らす」みたいな字幕が掲げられるが、これはヘイズ・オフィスとの妥協の産物らしく、本篇とはほとんど関係がない。何しろコードのおかげで曖昧になっているものの、主人公のトニー（ポール・ムニ）は倫理や仁義のかけらも持ち合わせない殺人鬼であり、かつ実妹に異常な執着を抱いている倒錯的な性癖の持ち主である。妹もまた物質的な欲望の塊で、そのことをなんら恥じるところがない。それどころか、兄が嫉妬にかられて自分の恋人を撃ち殺しても、すぐにそれを許し（つまり兄の倒錯した愛を受け入れている）、警察に包囲されれば一緒に立てこもって戦うというつわものなのだ。
　成り上がるという欲望のまま、ばんばん人を撃ち殺す、殴り倒す。殺しそこなったやつは病室に乗り込んでいって撃ち殺す。ヒューズが多いに喜んだという暴力描写、カーアクションは80年前の作品とは思えないほどの迫力に満ちている。ここには映画的な「死」がフィルムからあふれそうなくらいだ。映画はそんな唾棄すべき人間たちを批判的には描かず、善悪を越えその生態を面白がっているようにさえ思えるのである。
　ホークスには珍しく、さまざまなテクニックや映像的な工夫が随所に観られる。冒頭三分間ほどの溝口ばりの長回し＆移動撮影はとても印象的だし、工夫された影の使い方にはドイツ表現主義の影響がうかがえる。さらに、オープニング＆エンドクレジットで印象的な「Ｘ」マークは、報道写真などで死体の位置を示す記号なのだが、映画のそこかしこにＸのモチーフが現れる。かの聖バレンタインの虐殺のシーンでは、Ｘがぞろぞろ並んで、ほとんどギャグになっている。
　笑いと言えば、こうした作品はハードにきりっとまとめてほしい向きには不評かもしれないが、意味不明なギャグがあちこちに突っ込んであるのも本作の特徴だ。特に字が書けない、ちょっとズレた知能の子分が、トニー宛の電話をなんとか取り次ごうと悪戦苦闘する個所などは作品のトーンをほとんど乱しているかもしれない。しかしそれこそ、すべてを冷静に眺め、無遠慮にシニカルな視線を浴びせかけるホークスのタフな知性の反射なのだろうと思う。
　後年のデ・パルマのリメイクほどに、観客には優しくない。８０点。

ハワード・ホークス監督作品をいくつか観て、最も面白いのは脚本をベン・ヘクトが書いている時だったのでこの映画を借りてみた。

当時のシカゴの話はよく知らないが、出てくる人物の名前や襲撃されるタバーンの名前「The Shamrock」などから、これはイタリアンとアイリッシュの抗争なんだと思う。アメリカは昔っから、人種同士が絶対に混じり合わずに常に分離対立している国なのである。

主人公は若いギャングで、その躊躇の無い人殺しっぷりはクリント・イーストウッドが演じた「許されざるもの(1992)」の冷血な悪漢に非常によく似ている。銃が身近なアメリカならではの人物像である。バンバンバンと毎日のように銃をぶっぱなしても精神的に辛くなる事がまったく無い。人を殺して精神がブレイクダウンしない人間というのが存在し得るのだろうかと再び思う。

そんな悪党をヒーロー扱いする民衆も出てくる。この映画も、そういう悪党の無軌道な人生が破滅に終わることでカタルシスを得る娯楽作品だ。民衆は自分に決して出来ないことをする人間というものを善悪問わず喝采するもののようである。

ベン・ヘクトはやっぱりコメディの味付けが一番得意なんじゃないかと思う。この映画でも脈絡の無いギャグシーンが出てくるが、そこで気分が和らぐ。

とにかくバンバンバンの数がやたらと多い映画だ。ゴッドファーザーのように銃を撃つシーンまでの「なぜ撃つのか」という延々と長い説明があって初めて銃が撃たれるのではなく、哲学無き発砲の連続だ。もちろん映画としてはゴッドファーザーの完成度や素晴らしい音楽に及ぶ作品ではないが、娯楽映画としては当時の人に受けただろう事は想像に難くない。

ハワード＋ベンの作品としては私の趣味ではないが娯楽作品としてはよくできている映画だ。最初に「当局がギャングに甘いから告発の為にこの映画を作った」とかなんとか字幕が出るが、客寄せに決まっている。

※ ギャングがみな三つ揃いを着ている。なのにあれだけ動き回って汗をかかないのはやっぱりシカゴなんだな。【寒いとこらしい】

全てのギャング映画のルーツ的作品で、暗黒街を舞台に一人の男（アル・カポネがモデル）の栄光と破滅を古典的に描いている。　１９３０年代初頭にブームとなったギャング映画には、３本の代表作がある。マーヴィン・ルロイ監督の３０年「犯罪王リコ」と、ウィリアム・Ａ・ウェルマン監督の３１年「民衆の敵」、そして本作である。当時の米国の映倫規定に抵触する・しない、で問題となったのも本作らしい。
ラストシーンの攻防戦の場面はギャング映画で最も有名な一場面といわれ、その壮絶さはホークス監督の演出と、Ｐ・ムニの熱演の賜物であろう。ムニはカポネ本人のような丸顔ではないが、片頬に傷跡をつけたその形相には迫力がある。
ポマードでべったり固めた頭髪で登場し、出世するにつれて服装も粗いストライブのスタイルからタキシードの似合うようになり、ひどいイタリア訛りも次第にとれていく、という暗黒街の紹介も興味深い。
反面、猫背なジゴロ・タイプのリナルド（Ｇ・ラフト）が、終始無表情にコインを指先で投げ上げて受け止める癖を見せるのがすごく格好よく、公開当時の日本の若者達にも真似され、彼は一躍スターダムに上昇した。
本物のギャング・スター、アル・カポーンがこの映画を見てラフトを気に入り、食事に招待したという。怪奇俳優のＢ・カーロフが抗争相手のギャフニー役で出演、また、刑事部長役でＥ・マクスウェルも出演。Ｐ・フィックスは米ＴＶ映画「ライフルマン」の保安官役で名前と顔が知られるようになった。緻密なＢ・ヘクトの脚本、ダイナミックなホークスの演出は素晴らしい。　８３年の「スカーフェイス」は、本作のリメイク。

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マキャヴェリズム（目的の為の非情を否定しない）の具象、チェザーレ・ボルジアがモチーフとの説あり。
（確かに、妹を配し近親姦も匂わせる）
ＴＨＥ ＷＯＲＬＤ ＩＳ ＹＯＵＲＳ、象徴的イリュージョン。

1930年代初頭に創られたとは思えない様な鮮鋭的感覚。
同時期からヘイズコード厳格化の為、以降のクラシック映画では観られないギャング物としても貴重。
本作とて世に出るまで紆余曲折あったが、やはりハワード・ヒューズの効力大？

デ・パルマの「スカーフェイス」はハワード・ホークスとベン・ヘクトに捧げられた。
私も好きな脚本家の中にヘクトの名前はいつもある。
それはもう一つの仕事ぶり・・・彼がシナリオを書く時は定額ギャラで
食事・睡眠もそこそこに１本を2,3日で一息に仕上げるのが常だったというのと
脚本家の立場を自嘲、冷笑する態度が気に入ったからだ。

本作についてヘクトへのインダビュー記事より
“ハワード・ヒューズと会った時、彼が買った「暗黒街の顔役」について聞かせてくれた。
余り面白いと思わなかったしヒューズの事もそんなに信用していた訳でもなかった。
１日1000ドル払ってくれたら、その日の仕事をするっていう風にしてもらった。
私がヒューズに「もっと違った話を作りたい」と言うと「どんな風な筋書きなんだ」と彼が聞いた。
「まだ筋書きは出来ていません。でもギャングが何人か出てくる映画です。
今、封切られている映画の２倍は人が死にます。客も２倍入るでしょうね。
僕は20人殺す予定です。きっと大ヒット間違いなしです。」”

ボルジア家など、とんと興味なさそうなヘクトだけれど
上の（二人のハワード）の意向に従うのは必然だった。
今回、数年ぶりに観たけれど再び圧倒された。
禁酒法時代じゃなくてもギャングの盛衰は描けると作られたのが既述の「スカーフェイス」。
表現の差異は、時代と作家性によって大分違うけれど
アメリカンドリームの裏側を炙り出した事では見事踏襲していたとも再確認できた。

肝心の本作、ポール・ムニの役作りに注目。類人猿みたいな両腕の動きが最後に物を言う。
粋なジョージ・ラフト、彼は地でいってます。
（ヘルズキッチン育ちの彼には本物のギャングのお友達が沢山いました）
ロヴォ役オズグッド・パーキンスは「サイコ」のＡ・パーキンスのお父さん。
（丁度この映画が公開された頃、アンソニーは生まれた）

最後にトニーの妹役、アン・ドヴォラクはハワード・ホークスのミストレスだったといわれる。
ほっとく訳ありませんね、こんな艶色と清潔さを兼備している人。
×××・・・監督の場合、後にキスマークとなった。笑

暗黒街の顔役（１９３２年・アメリカ、モノクロ、９３分）

１０年ぶりの鑑賞、二度目のレビュー。
圧倒的な迫力で観る者を凌駕するハワード・ホークスの生気、時代を超えて、まさにギャング映画の伝説となった。
ポール・ムニとジョージ・ラフトの、「動と静」の演技にも注目したい。

禁酒法下の１９３０年代初頭。シカゴの某ホテルで、大物ギャングのボス・コステロが暗殺された。犯人はコステロの用心棒トニー・カモンテ（ポール・ムニ）である。トニーはコステロと対立する組織のボスであるジョニー・ロヴォ（オスグッド・パーキンス）に、裏切りを唆されたのだ。理髪店にいたトニーのもとへ警察が来て、署へ連行され取調べを受けるが、トニーは何も知らないと言い張り続けた。その後、トニーは何者かの差し金ですぐに釈放された。トニーがロヴォのもとを訪れると、ロヴォの情婦ポピー（カレン・モーリー）がおり、トニーは一目で心奪われた。トニーはロヴォからコステロ殺害の報酬を受け取ってその場を去った。後日、ロヴォはトニーを連れてコステロが経営していた社交クラブに押しかけ、今後は我々が仕切ると宣言する。トニーは脅迫まがいの手腕でビール密売を繰り返し、膨大な利益を上げていったが、他のギャング組織の領域にまで触手し始める。手強いギャフニー（ボリス・カーロフ）を殺して南北を制覇したトニーは、大幹部に昇格する。そんなトニーを、忠実な弟分のリナルド（ジョージ・ラフト）が常にガードしている。ある日、トニーがクラブへ行くと、妹のチェスカ（アン・ドヴォラック）が知らない男と踊っていた。トニーはチェスカに対して異常な愛を持っており、その男を殴ってチェスカを家に連れ帰ると厳しく叱責した。ところが、家を出たトニーは何者かに襲われる。

映画の冒頭、次の字幕が流れる。
−−−この映画は米国におけるギャングの支配や、日毎に増加している安全や自由の脅威への、政府の無関心を告発するために作られた。すべてのエピソードは実際に起こった事件である。（以下、略）−−−
機関銃をぶっ放すシーンと、日めくりカレンダーがもの凄いスピードでめくられていくシーン、この２つが合成されたシーンは、ギャング支配が長く続いていることを物語っている。多くの市民が犠牲になっていることも、想像に難くない。

ポール・ムニ（1895.09.22 〜 1967.08.25）という俳優の、底知れぬ演技力に驚かされる。
本作では左頬に大きな傷痕をつけ、凄みを効かせてのし上がっていくギャング組織の男を好演した。
そして４年後、「科学者の道」（３６年）でルイ・パスツールを演じ、アカデミー主演男優賞を受賞した。
更にその翌年、「大地」（３７年）では中国人農夫を演じきり、「ゾラの生涯」（３７年）では文豪エミール・ゾラを好演した。
これら４作品の役柄を、実に巧みに演じきった俳優として、後世に名を残すことになる。
いつの日か、彼が出演した「楽聖ショパン」（４５年）も観てみたい。

そして、ジョージ・ラフト（1901.09.26 〜 1980.11.24）である。
彼を有名にしたのは、何と言っても本作におけるリナルド役。
＜終始無表情にコインを指先で投げ上げて受け止める癖＞　これが実にかっこいいのだ。本編中、何度もそのシーンが登場する。
‘無表情’ というのは、腹の中が読み取れず、その世界では、ある意味、一種の武器になっているのかもしれない。
本作出演時は３１歳だが、既に鑑賞済の「お熱いのがお好き」（５９年）、「オーシャンと１１人の仲間」（６０年）における ‘年齢を重ねた彼’ の役柄や演技が、どんなだったか忘却なのが悲しい。

共演陣で忘れてならないのは、怪奇俳優ボリス・カーロフが出演していること。
１分で３００発撃てる銃を持つギャングで、ボーリング場ではストライクも投げるのだが、２投目に悲劇が起る。

旅行会社のネオン・サイン ‘The World is Yours（世界はあなたのもの）’ が、もの哀しい。