斬る

勝王君の言うように　奇妙な映画だが　大映時代劇の凄みのある隠れた傑作　たったの７０分ほどの短さなのだが　カット数多く　その一カット一カットが　豪華で丁寧に撮られていて　今では絶対に実現しないだろう凝り様だ

原作柴連の無常観と　新藤兼人の武士道の無惨を強調した脚本が独特の世界を展開していて　出生の秘密をめぐる運命劇なのだが　さっさと仇を討ってしまった雷蔵にとって　これからの人生が空夢になってしまってさてどうするな展開が　静謐で奇妙な印象を与えるわけなのだが　敵が誰もいないがらんとした　和室のラストは秀逸にこの映画の核心を　表現している

藤村志保と万里昌代の凛とした　美しさも特筆すべきもの
秋のお勧め映画です

まるで悪夢を見ているような、実に奇妙な映画です。パッケージ写真を見ますとスタイリッシュな時代劇のようですが、中身はまるで違います。出生の秘密、云々とありますが、ストーリーがとても変です。だからつまらないというわけではありません。そのヘンなところが面白い。普通の映画だと思っているとついて行けないかも知れません。

映像で描く出来事を思い切り絞り込んで物語を進めて行く、なにか独特な時間の流れ方の映画です。
例えば、「三絃の構え」と云うキーワード的な技を主人公の信吾が会得する所は、信吾の語りで触れられるだけです。

その分、映像になっている事柄の表現の密度が上がるせいなのか、茶室や切腹の場面での雷様の所作の美しさがとても立ちます。
藤村志保さん、万理昌代さんの殺陣も、ただならぬ迫力を持ったものになっています。

追憶のみで完全に自足して幸福である信吾の父を演じる天知茂さんの演技が、なにか突き抜けちゃっていて、変で、すごいです。

この映画、何か変なのですが、何が変なのか正体を見極められない。もちろん、その変さはよい結果を生んでいるのですが。
とにかく、ご覧になってみてください（笑）。

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　床の間に生けられていた梅の一枝、それも香ってきそうな白梅、を剣代わりに敵を倒す剣士なんて雷さま以外に考えられないでしょう。数奇な星のもとに生まれた孤独な美剣士の一番の見せ場だと思いました。清潔な虚無感と言うか、透明な水の底の悲しみとでもいうか、独特の翳りをまとった雷蔵の美しさには何度も息を呑みました。短時間の大量殺戮や河原で宿敵を文字通り真っ二つに斬るなんてグロテスクさなこと、ほんとうはやらせて欲しくなかった。

　筋道立っていようがいまいが言いたいことを言うぞ、と意気込む西洋映画を見続けてきた直後のためか、何にも言わないこの映画が奇妙に思えました。冒頭の藤村志保の「お命申し受けまする」から３０年は経ている年月を７０分で見せる簡潔さ、というか省略もすごい。ラストで絶対「早まるでないぞ」とか声が掛かると思ったのですが。もっと知りたい楽しみたいなどという欲望は捨てて見なければならない映画ということでしょう。無常観と虚無感を心を虚しうして味わうべきなのでしょうが、私はまだ修行不足と思い知りました。

　修行不足の身で敢えて言わせて貰えば、主人公の逆向きのエディプスコンプレックスというべき志向が興味深かった。父と対立するのではなくひたすら父を慕うのですね。養父、実父、藩の殿様、江戸の大目付、それぞれの「父」の深い慈愛に生涯包まれています。エロティックとまではいかないけれど女性に対する時より深い情感を感じました。もっとも女性との交流は実質的には皆無ですが。
　物語を構築するというより一瞬一瞬の美に賭けたという感のある映像も美しかった。画面の少し右より、仰角気味の雷蔵のアップとか、最後の水戸の屋敷の襖を次々開けていくシーンとか、羽毛を使ったという雪とか、梅の花ももちろん。漆黒の地に浮かぶ金の蒔絵という感じ。

斬新で荘厳なモンタージュ、静かなストーリー展開、キレを感じさせる映画だった。ストーリーはよくわからないが、非常に個性的な雰囲気の映画だった。