大いなる西部

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

これは日本人が大好きだった西部劇です。　
キネマ旬報の1位で選ばれるなど評価も高く、興行的にもヒットしました。　ところが一方、本場アメリカでは評価も興行成績もパッとしませんでした。

グレゴリー・ペック演じる主役の東部男がかっこよすぎるのと、一方滅びゆく西部を思わせる展開で、痛快なアクション劇でないのがアメリカで受けなかった理由ではないか。
そして、壮大なスケールでの人間ドラマ、男と男の対決、親子の愛憎、男女の葛藤などが日本で受けた理由ではないか、と推測します。

それにしても西部劇は時代に合わなくなったとして、見られることが少なくなってしまいました。
でも広大な大草原と駆け抜ける馬。　こんな美しい被写体が見られないとは寂しいことです。　

そしてアメリカ人とは何かと考える時、アメリカ映画の魅力を考える時、西部劇こそが原点だと思います。
この映画の本当の主役、物語の芯となるのは対立する二人のボスを演じるチャールズ・ピックフォードとパール・アイブス(この作品でアカデミー賞助演男優賞)です。
良くも悪くも、ああ、アメリカ人だな、と思わせる名演技です。

監督はウィリアム・ワイラー。　
さすがに壮大なスケールで、格調高い、西部劇の名作です。

安直な西部劇ではなく、社会的なテーマも伝わってくる知的な作品。
グレゴリー・ペックが演じる東部から来たリベラルな男はもちろんのこと、
彼と対照的に西部の荒っぽい男たちも渋くて素敵。
牧童役の若きチャールトン・ヘストンが驚くほどカッコいい！
裸よりウェスタン・ファッションの方が絶対似合ってるよ！
雄大で颯爽としたテーマソングも素晴らしかった。
「The Big Country」を「大いなる西部」と訳した邦題にもセンスを感じる。
今ならカタカナで「ビッグ・カントリー」にしちゃうんでしょうね。

代表的な西部劇とされている映画だけれど、ただの撃ち合いノウテンキ映画とはかなりちがう。銃を使わない勇気、ひとに見せるのではない本当の勇気を描いていて、グレゴリーペックは、アラバマ物語の弁護士に近い。
三十年ぶりに観たのだけれど、アメリカ、いまこそこれを思い出せ、と言いたい。牧場主、まるっきりブッシュじゃないの。

それにしてもこの音楽。おおらかなビッグカントリーは、ああ、アメリカ。今思うと、僕はこれに誘われてアメリカで２年間暮らすことになったような。

冒頭テロップのキャストに“ジーン・シモンズ”の名前が出てきて、あのヘビメタバンド「キッス」の彼か？と一瞬思ったが、そんなバカな、年代的にそんなはずはない。見進めると女優さんの名前とわかり納得。つづりは違うけど、日本語のカナ表記だと同じになっちゃう。と、そんなことはどうでもいいんだけど...

タイトルになっているとおり、雄大な西部の荒野はいいですねえ。実際に住むには厳しい土地だと思っても、やっぱり憧れるんですよね。
この西部劇は、銃がすべての片をつける定番ガンファイトものではなく、西部開拓時代の終焉を描いたもので、力による支配から法の支配へと移り行くアメリカの新時代を映している。対立する両家の主、ヘネシーとテリルの差しの勝負による相撃ち決着は、それを印象付ける格好のシーンでしたね。また、自らの経験と感で動くカウボーイたちに対して、地図とコンパスで荒野を正確に渡るジム（グレゴリー・ペック）の合理性にも時代の移り変わりが表れてました。

往年の名優さんたちはみな凛とした存在感があって、輪郭がくっきりしてるというか、一般人とは明らかに違う特別な人って感じが強いんですよね。今の俳優さんがダメだというわけじゃないんだけど、なんかこうスクリーンでの輝きが違う...
チャールトン・ヘストンというと、『十戒』のモーセとか『ベン・ハー』『猿の惑星』など、スペクタクル映画の主人公というイメージが私には強いんだけど、西部劇でこうした役をやってるとは意外でした。ジーン・シモンズやキャロル・ベイカーなどヒロインもキリッとした美しさがあって、「う〜ん女優だな〜、美女だな〜」と画面に惹きつけられてしまう。

近年の映画がＣＧやＶＦＸなど技術を駆使して凝った画面と大迫力を創り出していても、その登場人物に見入ってしまうような経験が少なくなっているのは、俳優の小粒化ということがやはりあるんじゃないですかねえ。もちろん、私個人の思いですが...

「大いなる西部」（1958、米国、カラー、167分）。
監督はウィリアム・ワイラー（1902〜1981）───「ローマの休日」（1953）、「友情ある説得」（1956）、「ベン・ハー」（1959）。出演は、グレゴリー・ペック、バール・アイヴス、チャールトン・ヘストン、ジーン・シモンズ、キャロル・ベイカー。フォーク歌手でもあったアイヴスは本作でオスカーの助演男優賞を受賞。フランツ・F・プラナーのカメラは特にシネスコサイズの遠望撮影で力量を見せ、ジェローム・モロスの交響楽が見事にマッチしています。
1870年代。南部テキサス州の西の町「サン・ラファエル」に、東部から「ジェームズ・マッケー」（ペック）が到着。彼は大地主「ヘンリー・テリル少佐」（チャールズ・ビックフォード）の娘「パット（パトリシア）」（ベイカー）と結婚する予定。牧童頭「スティーヴ・リーチ」（ヘストン）が出迎えるが、「パット」に惚れている彼は面白くない。（後日、荒馬乗りの場面の後で意気投合。）「テリル」家と対立する大地主「ルファス・ヘネシー」（アイヴス）の息子「パック」（チャック・コナーズ）らに「ジェームズ」は暴行を受ける。両家は水源地「ビッグ・マディ」を買収しようと競り合っていた。所有者は「パット」の親友の教師「ジュリー・マラガン」（シモンズ）だが、どちらにも土地を売らない。「テリル少佐」は娘婿が受けた狼藉の仕返しに「パック」たちを懲らしめる。暴力に批判的な「ジェームズ」は「ジュリー」に会って親しくなり、誰にでも水を分け与えることを条件に、「ビッグ・マディ」を買う契約を交わすが、「パット」は嫉妬の炎を燃やし、「テリル」「ヘネシー」家の対立を煽ることにもなった。「パック」は好きだった「ジュリー」を誘拐して自分の牧場に監禁する。「ジェームズ」は「ジュリー」を救出に行き、「パック」と決闘する。息子が卑怯な手を使おうとしたので父「ルファス」は射殺する。「テリル少佐」と牧童頭「スティーヴ」の一隊が到着し、撃ち合いが始まった。最後は両家の総領「ルファス」「テリル少佐」の単発銃を使った一対一の欧州式の正式決闘で終わる。
ペック演じる「ジェームズ」は結局、良心を発揮した結果、対立を煽り、それを終結させる触媒に過ぎなかったと思うのですが、いかがでしょうか。どちらの家にも利害の得失があるのですが、息子を射殺した「ルファス」の最後の誇り高さが際立っています。