片目のジャック

マーロンブランドは俳優として並外れた才能を持ちながらも、実生活では反抗やスキャンダルを繰り返しました。彼の生涯の唯一の監督作品だというので、尋常ではないだろうと思っていました。案の定勧善懲悪を超えた無国籍風の異色西部劇でした。ブランドが制作した5時間超の作品を、配給会社は無理やり141分に編集してしまいました。そのせいか、どうしてこうなるの？と首を傾げる箇所が見受けられました。登場人物の性格づけや感情の変化や場面のつなぎ具合など。けれども見ているうちに強力なマーロンブランド世界に引き込まれて、粗も気にならなくなりました。白人(カールマルデン)が悪人でメキシコ人(カールマルデンの妻や義理の娘)が善人に描かれているのも、人種差別反対を主張していたブランドらしいと思いました。この映画は当初キューブリックが監督する予定でしたが、ブランドが自分で監督したくなったため、キューブリックを降板せざるを得ない状況に追い込んだという噂もあります。ブランド監督片目のジャックももちろん良いですが、キューブリック監督片目のジャックも見たかった、という気持ちもあります。

　正直言うと、見終って２週間も経つと「どんなストーリーだったっけ？」という感じなのだが、印象に残ったのは主演のマーロン・ブランドがいつになくハンサムで二枚目俳優ぶりを発揮していたことである。この作品は、ブランド自身が監督した最初で最後の作品なので、そうなったのかもしれない。ただ、彼が監督して完成させた作品は優に５時間超の大作だったそうで、パラマウントが編集し直して短縮して現在の長さに。ブランド自身は大変不満だったらしいが、ブランドの魅力は十分に前面に押し出されている。

　このマーロン・ブランドという俳優は、現代から見れば「演技力のある名優」であるが、６０年も前に世に出て来た時はその型破りな演技で人々を驚かせたことは容易に想像できる。いわゆるハリウッド映画で主役を演じるスター男優のステレオタイプからはかけ離れた演技や話し方で注目を浴びたとのこと。その紙一重的な演技力も、彼の作品をいくつも見ると、「欲望という名の電車」(1951)、「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972)の人格破滅型の偏執狂的人物、「革命児サパタ」(1952)、「波止場」(1954、アカデミー主演男優賞獲得！）の体制反抗型人物の２種類に出会うことが多く、その意味ではこの作品のようなヒーロー型はやや新鮮で、見ていてほっとする。時々クローズアップされるブランド演じる主人公リオの表情は、悩ましいのと同様に実に美しい。映画自体が独特の静寂感と落ち着きに包まれていることも理由の一つなのかもしれない（その意味でブランドの監督の才能は、いわゆる不慣れによる効率的運営を欠いていたのかもしれないが、全体的にはやはりそれなりのレベルであったとも言える）。

　本作で悪役ダッド・ロングワースを演じたカール・マルデンは、「欲望という名の電車」(1951、アカデミー助演男優賞獲得！)、「波止場」(1954)に続いてのマーロン・ブランドとの共演だが、表情が優しい俳優なので悪役はやや不似合。ただ、主人公リオを裏切った５年後には何と保安官に任命されまでして善良な市民になっている中、町のカーニバルが行われてダンスを踊るシーンにはたまげた（スタントだろうか？）。昔の俳優たちは実に多才である。

　西部劇ファンには、異色の西部劇映画、ということでお奨めしたい。

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映画監督がマイベストを選ぶ企画をまとめた雑誌が以前出版され、そこにも載っていましたが、あのタランティーノもテリー・ギリアム（モンティ・パイソンだとか、未来世紀ブラジル、１２モンキーズ、最近ではＤｒパルナサスの鏡の人ですね）がベスト１０に選んでいた映画です。何がすごいか？復讐ですね。復讐へと進んでいくマーロン・ブランドの存在感がすごい。カメラもいいです。編集は？？？なところもありますが、有無を言わせない演出と演技です。そして全体に流れる「やさぐれた」「渇いた」感じがいいんです！タランティーノでもギリアムでもそうですが、人間の愛憎といった内面を見る者にリアルに伝える一方で、非常にウィットに富んでいて、洒落ていて、「映画的に」物語ってくれています。映画的にって重要です。ワンカットワンカットが計算されたサイズで撮られていて、テレビと違って放送時間が区切られない分、独特のテンポが出る。隠れた名作ですので、是非。

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　う〜ん…どう評価していいのか正直わからない作品でした。映画全体としては静かで、復讐劇というものの緊張感もあってとてもいいのですが、舞台がアメリカ南部とメキシコに限られているため、小さな映画としか感じられません。同じような時代を描いた「大いなる西部」も小さなコミュニティーを描いた映画でしたが、あの映画には最初からスケールの大きさを感じさせる演出や舞台設定があっただけに、逃走劇という一面をもっているこの映画はもう少し周りを描いてもよかったのではないかと思います。（まぁ、「大いなる西部」(“the　big　country”)は題名が題名ですから、比べるのは酷かもしれませんが。

　あとビックリしたのが、ヒロイン役のピナ・ペリサーの声の低さ！当時すでに２７歳のようですが、演じているのはどう考えても１０代の役。声や仕草だけだったら十分通用するのですが、しゃべってみるとつぶれているかのようなあの声は復讐する側とされる側に挟まれる悲劇のヒロイン役には向かないような気がしました。とはいえ、彼女はこの映画の３年後に自殺をしているようで、もっとほかの作品でも演技を見てみたかったものだなと思いました。

「地獄の黙示録」「ゴッドファザー」などで重厚な演技を披露して、いまや大スターであるブランドが４０年余まえの若きころに監督した作品であるが、第１作とは思えないような堂々たる演出ぶりである。仲間に裏切られた男が復讐を遂げるまでを描いた本格的西部劇である。