あゝ決戦航空隊

某国の某防衛大臣の原爆発言問題から、こんな映画を思い出してしまいました。政治家の頭の中は損得勘定なんですよね。そこに血を流している生身の人間がいることなど忘れてしまっているのではないでしょうか。
戦争もまた、そんな政治家の損得勘定を加味した、合理的外交手段の一つとして始動されるものでしょうし、この映画が描く特攻も同様に、戦術の合理性の上から生まれたものとして描きます。操縦技能を持つパイロットの欠如、戦闘機性能での劣勢、そういた戦局の中で"最も効果的な戦闘機の使用方法"として特攻が採用されます。
しかし、その裏には、合理的に割り切ることの出来ない流された血があるんですよね。いざ敗戦という方向に政治家たちが向かおうとした時、流された血が無駄であったかのような空虚さが襲います。流された血に報いるためにさらに血を流す。それは止めどもなく続く無間地獄ですし、合理的であったはずの戦争であり合理的であったはずの特攻が、血を流す現場においては、合理的な割り切りなど存在しないという不整合の虚しさではないかと思います。

映画も、東映任侠映画のオールキャストを配して、任侠映画の味を臭わせながら、大日本帝国組対アメリが組というような、ヤクザの抗争のような臭いを発します。物資調達のためにヤクザの手を借りるというようなシーンまで描かれ、まさに地べたに這い蹲ったような、泥と血にまみれた現場の苦しみが感じられます。合理と不合理に揺れる物語も大西中将(鶴田浩二)の血によって収束され、一つのまとまりを見せます。
そういった面ではいい味だと思いますし、DISCASでの評価が高めなのも納得できるのですが、作品的にはあまりまとまりの良い映画とは思えません。男臭さがを前面に出し描く味とは裏腹に、特攻映画のお決まりのごとくロマンスを描いたり、当時のアイドル西城秀樹なんかをワンシーンだけ起用して、「おかあさぁ〜ん」なんて感傷的なところも描いてしまうんですね。このあたりは演出の統一性のなさを感じます。
またこの作品に嫌悪感を覚える極めつけは、天皇の戦争責任にまで言及していることです。
それは天皇の責任を訴える菅原文太のアップから、現代の若者にまでモンタージュされ、大西中将の切腹へと繋がっていきますが、反戦を訴える映画でありながら、プロパガンダ的な意図プンプン臭うんですね。これでは戦時中に作られたプロパガンダ映画と全く同じ次元に作品を貶めることだと思います。そんなところに言及するまでもなく、前述したような合理と不合理の虚しさを描くことに留めていれば、後は観客が考えることだと思うんですけどね。

「二百三高地」「大日本帝国」「海ゆかば」「零戦燃ゆ」「連合艦隊」といったような感傷的な嫌戦映画とは違い、見応えはある映画だと思いますが、3時間を超える時間の中にはまとまりの悪さによるものがあると思いますし、ちょっと眉唾(あるいは嫌悪感を押さえつつ)見なければならないところもある映画だと思います。

一気に見てしまいました。３時間１９分という長い作品ですが正直、長いとは感じませんでした。それは私は大西滝次郎という人に対し長い間、疑問を感じていたからです。私が知っている大西中将という人についての知識は、山本五十六と共に日本海軍航空隊の創立の中心者、そして神風特攻隊を実行させた人だということ。ものの考え方は日本軍人には珍しく現実主義、西欧風の合理的な考え方をする人だということでした。しかし、そのような考え方の人が何故、神風特攻隊という、最も非人道的な作戦を実行させたのかが疑問でした。

そして、その疑問がこの映画で解けた思いがしました。ミッドウエイでの敗北以来、日本は物量で迫るアメリカに対し、船、航空機など全ての兵器に於いて、質、量共に劣り、航空機搭乗員の練度も急速に低下し、もはや勝利は望めずせめて有利な条件での和平に持ち込む、大西はそう考え、不利な戦力で最も効果的な戦果を挙げる方法として「特攻」という作戦に至ったのです。特攻は大西が合理的主義者であったために実行されてしまったというのが皮肉なことです。しかし、合理主義的な欧米の指導者ならば、たとえこのときの日本の立場に置かれたとしても特攻という作戦は絶対に行わなかったでしょう。

何故、大西が特攻作戦を実行してしまったのか？それは大西が日本帝国軍人だったからでしょう。日本の軍人は入隊した時から、「軍人勅語」という軍人としての心得を暗記するまで叩き込まれる。その中に、「生きて虜囚の辱めを受けず」捕虜になるくらいなら自決する。また、「命令は鉄よりも重く、生命は髪の毛よりも軽い」という一説があるのです。つまり軍人は上は大臣から、下は一兵卒に至るまでこの人命軽視の思想を骨の髄まで叩き込まれるのです。いわば大掛かりなマインドコントロールです。そして、それは大西にしても例外ではありませんでした。特攻という最悪最低な作戦ともいえないことを実行させてしまった根本の原因はこの日本軍の人命軽視な思想の上に合理的な方法を重ね合わせてしまったことから起きた悲劇なのです。それがわかり、ようやく大西滝次郎のような進歩的な考えを持った人が特攻という作戦を実行したという矛盾を理解することができました。

また、同じ「終戦」を取り上げた作品でも東宝の「日本のいちばん長い日」と見比べると、かなり感じが違います。この映画では見方によっては和平派の方が「悪」とも見える時がありました。それは東宝と東映という会社の映画の描き方の違いか？、また岡本喜八と山下耕作という監督の違いか、あるいは、鈴木貫太郎と大西滝次郎という違う立場の目から描いたためか、いろいろな理由はあると思いますが、一つの事柄でもいろいろな見方があるということが学べた点でこの作品を見てよかったと思います。それは現実社会に起きている事柄を見る上でも大切なことだと思います。物事をあらゆる方向から検証し、何が本当に正しいことなのか？どこが間違っている事なのかを大局的に見ることのできる目を養う、それが真に正しい人生、より良い社会人となり得る上で大切なことではないでしょうか？

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

長い。つまらないシーンも多い。役者が下手だ。そんな長髪がその時代にいたのか！本土では敵性語禁止なのに「ワイフ」って言ってていいのかっ！「あ、これもう死んだ人や」とか親がうるさい！切腹長すぎ！
など、度々ショックを受けるけれど、エンターテイメントだからある程度はしかたない。これは大好きだ。もう一度いう、大好きだ！
こういう日本人を描いてくれたことが嬉しい。

あの時代、第二次世界大戦と言われているけれど、違うだろう。日本人には太平洋戦争だろう！という意識はあった。ハルノートの存在も聞いていた。それでも、無謀な戦いをし続けた日本。
特攻隊なんて、そんな馬鹿な作戦、なぜ考えついたんだ？そう思ってた。

その日本を憂いてる生粋の戦士たちの物語だ。
全員が全員、戦争に踊っていたわけではなかった。

はだしのゲンで育った僕は「第二次世界大戦」と「特攻隊」がほぼ同列だった。日本軍は最初から特攻隊を組織していたのだと思っていた。
違うんじゃないか。日本を憂いて、その最終決断が特攻隊だったんだ。
どれだけ大西瀧治朗中将が悩んだか。苦しんだか。
笑って特攻隊を見送ったわけじゃなかったんだ、と。
たとえフィクションだとしても、凄く嬉しかった。
日本軍は血も涙も無いのか、と思っていたから。

たくさんの日本人に観てほしい。
あの時代に、こういう日本人がいたのだ、ということを知ってほしい。

今一度、日本人に『切腹』の意味を考えてほしい。
日本人は死ぬときまで楽を選ばない種族だったのだと。だからこそ、わずかな時間で先進国まで上り詰めたのだと。
不自由な時代だったけれど、美しい人格の人がいた時代だったと思う。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

　東映、山下耕作監督の演出、鶴田のおやっさん、そして東映オールスターとくれば王道「任侠映画」の芳香がしみつく映画になるに決まってます。本作は女性を観客対象としては考えとらんだろうとか、男映画の作りだろうと思いながら観てたんですが、特攻機搭乗の青年隊員役で西城秀樹を出してたり、渡瀬恒彦と壇ふみとの儚い情愛の景色を絡めてしまったのが、映画の芯をぶれさせたと感じました。
　映画は実在の大西瀧治朗中将を主人公にしており、昭和19年10月のフィリピン捷一号作戦発動による神風特別攻撃隊の編成時期から昭和20年8月15日の終戦と翌16日の大西中将自刃までを諸情勢とともに当時の記録フィルムも多く挿みながら描いているのですが、東宝の「日本の一番長い日」と比べるとやはり作品としての深みが劣りますね。小林旭がこの映画の題字を書いた「児玉誉士夫」を演じていますが、戦略物資の調達にからめて児玉機関の雰囲気（組関係とのつながり）を描写したところはさすが東映さん、リズムが良かったですが、ちょっと児玉氏を良く描きすぎでは？
　仁侠映画の鶴田さんが好きな私にとって、鶴田さんの魅力だけで最後まで鑑賞したような作品でしたが、大西中将が最初の特攻に志願した敷島隊の隊員たちへ訓示するシーン、　『皆は既に神であるから世俗的な欲望は無いと思うが、もし有るとすればそれは自分の体当りが成功したかどうかであろう。皆は永い眠りにつくのであるから、それを知ることは出来ないであろう。我々もその結果を皆に知らせることは出来ない。しかし後は自分がやる、自分は皆の努力を最後まで見届けて、陛下に報告する、そして最後に皆に伝えに行く』・・・　このシーンの鶴田さんの目、噛みしめるように台詞をはなつ口元、最高にイイ。
　鶴田点数☆4.5　作品点数☆3つ。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

目的が明確でない戦争を終わらせるのは難しい。
現場の暴走を追認して泥沼化した日中戦争、アメリカとの国力の差を認識しつつ武力行使に出た太平洋戦争。戦争のビジョンとかグランドデザインを明確に示した責任者がいない。国民も明治憲法下、天皇という世界一偉い大元帥がしろしめす豊葦原瑞穂国を誇りにしていた（ぢつは劣等感の裏返し？）。「ガハハ。どうも負ける気がしないんだよね〜」とかいって。

大陸では列強が覇権を争っており云々、ハルノートを突き付けられた日本に対米開戦以外選択肢はなく云々などが言われますが、この映画の大西（鶴田浩二）は、不合理に始めた戦争を終わらせるに際して合理を持ち込む米内海相（池部良）を批判します。大西の意見の行き着く先にあるイメージは、一億総特攻で最後の1人まで竹槍で差し違え日本人が全滅した国土（＞＿＜）。まさに負の光学から大西は、もともとしっかりした意思決定もないまま始めた戦争なら、いっそ意地ずくで終わらせる方がいいんぢゃないかと言う。ここでの本作品のメッセージは、今さら冷静になるくらいなら、なぜ戦争など始めたのか→当時の内閣や軍は無能だったと。国民が戦争を支持したという要素が欠けてます。

大西にとって特攻は「統率の外道」、作戦としては評価に値しないものであることは自明だった。「慈悲深い天皇は特攻で次々若い者が死んでいくのを見れば、いくら何でも戦争をやめようと言うはずだ。天皇がそう決心するまで特攻は続ける」と大西は思っていた。（映画では内閣の迫水書記官に、天皇以下国の指導者が全員特攻しなければ、と言っている。この辺の鶴田の演技は、「白い巨塔」の田宮二郎のラストみたいに真に迫ってる）
特攻隊員個々の葛藤とは全く別の所で、天皇の慈悲への捧げものとして若い命が失われていった。
戦争について感情的になるありさまは、戦時下の人間の心を表わしているような気もする。もっとも、圧倒的な情報量で伝えられた9・11テロの被害の裏返しとして煽られた“狂信的なテロリスト”に対する根拠のない敵意を無邪気に受け入れる様子を見ると、世の中はあまり変わってないようですけど。

本作品の製作当時まだ大勢生きてたんだろうね、特攻に関与した責任者。でも、大西の自害をいいことに口を拭ったと。
何も大西と一緒に“潔く”腹を切れというわけじゃない。戦後の日本をオレが背負って立つという心意気は良いんです。しかし、正確な回想録を書き残すなど歴史に対する責任は果たすべきだった（同じことは大西に対しても言えます）。そして、免罪され続ける個人としての天皇というねじれを抱え込んだ日本。
この映画のインチキなところは、はらわたが出てないよ、はらわたが。切腹しても血しか出ない。はらわたがズルズル…ていうのは表現しちゃいけないという映画業界の協定か何かあったのかな？　タブーはどこにでもある。（それとも予算＝物量の関係ｗ）

TSUTAYA DISCAS＞レビュー広場＞2008年5月17日 土曜日 午前0時34分