ジャック・ザ・ベア／みんな愛してる

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　少々殺伐とした界隈で成長していく子どもと、はじめ彼のヒーローだったが、息子の成長とともに壁にあたる父親の様子が丹念に描かれた作品です。ダニー・デイビトは哀愁をただよわせながら好演し、この作品を通して家族のあり方を説いているような印象を与えています。しかし私は、この作品の本質は違うところにある、と考えています。

　ＴＶ番組自体を十分な成功に導き、しかも自分なりの正義感を貫いてきた彼は、番組内で若者の心の闇につけこんで煽る極右政治家を糾弾し、職を失います。彼は自らの言葉に不足を感じこそすれ、後悔があったはずがありません。納得できるはずもない番組降板は、失語症に陥る次男の姿へのやるせなさとも相まったはずで、映画的には、乗り込んだ番組制作局で暴れさせる選択肢も、生放送をジャックさせ視聴者への感動的な語りかけをさせる選択肢も、ありえたのです。実際、混乱のさだなかで、彼が攻撃的な側面を持つことが、クローズアップされています。明確な意図を持った強い行動や言葉は、観劇者の気持ちをつかんだことでしょう。
　『息子たちを、失いたくないんだ』。この映画が選んだのは、さえないおっさんがはじけもせずに上司の圧力に屈服する、実にさえない結論でした。勝手をする君を信じられないとつっぱねる上司に、ひたすら、もう一度チャンスをくれ、信じて欲しいと請い続ける、風采のあがらない中年男。作品にがっかりする若い方々の顔が、目に浮かぶようです。

　しかし、本当にさえない結論でしょうか。もちろんある程度の人生経験がある方ならば、家族を守るために万難を排し、信条を曲げることも厭わない、“親の責任”の発露が、このシーンのもう一つの面であることに簡単に気付かれるでしょう。正しいことを、正しいことだと思うまま、力のままに押し通すことは、侮蔑と悪意によって若者をミスリードすることの次に、簡単なことです。最も大切なものを守るためであっても、自分の正義感に向かってつく嘘は、つらいのです。つらいことはわかっている、それでも“必要”なのだから、やる。これが、大人になる、ということなのだと思います。
　私はこの映画が真に伝えたいテーマは、年齢が十分に達した人々への、つまり成人の、“大人への成長”だと、考えているのです。振り返れば、登場人物のほとんどが、大人になりきれない大人なのです。結婚生活の重大な岐路を乗り越えないまま逝ってしまった母親。薬に夢中で息子が眼中にない隣家の親。息子も隣人も気分のまま責めてしまう向いの父親。もちろん、狭い価値観・経験しか持ち合わせず、つまらない煽りに単純に乗せられ、自分の反発心をコントロールできない、ゲイリー・シニーズの演じた、あまりにも悲しい“若者”も...。
　ダニー・デイビトは、レギュラー番組への復帰にこだわりません。なんでもいいから仕事に戻して欲しいというったえる中で、最初に口をついたのは“子ども番組”です。
　『健全で楽しい子ども番組』。ついて出た言葉は彼を原点回帰させ、彼にさらなる成長を希求します。モンスターになって私たちを追い掛け回して欲しいという近所の子どもの無邪気な要望に、彼は一瞬立ち止まって“必要”に心を寄せるのです。幼子の現状と未来に、何が必要か。彼はすぐに答えを出せませんが、『次は違う遊びをしよう』という別れ言葉に、にじみでる悩みと想いの深さ、そして生まれた若者への責任感を感じるのです。

　今日も、悲惨なニュースが流れています。私はとても他人事に受け取れません。
　今、子どもたちはインターネットの影響をどっぷりと受けています。片面真実を都合よく利用して立場を確保しながら、作品を、寄せる言葉を、おまえの生きる国も、周りの人々も、なにもかもを疑え、悪意にまみれていることに気づけと煽り続ける浅薄な意志。広大なインターネットの地象では片隅にすぎないDISCUSのレビューにさえ、そんな言葉が踊っています。
　若者から誇りを奪うことが、他者への侮蔑をかきたてることが、どれほど未来を広げるというのか。私がレビューを書くとき否定をつないでいくことを嫌うのは、この疑問に起因しています。ある作品には一定の生育歴の若者に力を与える可能性がある。それがミスリードであると思うなら、そう疑問を寄せれば十分です。映画の知識があるなら、その力に応じて大人の責任も発生します。
　私も、主張にこだわるあまり敵愾心を煽ってしまうことがあります。殺伐としたニュースに会ってしまったとき、そのことが悲しい。いかに怒りを感じても、もっとゆるやかに、時間をかけて道をつないでいく方法があったはず。

　私はまだまだ生乾きです。

心に傷を負った人間を描くヒューマンドラマは、つらく哀しい、そして切ない。
この作品もそういった種類の内容でした。
最初から、何かもやもやした物が漂ってましたが、ラスト１５分ぐらいでそれがサスペンスとして噴き出します。
サスペンス色は不必要だったと思いますが、もっと別の何かにしたほうが、作品のバランスとしては良かったと思います。
しかし基本的には切ない人間ドラマです。
わたしも、最後は泣いてしまいました。

弟ディラン役の子役マイコ・ヒューズ、何処かで見た事あると思って、調べてみましたら「マーキュリー・ライジング」で自閉症のサイモンを演じた子でした。
本作のほうが先ですが、こちらでは誘拐され無口になる子を演じていて、これを見てマーキュリーに抜擢されたのかもしれません。

ダニー・デヴィートは何でも出来る器用な役者ですが、こういうタイプの役のほうが、ぴったりくるかも。
哀愁が身体からにじみ出ていて、演技との相乗効果でとてもいいものになっている。

かなり変わったホームドラマです。子供のころのリース・ウィザースプーンが美少女役で出てくるのですが、あごがしゃくれていて、どちらかというとブサイク。それなのに、美少女を自然に演じているところが凄いです。そのウィザースプーンは映画の途中で退場してしまいますが、主役のダニー・デビートがＴＶのホラー映画劇場のホスト役なので、懐かしいホラー映画のモノクロ映像がたくさん出てきてホラーファンにはうれしいです。ロン・チャーニー・Ｊｒのオオカミ男なんかが見られます。音楽が数々のＢ級ホラームービーを手がけたジェームズ・ホーナーというのも、マニア的にはうれしいのですが一般の観客にはまったく関係ないポイント。それはともかくストーリーがよく出来ていて、家族の愛情に結構泣かされます。子供の演技も（ウィザースプーンも含めて）自然ですし。ダニー・デービートのオーバー・アクトもこの場合は良い方に出ております。車とかファッションとか、７０年代の雰囲気も良く出ていましたが、あのナチシンパだけはちょっと浮いてました。近所にいたら怖いけど、実際にあんな人いるんでしょうか？ただの人種差別主義者なら今もたくさんいるでしょうけど、ナチシンパですからね。「プロデューサーズ」のナチシンパは楽しかったけど、こちらは全体がリアルなストーリーだけに、気になりました。

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ゲイリー・シニーズをあそこまでサイコにする必要はあったの？とは思ったけれど、Jack役の男の子の演技が心に迫って涙が出てきちゃいました。家族ってやっぱりいいですね。そしてとっても難しい。ゲイリー・シニーズがとても好きなんですけど、この作品ではあまり彼らしさが出てなかったような気がします。残念。

映画の主題はこうだろう。ならば、どうしてこういうエピソードを入れてくるのか。その違和感が最後まで、作品への感情移入を阻害する。そういう映画が時々ある。