奴らに深き眠りを

日本では劇場未公開作品のようですが、これは‘掘り出しもの’で、予想外の面白さです。
原題のHoodlumは‘ならず者’の意味のようですが、邦題が‘奴らに深き眠りを’．．．どなたがつけたか存じませんが、うまいタイトルを付けたものですね。
その原題、邦題どちらにもあてはまる内容で、しかも誰もが知っているマフィアやギャングの名前が続々登場します。そして、それを演じる役者がみな強者ぞろいで、‘役になりきっている’から迫力があります。

舞台は１９３４年のニューヨーク・ハーレムで、ナンバーズ賭博を仕切っているのがマダム・クイーン（シシリー・タイソン／黒人の名女優、貫禄十分）です。
それを我が物にしようと企んでいるのがダッチ・シュルツ（ティム・ロス／いつものキレた演技が秀逸）で、彼はニューヨークを牛耳っているラッキー・ルチアーノ（アンディ・ガルシア）の言うことも聞き入れません。
ルチアーノは地元検事のデューイ（ウィリアム・アザートン）に賄賂を渡し、‘この世界’の存続と繁栄を暗黙に了解させているのです。
そういった状況下、刑務所を出所した‘バンピー’・ジョンソン（ローレンス・フィッシュバーン）が、従弟のイリノイ・ゴードン（チ・マクブライド／又はカイ・マクブライド）と再会し、共にクイーンの護衛として働き始めます。
ルチアーノの発案で、シュルツとクイーンの話し合いがもたれますが、物別れに終わり、両者の対立は激化、抗争事件へと発展します。

まあ、お馴染みの暗黒街ストーリーなのですが、脚本と構成がしっかりしている分、飽きることがありません。
ジョンソンが想いを寄せる黒人運動家のフランシーン（ヴァネッサ・ウィリアムス）の登場や、悪徳警官フォリー警部（リチャード・ブラッドフォード）の介在など、恋愛や裏切りなども絡ませた展開は抜群です。
さらに、シュルツの右腕のバブ・ヒューレット（クラレンス・ウィリアム・�V）が、最後にはジョンソンと手を組むあたりは、やはり黒人同士の何か心のふれあいが感じられて、単なるギャング・アクション映画ではないことを証明しているようです。

最後に、どうしても注目してほしい俳優が出ていました。主人公ジョンソンを陰で支えるベテランの部下、ウィスパーズ役のポール・ベンジャミンです。実に渋いです。
彼のファンになったのは、７９年「アルカトラズからの脱出」で、刑務所内の図書館の係員をしているイングリッシュ役が最初でした。強烈な印象（いい意味で）でした。
６９年「真夜中のカウボーイ」や８７年「ナッツ」は、彼が出ているからゆえ、その後に観た記憶があります。

久しぶりに迫力あるいい映画を観ました。

ローレンス・フィッシュバーンの存在感が際立った作品。脇もティム・ロスやアンディ・ガルシアといった芸達者がそろい重厚な作品に仕上がっています。個人的にはギャング・オブ・ニューヨークよりもこちらの方が面白かった。

こういうキレキャラやらせたら今の所、ティムロスが一番じゃないか？

大恐慌期、NYに実在したギャングの抗争を扱っているわりには緊迫感がない。
ほぼ同時期のハーレムを舞台にした「コットンクラブ」の姉妹編のような感じ。
「コットンクラブ」にはミュージカルかギャング映画か、はっきりして欲しいイライラがあるが、
こちらには笑いがあります。苦笑いだけど。

そのコッポラ監督の「コットンクラブ」で脇にいた人達に、こちらではスポットライトが当たる。
ハーレムの女王ことステファニー・セントクレア（シシリー・タイソン）の登場がそうである。
彼女が仕切っていたナンバース賭博の利権を当時（恐らく禁酒法が撤廃された頃だろう）
新たな資金源としてダッチ・シュルツ（ティム・ロス）が暴力で奪い取ろうとする。
それを機にクイーンの腹心であったバンピー・ジョンソンが、のし上がっていくストーリー。
（主演のローレンス・フィシュバーンは「コットンクラブ」でも出番は僅かだが同じくバンピー役だった）
因みに本作は当時のハーレム及び周辺を再現しているが実際にはシカゴで撮影されているという。

笑いの筆頭はティム・ロス、面倒な事は銃で解決する凶暴なシュルツ役、そのキレた演技。
対峙するのはアンディ・ガルシア、あくまで冷静沈着に（いかにして法をすり抜けるかという）
ビジネスを展開するラッキー・ルチアーノ役。
顔真似で迫るも、やや貫禄不足か、暗黒街よりウォール街の方がお似合い。
リチャード・ブラッドフォードの悪徳警官ぶり等々、脇役陣が豊富。
ヴァネッサ・ウィリアムスのシーンは、パッと花が咲いたように奇麗。
等々、決して楽しめないってことはない。ただ、アクションが軽かった。

映画的伏線というものが用意されないため、例えばブロードウェイの銃撃戦など
見せ場になりそうなシーンで盛り上がらないという。

クライマックスはダッチ・シュルツの暗殺シーン。
滑稽なようでも、あのシーンはノンフィクションと言える。完全に主役を喰ってる恰好。

その後、20時間死の床にあったシュルツにマダム・クイーンが送った電報は
「As ye sow, so shall ye reap （自分で蒔いた種は自分で刈り取らねばならない）」
　　　　　　　　　　　
ラストは意味不明な、フィッシュバーンのクローズアップより、
主演ティム・ロス、助演ティム・ロスにはこの言葉で〆て欲しかった。