ブリガドーン

　『ジェットストリーム』というラジオ番組があった。聴いていた方とは共有出来る感覚だと
思うが、あの時間帯特有の切なさ。異なった時空がふれ合うところに生まれる郷愁の様な
哀感。　…まったくの私見だが、この映画はあの感覚を想起させる。

　スコットランドの伝説にある、１００年に一度霧の中から現れる美しい村「ブリガドーン」
ハイランドの魔女から、村を守らんとした牧師と神の起こした奇跡の業。村人達にとっての
一日が、外界では１００年。そこに旅のアメリカ人がふたり、迷い込んで来てしまう…。

　１８世紀のまま時間が止まっているので、村での踊りはフォークダンスを基としている。
クラシカルな踊りに２０世紀のステップを踏むジーン・ケリーが絡む楽しさときたら！
村人達のスコットランド様式の衣装も何ともお洒落。特に気になったのが、パートカラー
に使われているオレンジ色。ジーン・ケリーの首元からもオレンジがちらりとのぞく♪
女性達はパニエで膨らませたロングスカートをフワリフワリと翻して踊り、さながら
本格的なバレエのよう。（と思ったら、クレジットにNew York City Ballet　Company）

　セットの素晴らしさにも目を見張る。想起するのは『屋根の上のバイオリン弾き』の村
だが、寒々しさは無くひたすら活気のある楽しい村。（こちらは完全な室内セット）
背景を描きこんだホリゾントの規模を観ると、セット全体の巨大さが類推される。中でも
ジーン・ケリーとシド・チャリシーが踊る「ヒースの丘」のシーンは素晴らしい。クラシック
バレエのシドの踊りを美しく見せるジーン・ケリーの振り付け。起伏のある地形を移動
しながら傾斜や木を巧みに使ってのダイナミックな動きは、いつもながらの職人芸だ。

　村は一日で閉じてしまう。一度閉じたら、次に目覚めるのは１００年後。村の娘と恋に
落ちたニューヨーカーの選択は…。　そしてブリガドーンの奇跡とは…。


　秋の夜長に、こんな心温まるミュージカルは、いかがだろう。

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スコットランドの伝説を下敷きにしたファンタジックな
ストーリーが興味深い映画でした。
ただもう少し練りこんでほしかった。
せっかくタイムトラベル風味の魅力的な設定なのに、
ｅｎｄマークが出たときは「あれっ？　これで終わり？」と思った。
もやもや感が残ります。

とはいえ中世の村を再現したセットや、
バグパイプを演奏しながらチェックのスカートをはいた
男性たちが練り歩くなどの、村人たちの暮らしぶりは楽しかった。
特典映像に入っていた、本編では削られていた
結婚式の群舞シーンもｇｏｏｄ。

ヒースの咲くハイランドの雄大な景色も見どころのひとつではないでしょうか。
とはいえロケではなく、舞台装置で演出しているので、
「サウンドオブミュージック」のような、本物の大自然の中で
歌い踊る壮大感はありませんが。
それでも雰囲気は伝わってくるので、
「うわーこんな場所に行ってみたいなー」と素直に思えました。
今もあんな素敵な景色が広がっているのでしょうか。

なにより嬉しかったのは、「雨に歌えば」のラストのほうで
見事なダンスを見せてくれたジーン・ケリーと
シド・チャリシーペアのバレエシーンを堪能できたこと。
ゴツゴツとした岩、曲がりくねった木、
森に囲まれた美しい湖などを背景に踊る、
ロマンチックなシーンでした。うっとり。

こういうしっとり系の振付は
当時は珍しかったんではないでしょうか。
きっと何回も何回もリハーサルしたんだうと想像させる、
息の合ったダンスが素敵でした。

　ほとんどセットで撮影されているせいか舞台劇のような、こぢんまりとした印象です。
　地図にない村ブリガドーンの秘密は？というファンタジックな物語だけど、壮大なロマンというより、おとぎの絵本を見るような単純明快な分かりやすさがあります。一見すると厚みが足りないように感じるけど、じつは「理屈に合わないことも信じれば真実になる」という哲学めいたメッセージもあり、なかなか奥深い部分もあります。
　見どころはやはりシド・チャリシーとジーン・ケリーの踊りでしょう。２場面ありますが、愛の表現の優雅さに見ていてうっとりします。ドレスを着ていてこの動きはなかなか大変なのではないかと思ったのですが、難なく簡単そうに踊っています。彼女は体型的にもがっしりした長身の体型に見えるのですが、それをジーン・ケリーが抱え上げる数秒のシーンは圧巻でした。
　ただ「バンドワゴン」のときのような脚線美が見られないのが個人的には残念・・・。シド・チャリシーは８７歳で昨年他界されたそうですが、美はいつか滅びるのか。いや、映画に残っているからまあ良いか・・・。←ひとりごと。

　それからスコットランドの民族舞踏というのか、村人大勢で踊る場面もなかなか楽しくて良かったです。そして５０年以上前の映画にしては色彩もきれい。これもデジタル・リマスター版だからこそかなと思いました。
　単純なあらすじだけど、踊りがかなり楽しめるので、ミュージカルファンの方なら見て損はないでしょうね。

百年に一度目覚める村、ブリガドーン。
迷い込んだのは二人の米国男。
オープニングの靄に霞む風景から、もぅ一服の絵画の様です。
村娘との真実の恋に、たった一日で眠りにつく筈の村に奇跡が起きる。
絵に描いた様なお伽噺にうっとりです。

米国製ミュージカルに唸るのは俳優個々の技量の高さ。
主役は勿論端役の隅々に至るまで、ハイ・レベルな唄・踊り・芝居に目を見張ります。
群舞もコーラスも完成度の高さは個々の実力の集合体、未熟な集団に相乗効果など有りよう筈がありません。
欧州風民族舞踊と米国製タップダンス、クラシックバレエの融合、可愛い民族衣装と背広姿が仲良く踊り歌うシーンの迫力、その見事な事！
ダンサー達の身体のキレ、上体の安定感はまるでアスリートです。
ブルー・グリーン・淡紫やそこここに見えるタータンチェックと溢れかえる色彩の美しさ。
その中にヒロインの生成が控えめながら美しく、翻るスカートの膨らみは「シャル・ウィ・ダンス」を想起させ、裾に覗く量感溢れるパニエのオレンジに釘付けです。
全編セットで舞台中継の趣。
絵画の中に造られた村や山道、広場や森に縦横無尽に展開される計算され尽くしたショーの素敵な事。
ジーン・ケリーの実力は言うまでも無く、私には初めてのシド・チャリシーが新鮮で。
美貌と実力、天は二物を与えるのですね。

超一流のプロに手によるおとぎばなし。
この豊穣なひとときを是非、皆様も。

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「ザッツ・エンタテイメントPART3(1995)」でこの映画の映像を観て、観たくなったので借りた。
スコットランドの背景がきれいだ。セットだが雰囲気は出ている。こんなに奥行きのあるセットを作れたのはMGMならではなんだろう。スコットランドと言ったらヒースの生えてる寒々とした風景を思い出すが、この映画のセットもそのものだ。

そういう雰囲気のある場所で100年に一度現れる村の娘と現代の男が恋に落ちる、という設定はロマンチックで良い。しかも村の娘がシド・チャリセで男がジーン・ケリーという文句なしの配役だ。

シド・チャリセが歌を唄うのを初めて観たが、吹き替えだった。
ジーン・ケリーはもちろん自分で唄っているが、42歳で恋に落ちる喜びを唄えるというのは凄い。
ストーリーは前半良いのに、結局二人に都合の良い結末に無理やり押し込んでしまい、ロマンチックとは程遠い終わり方になってしまっている。

二人のダンスと唄と、その他大勢のMGMダンサーズ、これが好きならこの映画は観る価値がある。