ペーパー・チェイス

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　ペーパーチェイス――試験勉強に追われる大学生の日常を描いた青春映画――なんて面白いか？　いや実に面白い、大好きな映画です。
　舞台はハーヴァード・ロースクール。「ハーバード白熱教室」のおかげで今ではすっかりお馴染みとなった、質疑応答中心の講義風景――教授がどんどん質問を繰り出し、次々と学生に答えさせるというやり方は、この『ペーパーチェイス』でも描かれています。
　厳しく難物といわれる名物教授の講義で立ち往生し、吐いてしまう新入生ティモシー・ボトムズ。全米から集まった秀才達も、膨大な宿題や試験勉強で遊ぶ暇すらなく、勉強会を立ち上げて、手分けしてノートを取ることに決めます。そのうち脱落者や恋愛をめぐる事件が起こり……というお話ですが、この映画の何より特徴的で面白いところは、映画の中心に「学業」があることでしょう。
　学校を舞台にした映画における学校というのは、たいていは若者グループの「集まる場所」という機能しか与えられていません。教師は抵抗すべき権威の代表役をいつもふられますし、学校そのものは、どちらかというと抑圧装置のように否定的な文脈で捉えられていることが多いような気がします。
　しかし『ペーパーチェイス』は、まさに学ぶことをめぐる映画なのです。もちろん、映画的な味付けとして、ステロタイプな厳しい教授や、謎の美女（バイオニック・ジェミー以前のリンゼイ・ワグナーが魅力的です）との恋愛や、友人との葛藤、図書館に忍び込むといった冒険などが盛込まれ、実際のロースクールの大変さに比べれば「お気楽」に見えてしまうかもしれません。しかし、大学に学び、学ぶことや人生に悩む若者たちを真正面から描いて、このように胸を打つ映画は、僕には他に思い起こせそうにありません。
　この映画が製作された1973年は、ようやくベトナム戦争が敗北に終わろうとし、ウォーターゲート事件が世を賑わせていたころでしょうか。少し前までキャンパスに吹き荒れていた政治運動の嵐はやんだものの、方向を見出せなくなっていたのかもしれません。
　ラスト、試験勉強を完遂した主人公に悔いは見えませんが、「学ぶこと」に対する思いは単純ではありません。映画がそこに決着をつけないことも、とても素晴らしいと思います。
　あまり評価できない監督ジェームズ・ブリッジスにとっては、最高の作品ではないでしょうか。また、ティモシー・ボトムズの軽やかさ、しなやかさがこの映画の大きな魅力です。『ラスト・ショー』『ジョニーは戦場へ行った』『暁の七人』などとともに、彼の代表作と言っていいと思います。７５点。

ロキュの69日連続レビュー　�V　　第23日

　　半濁音で始まる題名の映画レビュー・シリーズ　　「ぺ」

(　ネタばれあり)
訴訟大国アメリカ。　法廷や弁護士の映画も多数ありますが、本作はハーバード・ロー・スクールに通う学生の青春ドラマ。
　新入生ハートは厳しい指導のキングスフィールド教授の講義の洗礼を受け、法律家になるために、猛勉強の学生生活を過ごすことになります。

　ハート役のティモシー・ボトムズ。　当時22歳。『　ジョニーは戦場へ行った　』でデビュー。
『　ラスト・ショー　』、本作と1970年代を代表する若手スターの一人でした。
弟のサム・ボトムスは『　ラスト・ショー　』『　地獄の黙示録　』に出てます。
　
スーザン役のリンゼイ・ワグナー。　当時24歳。　美人です。　モデル出身でロバート・ワイズ『　ふたり　』、本作で注目されて、「　バイオニック・ジェミー　」でブレイクするのは3年後。
　
　キングスフィールドを演じたジョン・ハウスマンは当時71歳。　作品を決定づけた圧倒的な威圧感。　　事実上映画初出演の本作でアカデミー賞助演男優賞受賞。
　オーソン・ウェルズとマーキュリー劇団を創立した人で、オール黒人キャストの「マクベス」
ラジオ「火星人襲来」、「クレイドル・ウィル・ロック」(その上演の顛末はティム・ロビンスが監督して映画化)などを製作。
　映画も『　炎の人ゴッホ　』『　雨のニューオーリンズ　』などを製作。
　ジュリアード学院で演技指導の教鞭を取っていたところ本作に起用された。
　ちなみに、彼を抜擢したロドリック・ポールは当時21歳で、ハリウッドのメジャー作品のプロデューサーとして異例の若さが当時話題となりました。　

脚色・監督はのちに『　チャイナ・シンドローム　』を撮るジェームス・ブリッジス。
撮影は『　ゴッドファーザー　』『　アニー・ホール　』のゴードン・ウィリス。
トリビアを書くと、『　ペーパー・ムーン　』と同じ年の作品で、アカデミー賞授賞式でプレゼンターのシビル・シェパードは言い間違えました。

　さて、キングスフィールドが教える科目が憲法でも、警報でも、財産法でもなく、契約法というところがこの映画のミソと思います。

　著書「　フランス料理を私と」で伊丹十三は山本七平と契約について対談していますが、それによれば、西欧の思想の中核に契約があります。
　ユダヤ教とそこから派生したキリスト教は、神と契約する宗教であり、神との上下契約が契約の根本。　人間同士の契約はそこから付随・派生したもので、当事者相互の合意を神との契約が裏打ちしている。　　契約違反は、契約した相手への不実で済まないで、神への約束違反を意味する、とのことです。　　　近代化して世俗化しても、考え方の根本に神との契約があります。
　
別の見方をすれば、神との関係も契約の論理的正当性・整合性を質すことが可能です。
絶対的に強い力、上位の存在にただ従っているわけではない。
「　弁護士はユダヤ人に限る　」というのはユダヤ人は弁が立つというステレオタイプで、「悪賢い　」という人種偏見にもつながりかねないですが、律法の解釈をめぐって論理の立て方、理論武装の巧みさを伝統的に持っていることを指すとも言えましょう。
　
ちなみに同著ではフランス料理のメニューなども「　契約　」であり、コース料理の順序からワイン選定まで厳格な約束事としていることが興味深い。
　一方の日本人は、序列・親疎を示す「　顔　」を読み合い、あれこれ質すのは「　野暮　」、「　おまかせ　」「　よろしく　」「　同じ釜の飯を食う　」「　あうんの呼吸　」など、言葉や論理で明示されないことで社会が回っていると言ってもいいでしょう。
　
　本作が描くのは、いかにリーガル・マインドを身に着けるかであり、講義が思考訓練の場であるところがおもしろい。
　暗記能力に長けていても、分析・思考能力がない者が脱落する点でも明らかです。

　なお、日本語版は吹替が柴田恍彦、田島令子、鈴木瑞穂なので、僕は楽しみました。

この目立たないが秀作にレビューが1件とは哀しい。ジェームズブリッジスという監督は目立たないがコンスタントに良作を作っている好きな監督だ。「チャイナシンドローム」「ブライトライツビッグシティ」等いい作品を発表している。主役も「ラストショー」からイメージ一新してちょっと驚いたティモシーボトムズ、相手役もようやくDVDになって観れたロバートワイズの佳作「ふたり」でデビューしたリンゼイワグナー(裸になっていたのには驚いた)といい組合せだ。しかし、ワグナーも映画での輝きは本作が最後となるとは思ってもみなかった。もっとイケルと期待していたのだが。(「ナイトホークス」の出番のなさは哀しすぎる。)結果、TVに活路を求め「バイオニックジェミー」で蘇っただけまだ良かったか。本作は「いちご白書」と同じくアメリカ大学生事情を垣間見る事が出来るのが新鮮で興味深々である。エリート学生達の明暗や、ちゃっかりした一面等どこの国もやっている事は似ているなとか最後まで面白く観れた。ラストの主人公が悟った様に試験結果の中身を見ずに紙飛行機にして海に飛ばすシーンはいい印象が残る好感作である。

ハーバードの法科大学院の生活を描いているが特殊な大学生の生活を描いた[FACEBOOK]などよりリアリティーがある。
競争激烈なLAW SCHOOLの実態をそこで勉強する学生たちの生活と厳しい教授の授業を通じて浮かび上がらせる。
院生でもトップグループに入らないと将来の地位は保証されない。学生の勉強会もエゴとエゴのぶつかり合いであり当然ドロップアウトするものも多い。しかしドロップアウトするものが全否定されるものでもない。
ただ法律家になるための猛勉強と競争に向かなかっただけである。
意地悪で冷酷に見える教授も院生に法律家としての考え方をたたき込むという点では有能でフェアな人物である。
現に主人公は猛勉強し法律家としての考え方だけでなく名前も覚えてくれない教授を正しく評価できるようになった。
最後に成績表を紙飛行機にして飛ばす場面は私は彼が勉強の結果ではなくその過程で得たものに自信が持て「一皮むけた」状態になったと感じた。

の厳しい日常を描く。ジョン・ハウスマンの教授がいい味でした。