トカレフ

　ケチケチさんのお勧めもあって、観たかったのですがやっと鑑賞しました。ケチケチさんがおっしゃるように描かないからこその良さというものが感じられますね。
　最近の邦画は、描きすぎというか説明しすぎというか、画面を見ずに他のことをしていても、ストーリーの流れがわかってしまう作品もあって、
「これは別に映画じゃなくてもよかったんじゃないの？」
と思うことが多いのです。その意味で言えば、あくまでも映画であって、この作品を小説で読んでも、この殺伐とした感じは出ないのではないかと思いますね。坂本順治という監督は硬派な印象ですね。（ケチケチさんがおっしゃるには、気骨がありすぎて滑ってしまうと言うことですが）本作から、佐藤浩一とのコラボが始まるわけですけど、福井晴敏原作の３本のうち「亡国のイージス」だけが、鑑賞に堪える作品に仕上がったのは、坂本監督による部分が大きいのでしょう。
　佐藤浩一は、お父さんとは全く違った方向で、ある意味名優になってきたようです。三国蓮太郎は、たぶん何を演じても三国蓮太郎であって、その大きな存在感というものは真似ようとしても真似られるものではありません。（私の先輩が、一時三国先生の付き人をしていたことがあるのですが、そりゃもう厳しい人だったそうです）そのお父さんを真似るとか、越えるとか言うことを放棄して、いい味を出せるようになってます。

　ストーリーとかはどうでもいい。感情があって、それがぶつかり合う様が描かれることを楽しみたい。そういう意味でラヴァ様のレビューは非常にわかりやすく、さすがだなと思わせます。

　画面の色調を落とし、そこでうごめくものがなんなのかも、目を凝らしていないとわからない。語る言葉も、耳を澄ませていないとわからない・・・。
　五代目古今亭志ん生が、（私はリアルタイムでは知りませんが）高座に上がっても、なかなか噺を始めない・・・やっと枕に入ったと思えば、ボソボソと小声でしゃべるものだから、寄席中の客が皆、耳を澄ませて聞き入るようになっていた。そこで、おもむろに本題に入ったというエピソードがあるのですが、そういった趣のある映画と言えるかもしれません。

　この作品を鑑賞するときは、家事も全部済ませて、ちゃぶ台にお茶と煎餅を用意して、一瞬たりとも画面から目を離さないようにして鑑賞することです。

まさにギリシャ悲劇のような不条理感
ここに物語的な人間ドラマをみても　わけわかんないんじゃない？

そこで　これは２丁の拳銃が　人間を介して求め合い　セックスをして果てる映画　とみれば　すんなり入っていけるよ

子供を育て成長を見守り、やがて自分も年老いて親の最期を看取る、何事も起こらないが小市民のささやかな幸せを感じる生活、そんな生活を一丁の拳銃(トカレフ)が奪います。

この映画、「何故」だとか「どのように」、「それから」という部分が大胆にカットされていて、それ故に取っつきにくい印象を受ける方が多いのかもしれませんが、描かないからこその良さが十二分に発揮されている映画だと思います。
一人の男が偶然に拳銃を手に入れたことにより始まる犯行、それはこの男の精神的異常がもたらしたものなのかもしれませんし、小市民的な幸福に対する妬みから来る屈折した何らかの復讐なのかもしれません。そのあたりの「何故」は観客の想像に委ねられていますが、だからこそ製作されてから10数年経った今も、現代の世相に照らし合わせて様々に考えられる普遍性を持っているのだと思います。

またこの映画、そういった社会的な一面を描いているのとは別に、阪本順治監督が描いてきた男という存在に対する一種の美学を感じます。一丁の拳銃が与えた力、その力を男はどこまでも向き合わせます。他の選択肢があってもどこまでも一途にまっすぐに。「どついたるねん」「鉄拳」のボクシングもそうだし、「王手」の将棋もそう。この映画に登場する女(西山由海)は傷を癒し新しい選択肢を選ぶ柔軟性がありますが、男たちはどこまでも事件に決着をつけることを選びます。派手なアクションこそありませんが、そう意味では精神的な火花が飛び交う冷たいアクション映画。二丁の拳銃が向き合う冷たさを堪能できます。

星が2個しか付いていなくて不評のようですが、私的にはお奨めの1本。

なんだろう．．．
こういう血なまぐさい作品は好きではないし．ストーリーも大して興味をそそらない。物語性が豊かでもないし．感情移入が出来る訳でもない。だけど．吸い込まれていく奇妙な衝動。男二人の感情と真直ぐさがビシビシと痛いほどに伝わってきて．圧倒された。

ジャンルやテーマも感じなかった。サスペンス要素もあり．アクション要素もあり．家族愛の要素もある。といって．家族への愛情．歪んでしまった社会．復讐への執念．．．どれを描いたものなのか．．．あてはまらない。ただ強く感じたのは．孤独の中で芽生える一直線の生き様と取り憑かれる魂の激しさ。画面からすごい勢いで噴いている気がした。

それにしても．男は一直線で一時の感情に脆く．壊れやすい。
それにしても．女は切り替えが早く．生きることに貪欲だ。
本当にトカレフのように．この作品は直接的に．風穴をあける。
なんだか本当に奇妙な感覚だ．．．

　すんげ〜面白い！凄まじい画力に乗せて、自信満々に不親切なシナリオを見せてくれた。阪本監督のこの姿勢はかっこいいわ。

　まずはシナリオ。限界まで削ぎ落とされた説明。ご都合主義全開のプロット。だけど“だから何？”って監督の言葉が聞こえてきそうな程、やりたい事がはっきり分かる。そしてそれが見事な作品を創りあげたな。

　映像の力も見逃せない。美しいだけじゃなく、力を感じる。色使いも印象的。演出力も高い。阪本順治の才能を感じる一本。

　星はちょっとあまいが★★★★★だ。　ただストーリー重視、きっちりしたシナリオを楽しみたい方は無理かもしれんな。