ドア・イン・ザ・フロア

　この映画を観て思ったのがたった1カットだけれど、ラストカットの力って偉大だと言うこと。まあそれまではよくある心に傷を負った夫婦の心がすれ違っていくお話。夫婦が負った傷の原因をちょっとミステリアスに描いて行くのですが、それほど取り立てて面白いというほどではありません。
　しかしラストカットを観たとたんに頭がフル回転、それまでのテッド（ジェフ・ブリッジズ）の言動や彼の作品がフラッシュバック。「ウーン、なるほど」。この1カットでかなりやられたと思いました。

　傷ついた人間の逃避場所。私なら何処なんだろう。主人公テッドのそれは映画のラストに出てくるし、マリアン（キム・ベイシンガー）の場合は場所では無く、人だった訳だ。そんな良心の元で育った娘ルース（エル・ファニング）もやはり良心の影響からか現実から逃避するように写真に対して異常な執着を示しています。
　マリアンがその新しい逃避先に出会うまでは、自分の内に閉じ込めてそんな状態で家族の危うい均衡が保たれて来たのですが、あたらな逃避先を見つけて活動力を取り戻すことでドラマが動いていくのです。

　こうしてレビューを書いているうちに観た直後よりもなんだか良い作品だったような気がしてきました（笑）。

　ダコタ・ファニングの妹エル・ファニングは本当に可愛らしいですね。まるで天使のようです。

　原作の前半の映画化ということで原作者アーヴィングが監督を指名したらしいですが、映画を観て原作を読みたくなることを狙ったのでしょうか。そうならば私に関しては成功したと言えます。

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　アーヴィングの『未亡人の一年』の映画化。タイトルが変っていたので（小説のタイトルはオリジナルをまんま邦訳しています）最初気がつかなかったのですが、なるほど、第一部だけを描いているので、こうするしかないのですね。それにしても絵的に実に印象深いラストになっていて、ここだけは原作を超えているんじゃないかと思えました。上手くやったな、という感じ。

　・・・と、手放しで誉めたいのはそこまで。原作を丁寧に映像化していてアーヴィングのホロ苦い世界を垣間見ることはできたけど、なんと言うか「そこまでかな」っていう限界感がアリアリで。原作はもっともっとアイロニーに富んでいるし、悲惨な状況でもなぜかカラッと明るい、もうアーヴィング調としか言い様のない風変わりで愛すべきドラマなのに、映像にするとこんなに陳腐になっちゃうのかなっていう。

　おそらくしっとりメロドラマ調の演出が原作と合い入れなかったと思われ。その点では「ガープの世界」「ホテル・ニューハンプシャー」の方がしっくりくると思います。

　まぁ、映画は置いといて（えっ、置いちゃうんですか）、この作品に出てくる、人として情けない、大人としての分を果たしていない、モラルも品格もないダメダメな人間たち・・・、こういう人たちに自分は萌えます。いとおしくて仕方なくなる。

　原作の後半は大人になったルースが主役。冒頭のショッキングなシーン、ママとエディと彼女、の図とセリフがぴったり符合するラストがもう見事！！小説をラストから書き始める三島由紀夫方式か？とアーヴィングに聞いてみたいです。ってことで、映画より原作を激しくオススメします。




●お気に入り登録してくださり投票もいっぱいして下さった方、ありがとうございます。これまでにもそういう事は何度かあったのですが、タイミングを逸してしまったり、レビューに私信を載せるという裏技（？）を知らなかった頃だったりで、ご挨拶・御礼ができていない方々がいらっしゃいます。本当は一人ずつお名前を挙げて「ありがとう」を伝えたいのですが、それはかなわないので、お許し下さい。

　本当に好き勝手に書いていますが、それでも少しでも「面白い」と思えるものを、人とは違った目線で、と自分なりにこだわってはいます。時々くじけることもありますが、一人でも確実に読んで下さる方がいらっしゃると思うと力づけられますので、今後ともよろしくお願いします。
　

ジョン・アーヴィングといえば超人気作家だし、映画の原作にもたくさんなっていて、「サイダーハウスルール」も「サイモンバーチ」も好きだけど、これはどうにも好きになれなかった。全体に漂う退廃的なムードがいや。

マリアンとテッドの夫婦は子供を失うという辛い体験を乗り越えられず、夫婦の仲は壊滅状態。夫の方は浮気に精を出し、妻は幼い娘の世話をほとんど放棄、そして夫が雇った若い助手と愛人関係に陥り、あろうことかその現場を娘に見られてしまう始末。（ダコタの妹エル・ファニングですが、私ならこんな役は子供にやらせたくない。）
どのような経緯でふたりの息子を失ったのかが最後まで明かされないので、この夫婦に同情できず、嫌悪感だけがつのった。

最も驚いたのが愛人役のミミ・ロジャース。トム・クルーズの元奥さんとして名前しかしらなかったのですが、こんな人と結婚してたんだ・・・と驚きのすごさ。

いろいろ評価はありますが、私はこの映画、とてもリアルだと思います。
愛していた兄弟二人を事故で失い、それ以来夫婦の仲がうまくいかない。
その上、引越しして前向きな気持ちでと思って子供ができたが、やはりそれは一時の感情だった。

こんな無責任なことは許されないのだろうけど、人間はそんなに強くない。
マリアンの、自分を責める気持ちとでもどうにもならない喪失感、無気力感は私にはわかる気がする。

壊れたものはもどってこない。
そしてそれは深い傷となり、悲しみがいつまでも色あせることはない。

今まで流されていた家族の澱みが、エディによって徐々に解決をしていくことになるが、それも仕方がない方向なのかと思う。

この映画はいいとか悪いとか、そういう問題ではなく、心の悲しみとどうやってつきあっていくか、そしてどうやって支えていくのか、そういうことを考えさせる映画ではないかと思う。

私は嫌いではない映画だ。

ジェフ・ブリッジス、キム・ベイシンガーの成熟した重厚感、ありがちなようでいて奇妙な、淡々としていながらも複雑な、深い深い床の下。
トッド・ウィリアムズは原作を読み込んでいますね。このアーヴィングにしては地味な展開の作風を丹念に映像化しており好感が持てます。
「サイダーハウスルール」だけ観てアーヴィングものを判断している人には、退屈で苦痛な二時間になると思いますのでお勧めできませんが、「ガープの世界」「ホテルニューハンプシャー」を観た人には、成熟と円熟の大人のための新しい寓話として、必見の作品です。