娘・妻・母

「娘・妻・母」は原節子、高峰美枝子と森雅之を筆頭とするオールスターキャストによる豪華作品だ。たくさんのキャラクターを生かすためか、人物構成や位置付けもなかなか複雑で、嫁、姑、出戻りの娘に未婚の娘などが入り組んだ人間関係劇を繰り広げている。とは言うものの、親戚と関係者だけで物語が進むために、一歩間違うとTBSのホームドラマのような不自然さを感じさせもする。しかし、一見予定調和的な物語進行であるにもかかわらず、ラストに至るまで様々な問題の殆どは結局片が付くことはなく、その突き放した終わり方に凡百のホームドラマとは異なる味わいと趣を感じることができる。ただし、全体としてはちょっと大味だったかもしれない。

豪華俳優を多数揃えていて、顔見世興行的のような雰囲気がある。
封切られた当時、お正月映画として興行成績も良かったらしい。
内容は全てお金にまつわる人間の本音でぶった切られている。
いきなり投資信託の話で始まり、保険金、お金や物に執着する幼子、財産分け、香典、その他、最後はおじいさんの一日の子守代。
人が生きていくうえで、きれいごとばかり言っていられないというのも分からないではないが、現実的な言葉がポンポン飛び出し、正直見ていて心がささくれる思い。
「母もの」シリーズで世間の人の涙を誘った三益愛子の、寄る辺ない母の曖昧な笑みのなかに見える悲しみが胸に迫る。

まさに「渡る世間は鬼ばかり」を彷彿とさせるが、原節子という浮遊感を持った美しいお姫様が独楽の軸となってゆっくりと回り、下世話に傾きかける２時間ドラマを、美しい模様にして見せてくれている。残念ながら高峰秀子ではこの役割は出来ない。


「春生まれたから春子なんてどうでもいい名前をつけられた」このセリフには、希望に反して女として生まれてしまったので、同じ理由でこの名前を付けられた人が身内にいるので思わず笑ってしまった。

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「浮雲」が良かったので続いてこの作品を鑑賞。

羽振りの良かった姉の主人が亡くなりこの家庭に出戻ってくる。
現在では離婚は珍しいことではないことだったので
香典500円が最低の相場ということや　
60歳という年齢の感覚の違いに驚きつつ
ちょっと退屈して観ていました。
ところが中盤になってこの一見平穏な家庭が崩れてくるんです。

ほんの少し前　還暦の祝いに　心づくしの品を贈って
長寿を祈っていた娘、息子たちが
老いた母を　リスクの一つとして面前で話す
その残酷さに鈍い痛みを覚えました。
現実に身におぼえのある話です。
「兄さんと違って　ボクは可愛がってもらっていない」
間の抜けたセリフ　全く同じ言葉を聞いたことがあります。

どんな国、時代にも同じことが言えるのですが
金銭的に行き詰まった時に　初めてその面々の姿が
くっきりと浮かび上がるものだと思いました。
昔の映画だからとは言いきれない
触れたくない問題があるんですね。

そうして一旦吐露してしまった思いは　どう収まっていくのでしょう。
就職先としての結婚を選ぶ長女(本当は青年のことが好きでも)
節度ある他人として義母を看取ろうとする長男の妻
保身に徹する妹２人、そして次男の妻
それぞれの女性の対比が見物です。

地味ながらも　情感たっぷりに描かれていると感じました。
タイトルでは全く興味が持てなかったのですが　面白かったです。
たぶん　未婚の方や男性にはちょっと理解できない映画でしょう。
40代以上の女性の方にお薦めします。

お金の話はいやらしい…そう思っていたのに、この映画は全編お金の話。
会話の節々に幾らだ、何円だと、色々なことがお金に換算されていく。お金の話ばかりで進んでいくこの映画には最初少し驚いた。でも生きていくにはやはりお金が必要で、この映画は時代を経ても身の回りのどこかで起こっていそうな家族の不変の物語。
登場人物がとにかく多い。初めのうちは、誰と誰が姉妹で、嫁で、夫婦で、恋人で、訳が分からないのだけど、観ているうちにこの家族構成が分かってくると、その人の立場、状況、立ち振舞いがそれぞれなるほどなぁという具合に面白くなってくる。
嫁・姑問題、年老いた母の面倒を看るのは誰か、娘であり、妻であり、まだこの映画ほど状況は差し迫ってないけれど、これからぶち当たるであろうそんな予感をドキドキと秘めた映画。お金は怖い。土地も家もそこにどしんと構えているけれど、あっという間に火種になる。昔、1人暮らしをしている高齢の親戚の家に居候したとき、都会から他の親戚が私の真意を聞きに飛んで来たことがあったなぁ。
女性の立場から見ると、それぞれの女性の生き方がとても興味深い。できれば次男の妻である淡路恵子のポジション（自由で優雅！）で生きたいのだけど、現実の立ち位置は長男の嫁高峰秀子。彼女の抑えていながら淡々と家の中を切り盛りし、そして決意する姿はとても印象的。
地味ながらとても味わい深い映画です。
そして色々な世代に自分を重ね合わせて思いを馳せるのです。

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昔は「女は三界に家無し。」と言われており、生まれては父に頼り、嫁いでは夫の世話になり、老いては子に従うという様に、女に安住の地はないとされていたようです。
この家の出戻りの長女、早苗の立場を見ていて、この言葉を思い出しました。
48年前の作品ですが、家族の抱える問題、そこに流れる感情のようなものは、現代とさほど変わっていません。
こうしている今も日本の何処かで、同じような会話が交わされているかも知れません。
特に嫁と姑、その間に挟まれた男の優柔不断さは、これまでも、これからも、ずっと変わる事などないようです。
しかし、夫の勇一郎が妻の叔父の事で妻を責めたりせず、家族の前でも核心に触れなかった点で、（変な言い方ですが）偉い！と好感を持ちました。
また、財産の分配や親の扶養の問題は、見ていて心が痛みます。
親をまるで品物の様に、引き取り手を決めるなんて・・・
人間の本質は、リナさんがおっしゃるように、逆境の時にわかるものなのでしょうね。
長男の嫁がポツリと言った言葉は、何となく共感が持てます。
どんなに頑張っても実の娘にはなれない以上、所詮は他人と割り切って、愛情（それが難しければ誠意）を持って接していく方が、結局はうまくいくのかも知れません。
早苗が母を連れての再婚を決意しましたが、長男の嫁が封書をエプロンのポケットに隠したことから、この嫁の決意も窺われます。

それにしても、なんと豪華な俳優、女優陣。
かつての銀幕のスターに会えるだけでも価値がありそうです。