トム・ホーン

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　大学生の頃リアルタイムで映画館で観た。Ｓ・マックィーン最後の作品「ハンター」も映画館で観たけど、「トム・ホーン」鑑賞後には、俳優マックイーンの老いた姿とトムのイメージとが重なるようで（トムの享年は42歳だったけど）、「スティーブはなんでこんな作品に出たのかなぁ」と切なく、哀しい気持ちになったものです。しかし、私も40代後半の年齢となり、19世紀末の合衆国の政情等の前知識も少しは有る状態でDVDを再鑑賞すると、昔とは別の味わいがあり、スティーブの全盛期の作品群と比較して☆3.5個程の満足度は得られました。
　自ら製作を兼ねるほどにマックイーン自身が惚れ込んだ映画であり、当初の監督はダーティー・ハリー生みの親のドン・シーゲルだったこと（結局は様々な事情から監督は3度も変わって4人目がＷ・ウィアード）や、トムの最晩年を描くのがマックィーンの情熱の矛先だったことなどが今では知られている。ただ、既にこの映画撮影の最中からスティーブの肺は今で言うアスベストによる中皮種からの肺癌に蝕まれていた事が、彼の演技から往年のシャープさを奪っていて、昔の僕には哀しさを感じさせた老いのイメージは今観てもつらい。
　主人公のトム自身は、1860年11月21日にミズーリ州の農家に生まれ、学校嫌いの少年だったそうで、マックィーンと同様に早くから家出して駅馬車の御者やら雑務やら、職を転々とした。17歳で米軍に斥候兵として雇われたが、、彼の経歴に箔をつけたアパッチ酋長ジェロニモとの降伏条件の交渉役を務めた頃のトムは若干26歳だった。
　映画ワイルド・バンチ(1969)でも古き西部開拓時代の終わりと、その中で生きた男達が時代の終焉とともに生を終えてゆく姿が描かれていたけれど、トム・ホーンも同様の最後を迎える。ただし、史実では1901年にワイオミングの牧場主の息子(14歳)を牧場主の父と間違えて射殺した容疑で投獄されたが、烈しくに容疑を否認した。そして一度は脱走を企てるが、即座に捕らえられた。それから後は自分の絞首刑に使われる縄を自ら織りつつ刑の執行までをすごしたという。
　映画の中では脱走前から「罠にはめられた自分を見切ってしまった」ように描かれていたトムは、この脱走後のイメージだったのかな？だからトムがなぜ「脱走」するのか、「山の向こうで自由だった自分を取り戻すため」という理由なら、ちょっと弱いような気がした。

スティーブ・マックイーンは思うところあって
本作品に入れ込んで撮影した・・・と、前知識を
入れて鑑賞した。
正直、どうしてこの脚本にしたのだろうかと
終始考えてしまった。
トム・ホーンと自らを重ねたのだろう。
描くならばこの晩年の姿よりも、
腕利きのガンマンとしての姿のほうが、西部劇として
十分成り立つはずなのに。

西部劇隆盛時代から２０年近く下った時代に、
枯れ行く映画と枯れ行くガンマン、そして
自分のなすべきことを感じたのだろうか。

ここでマックイーンは無辜の罪で処刑された実在の「元ヒーロー」を演じています。制作は1980年、脳天気な西部劇が作られるはずもなく、ニューシネマの残り香とこの後次第に盛り上がる伝記系の作品の匂いが感じされる作品となっています。

マックイーンがトム・ホーンに自身を重ねていたであろうことは想像に難くありません。西部の自然に生きる姿なのか、体制にへつらわない姿なのか、スターというよそ者としてのスタンスなのか、死と向き合うスタンスなのか、全てなのか、一部なのか。観る側も自然とマックイーンとトム・ホーンを重ね合わせます。

馬やライフルの扱いはさすがです。やはり野に置けマックイーン、でしょうか。

トム・ホーン（１９８０年・アメリカ、カラー、９８分）

１９８０年１１月７日　スティーヴ・マックィーン逝去。享年５０歳。

私の最も敬愛する俳優、スティーヴ・マックィーンが亡くなって、３８年以上が経過した。この間、様々なスクリーンを観るにつけ、彼の面影が脳裏から消えたことは一度もない。
マックィーンほど「孤独な男」が似合う俳優はいない。過去も、現在も、そして未来もそうであろう。
彼は本作の撮影中に悪性の中皮腫と診断されているが、遺作は同年「ハンター」である。

１９０１年ワイオミング・ハガービルに、名うてのガンマン、トム・ホーン（スティーヴ・マックィーン）が流れつく。彼は大牧場主のジョン・コーブル（リチャード・ファーンズワース）から、この地方に出回る牛泥棒を退治してほしいと頼まれる。ホーンは自前のライフルを巧みに操り、次々に‘仕事’を成す。だが、ジョン以外の人々は、トムを冷血漢の殺し屋として見るようになり、連邦保安官のジョー（ビリー・グリーン・ブッシュ）は、評判者のトムを妬むようになる。やがて、町で教師をしているグレンドレーネ（リンダ・エヴァンス）と知り合ったトムは、彼女の優しさに惹かれる。そんなある日、町で小牧場主の息子が惨殺されるという事件が起きた．．．。

ワイオミングの荒涼とした平原。青空が映える。山脈の雪渓はまばゆいばかりだ。
夕景も格別のノスタルジーをかきたてる。ジョン・Ａ・アロンゾのカメラは見事というほかない。

この映画は実話で、１９世紀末の開拓時代末期にその名を馳せた早撃ちガンマン、トム・ホーンを、マックィーンが演じている。
スクリーンで何度もみせる、馬に跨っての射撃のシーンが板についている。見事な手綱さばきと、馬を後ずさりさせて方向転換する技術もさすがだ。勿論、馬に対する接し方も愛情たっぷりで、心の拠り所は「馬」といわんばかり。

だが、スティーヴ・マックィーンにこういう役は演じてほしくなかった。
これは正直な気持ちである。
長髪は似合わないし、何より精気が感じられない。（これは病魔進行の影響なのかもしれないが）
私にとってのマックィーンは、「荒野の七人」のガンマン・ヴィンであり、「ブリット」における敏腕刑事ブリットであり、「大脱走」のヒルツなのである。
無論、「砲艦サンパブロ」のホルマン機関兵しかり、「華麗なる賭け」のトーマス・クラウンしかりだ。
「タワーリング・インフェルノ」の消防隊長に至っては、天にも届くほどのカッコよさだった。

しかし受け入れよう。
マックィーンが製作総指揮を兼ねてまで挑んだ作品であり、彼の魂が入っていると信じよう。
スティーヴ・マックィーンよ永遠に。

元々は３時間を越える大作でスタートしたこの作品、ジェロニモの話しやら晩年の逸話などで西部劇の超大作の予定、そして監督もペキンパーだったらしい・・・・
しかし、すでにタワーリングで病気の噂が出て資金調達困難となり、脚本も大幅手直し、監督交代、そして本人の資金のみで完成した小作品です。
ですからセットもプレハブ風の安上がりセットです(x_x)
悲しいかな、病気のためにタワーリングまでは観客動員ナンバー１の彼も、病気の噂で完全に人が離れていきました。
そういう観点から見ると、栄枯盛衰、悲しい作品ですね〜
トップに登り詰めて、病気であっという間に過去の人になる・・・・・まさにアメリカン・ドリームそのものの俳優さんです。
やはり俳優も元気でなければ、お金が集まりません。
でも彼の作品はいつまでも残りますが・・・・・