無常

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これが長編監督第一作らしいが、既に実相寺節が大炸裂している。
手前の構造物で画面を切り取り、フレームを再構築する。度々、極端なズームアップのカットを挿入する。そして、やけに多用される移動撮影…ステディカムはまだ無いだろうから、レールを敷いてのドリー撮影だろうが、よくもこんなにレールを敷きまくったものだと感心する。新しい見せ方を模索していたのだろうか。

アクの強い映像と、それに反した音楽の使い方にはニヤリとさせられる。（母子相姦のシーンに、ラジオ体操とか♪）　何度かあるラブシーンは、「エッチな」というより、「エロい」。　隠れてこっそり見る昭和のエロ劇画といった趣だ。モデルさんみたいな綺麗な裸は出てこないが、女体の匂いがむうっと漂ってくるような画だ。　

畜生的行為を繰り返すマサオ（田村亮）だが、それは彼にとって狂気でなく、彼が思索の末に辿り着いた「無常観」を、確信犯的に体現しようとしているということらしい。
「快楽は欲を満たした時に得られる。欲を満たすという事は『悪』なのだから、極楽には何もない」　…終盤、自分なりの悟りを得たマサオの持論が繰り広げられる場面が、この映画のクライマックスになる。彼の理屈を「狂っている」の一言では片づけられない矛盾が、仏教にはあるのかも、と思ってしまう。もちろん、反論は用意されていると信じたいが。

やがて無常の象徴である「白い鯉」の出現をもって、この作品における実相寺節は結実する。
陰影たっぷりに、じっとりと人間の業を映し出す１４３分。　間口は狭いが、世の無常を感じたいならば、観て損は無いか。　

エロチックな内容よりも仏教談義が良かった。
最近、この手の邦画が少ない…っていうか無いね！
良い、悪いという概念よりも考えることの必要を感じる。

この作品は発表当時問題作であったし、実相寺監督のその後の作品も結局、処女作を超えるものはなかった。
司美智子はイレブンPMなどで、活躍したタレントだった。能面のような顔立ちが、印象的である。
当時は、反体制が時代を包んでおり、当時の若者たちは、それを当たり前のように思っていた。
僕もその一人であった。主人公は反モラル(反体制と言い換えても良い)の若者であり、住職は普通のモラルを
代表する人物である。この二人のやり取りは、当時の一部の大学生の反体制と体制のやり取りとも受け取れる。
僕はこの作品を数年おきに繰り返してみているが、主人公が姉を犯し師匠の妻を寝取るアンモラルな存在と見る
のが普通だが、脚本家や監督は革命と見立てていたのではないか。
田村亮は実相寺監督の長編映画の常連俳優であった。凡庸な俳優だが、品が良いので、実相寺監督の
混沌としたテーマを中和させる役目を果たしていたのではないか。

旧家の姉弟（司美智子、田村亮）、書生（花ノ本寿）、僧侶、不能の仏師（岡田
英次）、仏師の妻と息子（佐々木功）らが入り乱れ、何とも濃ゆ〜い人間関係
が展開します。というか、出てくる登場人物はみんな変態です（笑） なかでも、
姉弟の情事を覗き見ては、仏像を撫でまわす僧侶がいちばん強烈・・・。
田村さんの姉役の女優さんが、25歳という設定のわりにオバサン臭くて
少々気になったんですが、クレジットに「新人」となっていました。若いのに、
貫禄あるのね・・・。

屈折キャラを演じた田村さんは、この作品の公開当時、自らチケットを買って
映画館へ観に行ったそうです。大胆な濡れ場目当ての観客で大入り満員
だったとか。