鮮血の情報

　実話かどうかは分かりませんが、ニュース映画風のナレーションも勇ましく、ドキュメンタリータッチで非情なる戦争秘話を描くこの作品は、スパイ訓練の鬼教官ジェームズ・キャグニーがとても素敵です。『白熱』や『彼奴は顔役だ』といった彼のギャングものには及ばないとは思いますが、ずんぐりした身体で受け身も軽快にこなすアクションがかえってリアルな印象を残します。
　ヘンリー・ハサウェイという監督は、そつなく娯楽作品をまとめる人で、御大ジョン・ウェイン作品も結構あるのですが、作家性はあまり感じられません。一線で活躍したキャリアが長いということはそれだけの何かがあろうとは思うのですが、こちらの感度が鈍いのか、よく分からない。
　この映画、個々の登場人物の内面に入り込まずに淡々と訓練を描く記録映画風に始まったものが、リチャード・コンテ演じる潜入ドイツ人スパイをめぐってサスペンスフルな劇映画に変わっていく、その変貌が面白いと思うのですが、ハサウェイは漫然と脚本を消化していくだけなのです。
　比較対象として相応しいのか分かりませんが、マンキーウィッツに『五本の指』というスパイ映画があって、こちらもＤデイ情報をめぐる実話を基にしています。マンキーウィッツはこの地味な実話から裏切りと歪んだ欲望のドラマを紡ぎだして見事なのですが、ハサウェイにはそういう関心はないのですね。実に非情で救いのない物語を、普通の娯楽作品として撮ってしまう。アルフレッド・ニューマンの魅力的なスコアのつけ方もいたって普通。そのためラストのこれまた記録映画風の唐突な終わり方にはびっくりしますが、面白くないわけではなく、やっぱり職人監督の鑑と賞賛すべきなのかもしれません。５５点。

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ＣＩＡ（アメリカ中央情報局）は１９４７年９月１８日に設立されたそうで、つまり本作の製作年と同じというのが奇遇です。
この映画は徹底的に「スパイの非情さ」が表現されており、ＣＩＡの前身でもあった戦時中の情報局秘密諜報部員による、ノルマンディー上陸作戦前夜の決死の行動が描かれています。

真珠湾攻撃で大打撃を受けたアメリカは、情報戦略の重要性を痛感し、１９４４年に至るまでに７６組の諜報員を養成してヨーロッパ各地に送り込んでいた。次の７７組目の諜報員養成に志願してきたメンバーには、オックスフォード大卒の士官候補生ジェフ・ラスター（フランク・ラティモア）、フランス人女性スザンヌ（アナベラ）、大学研究者パピー・シンプソン（メルヴィル・クーパー）、そして銀行マンのビル・オコネル（リチャード・コンテ）ら２２人がいた。指揮官兼教官のボブ・シャーキー（ジェームス・キャグニー）は、情報局長から‘２２人のメンバーの中に、ドイツのスパイが紛れ込んでいる’ことを知らされ、その人物の特定を命じられる。３か月の訓練と２週間の実地活動から、ボブはオコネルがスパイであると見抜く。オコネルはラスターと訓練中の同室で、互いに友情を深めあっていた。オコネルは本名をクンツェルといった。連合軍はノルマンディー上陸作戦を控えていたが、その成否はドイツ軍の裏をかくことだった為、クンツェルに偽の情報を掴ませて、オランダ国内に潜入させることにする。同時に連合軍は、ドイツ軍の秘密兵器Ｖ２ロケットに悩まされており、そこでロケット基地を徹底破壊する為、フランス国内に隠れている兵器部設計者デュクロワの生け捕り作戦も計画された。この作戦にボブは、ラスターとスザンヌ、それにオコネル（クンツェル）をオランダに降下させるよう命令するが、決行の際、クンツェルはラスターの命綱を切り、ラスターは墜落死する。クンツェルは既に密命を察知していたのだ。ラスターの代わりに、ボブは自らフランス入国を決意し、レジスタンスの協力を得ながら、デュクロワの生け捕りに成功する。だが、ボブはクンツェル率いるゲシュタボに逮捕され、スザンヌもボブが逮捕されたことを本国に打電するが、ドイツ兵に見つかり射殺される。クンツェルはボブから‘Ｄデイ’の情報を聞き出そうと拷問にかけるが、彼は頑として口を割らない。その頃、英国情報局ではゲシュタボ本部への爆撃計画が立てられ、万一、ボブが拷問に堪えかねて真相を話す前に、彼を含めたゲシュタボ本部ごと爆破してしまおうという非情の命令が下された。そして爆撃機が飛び立ち、ゲシュタボ本部が爆撃された。英国の情報局の意図を悟ったボブも、笑みを浮かべながら爆死する。

前半部で、スパイの養成訓練の様子が丁寧に描かれている。

オランダへパラシュート降下する際、機内でサポートしていた人物を演じているのは、まだ下積み時代のカール・マルデン。　さらに、チョイ役でＥ・Ｇ・マーシャルやレッド・バトンズも顔を出してりるなど興味深い。
オコネル（クンツェル）を演じたＲ・コンテは、後の７２年「ゴッドファーザー」や「ビッグ・ガン」でマフィアの大物を演じ、９５年「コピーキャット」にも出演している。

邦題タイトルの理解にやや苦しむものの、戦争スパイ映画としては一級品です。　ラスト、キャグニーが笑みを浮かべながら爆死するシーンは壮絶である。