その男ゾルバ

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

　政治的圧力で一時期軟禁されていた
ミキス・テオドラキスによる有名な「ゾルバのテーマ」。
ベジャール・バレエでよく耳にするギリシャ曲だ。

　テオドラキスマニアの知人がいきなり貸してくれた
このＤＶＤ、肩組んだオッサン２人のスチールをよく
見るんで、もっと能天気に踊りまくる映画かと思っていたら、
結構重い所もありました。

ゾルバ、登場からして怪しい。うさんくさい。
でも彼の笑顔を見ているとどんどん物語にもひきこまれるのが
不思議だ。（怪しいのは変わらないが）

　舞台はクレタ島。よく見る観光案内の青と白のギリシャでは
なく、さびれたモノクロの村はちょっと怖くもある。
　辺鄙な土地の隠された土着のニオイというんだろうか。
　女性の地位は低いらしく、よそ者に身を許した裏切り者の
未亡人はシチリアのヴェンデッタよろしく首をかき切られ、
過去の思い出にすがる老女は、生きながらにして
自らの死を待ち焦がれる「泣き女」のギラギラとした眼に
さらされる。

　人生を楽しまなきゃ！　女は抱いてやらなきゃ！
　にこやかに言ってのけるゾルバ自身も、実際は
そんなにかっこよく華やかに生きているわけでもないのかも。

　女・酒・死・失敗
心が浮き立つ時も辛くてたまらない時も、ゾルバは飄々と踊る。
　ラテン系の人々には、いい加減さや厚かましさで
時々イラッとさせられる事がありますが、慣れちゃうと
ものすごく心地よく楽しい。あの感じかなぁ。
感情を抑えた英国紳士の心も、次第にゾルバに解放されていく。

特典映像にかなり長尺で入っている
アンソニー・クインの伝記が面白いです。
キャリアの長さと出演数の多さにもびっくり。
仕事以外には、女性や芸術も満喫して
「人生を一秒も無駄にせずに謳歌した」なんて
ゾルバそのもの！　
（子供何人作ってるんだか数え切れないんですが！？）
「道」久々に観ようかな。

うまくいかなくても気をもむな！
ダメでも生きてるだけで丸儲け！
そんな超ポジティブ精神の男の魅力を描いた映画です。

アンソニー・クインが主役をはった作品としてはフェリーニの「道」で演じた大道芸人ザンパノの印象も未だに強いのだが、今度のゾルバを見て確信したのは、さしずめ三船敏郎だということｗ
愛すべきキャラクターだ。

それにしても後見人のない者が死んだら財産奪い放題！
...村八分で公然とリンチのシーンなどは仰天でしたが、死神みたいなババァが大喜びで物を物色しまくったりするのには仰天というよりも可笑しかった。

「その男ゾルバ」（1964年、アメリカ／イギリス／ギリシャ、白黒、146分）。

今、見ています。

僕の敬愛するレビュアーが書いている。

「ラストの爽快感！」（掲載日： 2013年04月29日 レビュアー： 趣味は洋画）

彼は、ずいぶん前に観て、書いているのだ。

「趣味は洋画」氏のレビューにある、的確な描写を、引用しよう。


【以下、引用始】

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

イギリスの作家バジル（Ａ・ベイツ）は、ギリシャのクレタ島へ渡るためピレウス港で
出航を待っていた際、見るからに粗野で頑強そうな男、アレクシス・ゾルバ（Ａ・クイン）に出会う。
二人は意気投合し、バジルは亡父の遺産である亜炭の採掘現場の現場監督にソルバを任命、ゾルバは若きバジルを
‘ボス’と呼ぶ。　亜炭の山があるクレタ島の山村を舞台に、バジルは様々な土地の人々との交流を通じて、
人生の悲哀、喜び、感動を体感していく．．．
ゾルバとバジルが住むことになるホテルの女主人マダム・ホーテンス（Ｌ・ケドロヴァ）とのやりとりや、
未亡人（Ｉ・パパス）とバジルとの恋模様などを絡ませ、物語は一気にラストへと突き進んでいく。　

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

【以上、引用終】

この映画の「はっ」とするところは、「趣味は洋画」さんが表現した、後半の「一気にラストへと突き進んでいく」ところではなかろうか？

I（イレーネ）・パパスが、美しい。
A（アラン）・ベイツは、名演。今は、おっさん（貫禄）になって（「トータル・フィアーズ」のテロリストの親分が）いるが……。
A（アンソニー）・クインは、いつも、いつも、体の人だ。体が声になった名優だ。

「その男」は、
アラン・ベイツの前で踊る。
マダム・ホーテンス（リラ・ケドロヴァ）と踊る。
最後、浜辺で一人、踊る。

ゾルバ（クイン）は、このメロディ、リズムが鳴ると、体が自然に動く。

「やあ！」と、自分に掛け声をさけぶ。

誰も、本人さえ、止めることはできない。踊る。

息を切らし、砂浜に手を突いて倒れ、仰向けになり、

俺は正気を失っていないと、呟く。

クインは、誠に名優だ。

この映画を見ると、「ザンパノ」が「道」で、浜辺で泣く場面が、寝る前に来る。

全身が、感情を発する、強く、繊細な役者だ。

イギリスの作家バジル（Ａ・ベイツ）は、ギリシャのクレタ島へ渡るためピレウス港で出航を待っていた際、見るからに粗野で頑強そうな男、アレクシス・ゾルバ（Ａ・クイン）に出会う。二人は意気投合し、バジルは亡父の遺産である亜炭の採掘現場の現場監督にソルバを任命、ゾルバは若きバジルを‘ボス’と呼ぶ。　亜炭の山があるクレタ島の山村を舞台に、バジルは様々な土地の人々との交流を通じて、人生の悲哀、喜び、感動を体感していく．．．
ゾルバとバジルが住むことになるホテルの女主人マダム・ホーテンス（Ｌ・ケドロヴァ）とのやりとりや、未亡人（Ｉ・パパス）とバジルとの恋模様などを絡ませ、物語は一気にラストへと突き進んでいく。　
それにしてもＡ・クインの迫力ある演技ぶりは頼もしく、他の俳優の追随を許さない。　Ｌ・ケドロヴァはもともと舞台女優で、元高級娼婦の女主人をコミカルの演じ、アカデミー助演女優賞を受賞した。　Ｉ・パパスはＡ・クインの推薦で出演した６１年「ナバロンの要塞」に続くクインとの共演である。
ミキス・テオドラキスの印象的なメロディーも忘れがたい。白黒映像だが、紺碧のエーゲ海が想像できる。　なんといってもラストの爽快感が満足感に浸らせてくれる。

粗野だけど憎めず、頼りになる男ゾルバ。
困った状況になっても、誰を恨むわけでもなく
献身的に、温かく応じてくれる彼のような
存在は稀有なのではないだろうか。
何とかなるさ、そんな豪放快活な男の作品。