リバティ・バランスを射った男

傑作。大傑作と言ってもいいだろう。個人的な好みとしてはやはり「捜索者」の方が好きだが、作品の出来としては甲乙付けがたいと言えるかもしれない。死の数年前に撮られた最晩年の作品に属するのだが、その物語構成やジョン・ウェインが脇役にわまっているところ、そして敢えてモノクロのスタンダードで撮られているところなど、ジョン・フォードの西部劇に対するオマージュと言った感がある作品だった。
映画的な演出に満ちあふれているところやシナリオの持つ深みなど「捜索者」と共通しているものを感じたが「捜索者」が動の傑作とするなら、こちらは静の傑作とでも呼ぶべき作品だろう。冒頭近くの、中心人物の二人が馬車に並んで視線を一切動かすことなく過去の追想を語り合う固定ショットの画面などは映画史に残る(残す)べき傑出したシーンではなかろうか。

(ネタバレあり)

これはジョン・フォードがキャリアの後期に作った傑作西部劇。

時は移りゆき、歴史は上書きされて、多くの過去は忘れられていきます。
過去を知る者から、歴史の捨石として忘れ去られていく　しかし　忘れがたい無名の者への、追憶のドラマ。
観るたびに叙情的な物語に、万感の思いを胸に抱かされます。

この映画は詳細に西部の、アメリカの歴史を描いて見せています。
牧畜業者が土地を独占し暴力的手段で移入する農民や商工業者を排除しようとするのは『天国の門』や『シェーン』でも描かれているとおり。

働くのに忙しくて学校教育を受け入れられず識字ができない移民、学校、(スウェーデンからの移民のレストランのおかみは民主主義の理念を語ります)、新聞社、選挙(レストランの親父は誇らしげ)、そして銃と弁護士。　　　ダムによる灌漑と鉄道敷設で文明化されていきます。

さて、久しぶりに観た今回の発見は、ウディ・ストロードの使い方です。
ちなみに彼はスターのシドニー・ポワティエと違う形で、脇役ながら演技力と存在感で地道にアフリカ系アメリカ人の地位を引き揚げていった俳優として、今日尊敬されて黒人俳優の父とも呼ばれる俳優です。

ランスが開いた学校で、彼が演じたポンピーは、憲法さらに法の下の平等条項について答えます。
酒場で開かれた選挙集会、盛り上がる白人たちに対して、その戸口に座る彼の表情。
そして酒場で酔って乱れるトムを連れ出すために入り黒人の入店を拒否しようという酒場のおやじとのやりとり。

映画制作の１９６２年はレストランなどでシット・インが行われていた公民権運動盛んな時期、ジョン・フォードらしい皮肉な、しかし真摯なメッセージを感じました。

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「捜索者」ではアメリカン・ネイティブも決して悪の象徴ではない家族愛を持つ同じ人間として描き、「騎兵隊」でも北軍にも南軍にもフォードは正義を見る訳じゃなく、中立の立場の目線に立っていました。
そして本作においても、理想に燃えても実質的な力を持たない若造・ランス(ジェームズ・スチュアート)、壮年の銃の力を知る牧場経営者・トム(ジョン・ウェイン)、彼ら二人を悪漢・リバティ・バランス(リー・マーヴィン)を仲介して描きますが、そのどちらにもフォードは加勢しているわけではないですね。変わりつつある時代のうねりが彼ら二人の背景に流れ、どちらにも加勢しない中立の目線が二人を見つめます。彼ら二人から、そしてその間にいるリバティ・バランスから何を感じ取るか、観客には考える余裕が出来て映画を味わう深みに繋がってきますし、壮年男トムの放つ哀愁もいっそう際立ってくるのだと思います。

副大統領候補となったランスの回想形式で語られる本作ですが、時の流れを象徴する上でも物語にとって大きな必然性のある構成だとも思います。
本作も「捜索者」に負けず劣らず、アメリカの開拓史の様々な要素が盛り込まれています。大牧場主による土地の支配もそうですし、自由と平等を謳った建国の精神が上辺だけのものである歴然とした人種差別、貧富の格差による教育の違いなどなど。資本を持つものは利益を守ろうと州への昇格を拒もうとしますし、またリバティ・バランスにしても悪漢として描かれてはいるものの、大牧場主が雇った用心棒で、その時の時代が必要としていた銃による力の支配なんですよね。
それらが絡み合い、またランスとトムの二人が、変わりつつある時代を象徴する縦軸として揺らぐことなく貫かれています。様々な政治的要素や、現代のアメリカにも通じる矛盾が描かれている本作ですが、決してメッセージはプロパガンダ的な押し売りではありませんし、こういう映画こそ、映画が芸術である威厳を誇り、その風格を兼ね備えた映画なんじゃないでしょうかね。

また一方ではエンターテインメント性も豊かです。好きな女を諦めるトムは、時代の流れを実感していたのでしょうし、自らが身をひくことこそ彼女を幸せにする唯一の方法と考えたのだと思います。ジョン・ウェインが演じる壮年男の哀愁が、これほど際立つ映画も他に類を見ないんじゃないでしょうか。

カラーがもてはやされる時代に、あえてモノクロ・ビスタサイズ(スタンダードじゃないよ＞paroleさん(^^))で撮ったことにも大きな意味合いがありますし、伝説に支えられた歴史の上に成り立っている現在の現実もあるんですよね。さて、今日のアメリカはいかがなものでしょうかね。

paroleさんは「捜索者」の方が好きだと言うことだけど、私的には"静"を描いた本作の方が好きかなぁ。「捜索者」の追跡劇の活力や、絵的な背景にあるモニュメント・バレーも捨てがたいけど。

悪党リバティ・バランスを射った男の真実とは。
あのジョン・ウェインが活躍せずに終わるはずがない。どうしてもオチは見え見えでした。が、それでもドラマを感じさせる結末。微妙な三角関係が物語に深みを持たせています。
『Ｌ．Ａ．コンフィデンシャル』の言葉を借りれば「世界と愛を手に入れた男」と「全てを失った男」といったところでしょうか。厳しい対比ですが、真の英雄は後者でした。
いかにも昔の映画らしく、編集が甘いため、途中、無駄な場面が延々と続くのは困りもの。悪党と名高いリバティ・バランスも、銃はあまり撃たず、基本的に素手と鞭で、それほどの脅威には見えませんでした。勧善懲悪の爽快感を出すため、悪の限りを尽くしてほしかったですね。

荒野を走る馬も幌馬車　はでな銃撃戦もない　ジョン・フォード監督にしては地味な西部劇

孤独のうちに さびしく死んでいった　西部の男ジョン・ウェインの　葬式に立ち会う 上院議員ジェームズ・スチュアートの 回想ではじまる

ふたりの友情　そして　リバティ・バランスを射った男は誰なのか・・・

ジョン・ウェイン / ジェームス・スチュアート　まったく個性のちがう俳優が みごとな演出で競演　悪役リー・マーヴィンも　その憎々しさ存在感に不足なし

ジョン・ウェインが　失恋してヤケ酒を飲み　暴れるシーンなど　めったにみられない

新しい時代への移行を感じさせる　悪玉のインディアンも出てこない　フォード / ウェイン　コンビの最後の西部劇

それにしても　あのバカでかいステーキ　すごく美味しそうじゃニャ！！