お嬢さん乾杯！

田舎者だが金儲けの上手い青年社長と、敗戦後の没落した旧華族の令嬢の恋を描いたラブコメディー
ひょんなことからお見合へと・・・軽妙なタッチでテンポもいい

原節子の名声を決定にした映画のひとつで、もっとも美しいときの作品
美貌というよりも、理知的な美しい輝きをかんじます
でも、あの大きな目ん玉、顔からこぼれ落ちそうですニャ

原節子は小津・成瀬監督等の作品と違ってコミカルな一面をみせ、佐野周二（関口宏の父親）の軽妙さもいいです
まだまだのどかな銀座周辺の風景も見どころです

とても粋でシャレたラブコメディー

ラスト近くで、、街角で２人かすれちがい、戦前の同じ松竹の大ヒット映画「愛染かつら」のメロディーが流れます
それは古い松竹映画への決別であり、新しい恋愛映画の幕開けです
花も〜♪嵐も〜♪踏み越えて♪
　
「惚れております」シナリオにはない木下監督の即興のセリフ 原節子　恥ずかしくいえず困って　周りのスタッフはゲラゲラ笑ったそうです

扉を開けて　パッタリと　すごく面白くって良かったニャ！！

Ｐ.Ｓ.
原節子の口からでる日本語はなんと美しいのでしょう
１９６３年小津安二郎監督の葬儀には「会田昌江」の本名で弔意をあらわし、その後公の場には姿をみせていません
再三の映画界・マスコミのさそいのはいっさい応じず神奈川鎌倉浄明寺で隠遁生活

何とも表現し難い身悶えポイントたっぷりの映画だ。だが、これはまごうこと無き６０年前の日本人の姿なのだ。それに身悶えする自分は、もうこんな風に美しい日本人では無いんだろうなぁ（当たり前だ）と寂しくもなる。

戦後復興の波に乗って成りあがった自動車修理会社の社長、石津（佐野周二）に華族の令嬢、池田泰子（原節子）との縁談が持ち上がる。しかしこの御令嬢の家、実は色々とワケアリで…とストーリーは進む。

この石津さん、失恋した弟をなじりながらチークダンスを踊ってあげるあたりまでは、結構男前なのだが、話が進むうち、純情で不器用と言うよりは、なんだか情緒不安定な人になってくる。ちょっとこの人、大丈夫か？という風に感じられるのだ。まあそれは、現代の感覚で観てしまうからなのかもしれないが。

少し眉間にしわを寄せた原節子のなんと美しいこと。改めて観ると、彼女は「美女」とかでは無く、もはや「菩薩」だ。瞼の形が仏像で言うところの杏仁形だし、首筋のラインの美しさも日本人離れしている。

石津がノーヘル・タンデムで楽しげにＢＳＡ（Sloperか?）を駆る画を見ていると、都内とは思えない開け具合に唖然とする。[ 潘池方面⇔青山方面 ] の標識があって都電が走ってて、あんなに広い交差点は…赤坂見附あたりだろうか。しかしまったく、今の面影は無い。

赤坂あたりは大使館が多かったこともあって、空襲被害が少なかったと聞く。戦後、大使館御用達の自動車ディーラーや修理工場が、付近に集中した。本作の「YASHIMA MOTORS」はまさに、そういった戦後需要に乗って成長した会社という設定だろう。道路を走っている車が、外車ばかりというのも、この時代を感じさせる。

木下惠介監督は「終戦後わずか４年」にして、こんなに軽妙でコジャレタ映画を撮ろうとしたのだ。その時代背景を思うと、驚くしかない。だって４年前まで戦争やってた日本男児が、「ホロホロ涙が出て、困っちゃった」だもの。

( ネタばれあり)
戦後の混乱期、自動車修理会社を立ち上げた新興成金の青年・石津圭三( 佐野周二)と没落家族の令嬢・池田泰子( 原節子)の恋を描いたラブ・コメディ。

佐野周二は、ごぞんじない若い方に申し上げると、上原謙(　加山雄三の父親 )、佐分利信と松竹三羽烏(からす)と言われたスターで、関口宏の父親で、川島雄三『　とんかつ大将』成瀬巳喜男『　驟雨　』などとともに本作は代表作ではないでしょうか。
まだ新人の佐田啓二( 中井貴一の父親　)が若々しいし、村瀬幸子のバーのマダムも都会的な戦後女性を思わせます。

脚本は新藤兼人。　その脚本家としての出世作と言えば、本作の２年前に公開された吉村公三郎『　安城家の舞踏会　』
そう、チェーホフの「桜の園」の下敷きに、没落していく華族( ちなみに太宰治が「斜陽」を発表したのも『　安城家　』公開時期とほぼ同時　)の喪失と悲哀を描いて話題になった作品。
これと通じる設定で、しかも同じ原節子主演で、木下恵介は新しい時代を前向きに歩む男女のラブ・コメディにみごとに仕立て直して見せているのです。

原節子は、戦前も、戦中も、戦後と時代が求めるものが変わっても、常に美しく模範的な理想の女性を演じてきていますが、本作で木下恵介はイメージの制約はありつつも、「聖女」から「人間の女」を演じさせています。　
ハリウッドの聖女グレタ・ガルボにとっての『　ニノチカ　』( １９３９年。　ちなみに本作が１９４９年３月公開の後、　１１月日本公開 )に相当すると思います。

デートの後、裏口から入る際、映しこそしませんが、おそらく転んでしまってますし、家の経済的事情のために「　好きになるよう、努力します　」から、「惚れております」ときっぱりと意思表示する女への転換に、血の通った生身の女への一歩を感じます。

お嬢さん「に」なのか、お嬢さん「と　」「が　」なのか、が、曖昧にされた『　お嬢さん乾杯　』というタイトル。
映画のはじまりと終わりで男女の主客は転換し、崇められる、愛される対象から、追いかける、愛する主体へのヒロインの変化が、戦後の新しい時代の女性を生き生きと表しているのです。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

自動車修理工場の社長、佐野周二は戦後の自動車普及の波に乗った成金。そんな彼の元にお見合い話が持ち込まれる。相手は華族の家で育ったお嬢様、原節子。でも父が詐欺師に騙されて家は抵当に入り、父は投獄されて困窮している身の上。
不釣合いなお見合いと尻込みする佐野周二だが、原節子と実際に会ってその美しさに一目惚れしてしまい、二人の交際が始まる。
佐野周二は成金なんですけど、とても純朴な人物です。でも、その純朴さゆえに相手を傷つけてしまうこともあります。原節子の家ではお金のためにピアノを手放してしまったんですが、彼女の誕生日にピアノをプレゼントしちゃうんです。それで原節子の家族は「悪気はないんだろうけど、なんだか恵まれてるみたいでねぇ・・・」と裏では話をしています。
一方、原節子はかっての婚約者が死んでしまい、今でもその人を忘れられないといった役どころ。お嬢さん役がよく似合います。
ちょっと気になったのは、ラスト近くに原節子が佐野周二を追いかけるシーン。ここでいきなり「旅の夜風」（映画「愛染かつら」のテーマソング）が流れるんです。ちょっと演出がベタ過ぎやしないか？って思いました。でも、成金と没落貴族って設定といい、製作された昭和24年頃は分かりやすい作品の方が世に受け入れられたんでしょうね。

全編名セリフだらけですが、上記2つは特に気に入った！
ひとりで観てたのにクスクス笑いして哄笑して、最後はしんみり。
ビリー・ワイルダーもかくやとばかりのWELL MADEなコメディです。