ワン・ナイト・スタンド

　一晩の偶然の出来事がそれ以降の運命を変えてしまう。そういう事だってあり得るかも、と思えてしまう。

　死を扱いながら軽やかで、同時に生きることの重みもしっかり感じられる。

　ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を含めて、音楽の使い方がまた、これ以上ないほど洗練されている。

　思いのほか評価が低くて意外です。映像による抒情詩のようだからなのかなあ…。

基本的にはイントロに書いてあるような内容です。
ラブストーリーというよりは、友情や人間ドラマと並行して話は進んでいきますので、どちらかと言えばヒューマンドラマ色の方が濃いと思います。

スタイリッシュな映像にこだわりすぎて、ストーリーが疎かになっています。
ただでさえ薄い内容のストーリーが、より薄っぺらに感じてしまう映画でした。

キーワードは、エイズ、友情、スワッピング、まあこんな感じですか。

題名の通り、「ONE NIGHT STAND ＝ 一夜限り」の関係…。
それが、運命の出逢いだったとしたらどうなるのか？

はじまりは、スナイプスの胸に偶然できた小さなインクの染み「黒いハート」から。
（この「黒いハート」は、後半の伏線にもなっていて、タイトルでも良いと思えるほど象徴的なセリフ）
前半は、その偶然の出来事の連続演出がスリリングで、グイグイ引き込まれました。

今作は、ウェズリー・スナイプスが1997年の第54回ヴェネチア映画祭で主演男優賞を受賞した作品。（ちなみに金獅子賞が北野武『ＨＡＮＡ-ＢＩ』の年）
マーシャル・アーツのアクション俳優と思っていたスナイプスが、一夜限りの関係からマジの恋に落ちてゆく葛藤を（筋肉美を活かしながらも）見事に演じています。その意外性ある演技力が評価されたと思える作品。

それと、ナスターシャ・キンスキー。確かに妖艶な優しい美しさがある。元彼デイヴィッド・リンチ監督の『インランド・エンパイア』（2006年）にカメオ出演してから観ていませんが、最近は映画よりTVが多いみたいです。

さらに、DISCAS関連作品欄↑の『ツイン・ピークス』。
あのクーパー捜査官（カイル・マクラクラン）も出演していて、途中、リンチ作品？と思えるような幻想シーンもありました。

男と女の「恋」に偶然が重なり「運命」となる。
さらに、HIVの友人の「死」を通じて、ふと今までの人生を見つめ直し「生」と「死」を美しく、官能的に描きだしている作品。
のはずでしたが…

呆気（アッケ）にとられるラストを受け入れられるかどうかで、この映画の評価がわかれると思います。

あとは＜ネタバレ＞にします。↓









＜ネタバレ＞
運命の恋に落ちていく段階をHIVの親友の「死」から導かれる演出を意図していたのかなと思いつつも、リンチ作品のように「死」の不思議な力を上手く描ききれていないので、途中から感情移入できなくなったと思う。

では、現実的演出だったのかと言うと、そうでもなく…。
現実的に考えれば「僕はその時間が必要だったんだよ」といくら言っても、妻から「浮気をしたから許さない」と言われ、離婚になるかもしれない。そのことで子どもたちをつらい目にあわせるかもしれないし、経済的にも、とてもつらい思いをするかもしれない。そこも全部含めて「それでもいい」って思えるかどうか。
「運命の出逢い」を貫き通すのなら、強い強い覚悟と決意が必要でしょ。

モラルは一切関係ない。
大切なのは、自分自身が「それでもいい」って本当に思えるのかどうか。

その過程をスッとばしての「結局、このオチどうですか？」と言われても…。
さて、あなたは、このラストを受け入れられますか？

マイク・フィギス監督が映画賞を総嘗めにした『リービング・ラスベガス』から2年後の作品で、期待大の作品でしたが、（オムニバスの小作品で良い作品もある）今だにフィギス他作品の映画紹介も「あの『リービング・ラスベガス』の監督作品…」と言われてしまうところが残念。

★チェック

最近、無性にナスターシャ　キンスキーが観たいがために借りたので満足です。
テレビドラマ感覚でみる内容と思います。
この作品での発見はミンナ　ウェンです。こんな演技もできるんだって感じで、良い印象をもちました。ミミと言う妻役がはまっていましたよ。