座頭市　地獄旅

座頭市 地獄旅（１９６５年、日本・大映、カラー、８７分）

勝新太郎と三船敏郎が共演した、１９７０年「座頭市と用心棒」を観たのが一昨年、２０２０年１０月７日でした。あの爽快感が忘れられず、今回選択したのが成田三樹夫と共演した ‘地獄旅’ です。

座頭市（勝新太郎）は富士の初日の出を拝もうと旅に出た。道中で急襲してきた５人のやくざ者を瞬時の早業で退けた市は、江ノ島まで船旅としゃれこんだ。船内ではイカサマの丁半博打が開かれていたが、目の見えないことを揶揄われた市は、逆にイカサマを利用して大儲けする。その船には無類の将棋好きの浪人、十文字 糺（じゅうもんじ・ただす／成田三樹夫）が乗り合わせており、市と将棋をさす間柄となる。
江ノ島に着いた市は、船中でのイカサマ賭博の親分・江島屋（遠藤辰雄）らに取り囲まれたが、またしても凄腕の仕込み杖で退治した。だがこの時、通りがかりの芸人・お種（岩崎加根子）の連れていた娘ミキ（藤山直子）が負傷し、破傷風に罹ってしまう。市は責任を感じ、特効薬である南蛮渡りの生薬を入手するため奔走する。やがてミキを連れて箱根に湯治に来た市は、病身の若侍・友之進（山本学）と妹の粂（林千鶴）と知り合った．．．。

本作は座頭市シリーズの第１２作ですが、勝新太郎（1931.11.29 〜 1997.06.21）が３４歳のときの作品です。仕込み杖の早業と立ち回り、勝負勘、独特の臭覚、そして弱きを助け強きを挫く、そういった座頭市の人気キャラクターは世に知れ渡り、完成形にあるように感じます。

なので、そんじょそこらの悪人では太刀打ちできず、どうしても超凄腕の剣術使いなる武士の登場が不可欠になるわけです。そこで本作では満を持して成田三樹夫の登場と相成ります。
成田三樹夫（1935.01.31 〜 1990.04.09）は、‘悪役として史上最も主演並みに活躍した俳優’ として知られていますが、ボクは彼の悪役キャラが大好きで、ガキの頃から注目していました。
やくざ映画や時代劇の悪役で本領を発揮し、ドスの利いた渋い声とニヒルな表情が堪らない魅力でした。
そんな彼に度肝を抜かされたのが、東映の「柳生一族の陰謀」における公家・烏丸少々文麿の役です。ドスの利いた声から一変、脳天に突き刺さるような甲高い声、白塗りの顔面に紅の口元、見るからに女形と思わせるや、稀に見る剣の使い手、このキャラクターはいまも語り草になっていることでしょう。

その成田三樹夫演ずる十文字と、盲目の市が将棋を指すのですが、市はアタマの中に碁盤を描き、自分の「指し手」を口頭で十文字に伝え、駒を動かしてもらう。市も将棋はなかなか強いです。
市には目が見えないハンディがあるからと、十文字も同様にアタマの中に碁盤を描き、互いに口頭で「指し手」を言い合って勝負することになります。このあたり、２人の息が合って見事です。
やがて十文字の正体が明らかになってくるのですが、ここまで親近感を感じるようになった２人にも、‘その時’ がやってきます。非情です。

尚、上述の「娘・ミキ」を演じている藤山直子は、現在の大物舞台女優、藤山直美の幼少の頃の名前。
６歳か７歳の頃の出演だったと思われます。

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　船の上で相変わらず丁半博奕で金を巻き上げる座頭市。その恨みからヤクザに因縁をつけられつつ、将棋が上手い浪人と出会う。大道芸をしながら「強い相手と戦いたい」と言うニヒルな浪人のカッコよさ。
　ヤクザの襲撃で、たまたますれ違う親子が怪我をしてしまい、自分のせいだと親子の世話をする座頭市。そこに敵討ちをしようとしている兄妹と出会って……。
　
　何と言っても、カタキ役の浪人の成田三樹夫さんがカッコよくて。座頭市と将棋盤を使わずに将棋を指していくカッコよさったらないです。
　その分、中盤から話は温泉宿で親子との関係。そこで出会う敵討ちの兄と妹のくだり。ここから話が停滞してチト退屈でした。

　敵討ちが狙う男はその成田三樹夫さんの浪人で、活躍の場も特になくその兄妹の前にあっけなく終わってしまうのが不完全燃焼でした。
　座頭市に恋する女性、父親を将棋好きの浪人に斬られた子どもたちの敵討ち、浪人と座頭市の交流。3つのストーリーが展開していくのに、どれもイマイチ有機的に絡み合わずチグハグな印象の映画でした。

　子どものために薬を買ってくるけど、帰り道に襲われて盲目ゆえに薬を落としてしまって、探してもわからない。けど見ている観客にはその場所がわかっているという悲しさなんかはよかったです。
　浪人との友情。そこからの激闘死闘が見たかった映画でした。