ララミーから来た男

　西部劇の演出の幅広さを堪能させてくれるアンソニー・マンとジェームス・スチュワートのコンビ作の一編。秀作です。
　よく指摘されていることですが、この監督の斜面へのこだわりは並大抵のものではありません。たとえばジョン・フォードのいくつもの西部劇では、基本的に広大な平地をアクションの主たる舞台として疾走する馬や先を急ぐ馬車列を水平あるいはやや俯瞰した位置から捉えているような気がします。そうすると、広い空の下の人間がちっぽけにも見えますが、同時に到達できる範囲の広さが、とても開放的で自由な世界を感じさせます。
　しかしマンの作品では、アクションはしばしば切り立った崖や馬に乗ったままでは進めない斜面を舞台に選ばれ、空は狭く、敵は見えず、主人公は這うようにしか進めないなんてこともあります。高低差を生かして工夫されたアクションが実に魅力的であるという以上に、このどうにも爽快感を欠く舞台の選択が、作品に焦燥感や不安感を焼き付けているのです。
　それは登場人物の性格付けも同様で、本作では割合まっとうなヒーローとして見ることもできるスチュワートですが、たとえば悪辣な牧場二代目に理不尽に馬車を焼かれたスチュワートが、街中で彼を見つけ、憤怒の表情で近づいていく素晴らしいカットがあります（ここはローアングルのドリーと思われるカメラもほんとうに絶品）。その怒りの表現は、彼の過去作から想像される誠実なヒーローとしては度が過ぎ、一度決めたら相手をとことん叩きのめす男として、共感よりも恐怖を感じさせるでしょう。この年代の作品にしては、スチュワートに加えられるリンチなど、驚くほど凄惨な展開であることも、本作を単純なヒーローものにとどまらせない効果をもっています。
　スチュワートを初めとして、本作の見事な脚本（クレジットはフィリップ・ヨーダン他ですが、本当は誰なのでしょうか）が描く人物は、みな少しずつ報われないものを抱えて、歪んでいます。空間演出の歪みが、この人間の歪みに呼応していることはいうまでもありません。義理の息子と実の息子、父殺し兄弟殺しも絡んだ復讐の物語は、神話的なものですから、ドラマ性を強めてじっくり演出すればシェイクスピアやギリシャ悲劇のような重厚さを持ちえたかもしれませんが、もちろんそんなふうにはならず、映画はハリウッド・エンタテインメントとしてのラストを迎えます。魅力的なキャストの中で、ヒロイン『夜の人々』の可憐なキャシー・オドネルだけがちょっと凡庸で残念。７０点。

あまりない

　昔テレビドラマでも「ララミー牧場」っていうシリーズがあったけれど、「ララミー」って一体どこ？実在するの？と思い調べたら、なるほど、ワイオミング州の西部開拓史時代から発展した町なんですね。その歴史から西部劇の聖地みたいな扱いのようですが、現実の世界ではワイオミング州でも町の近代化や教育水準向上にかなり力を入れて来たらしい。これで、主人公ウィル・ロックハート（ジェームズ・スチュアート）が「俺はララミーから来た」と言うと、皆がフーンと反応する背景は分かりました。

　さて、正直を言うと、ジェームズ・スチュアートが西部劇でヒーローを演じる映画はいくつも見ているだけにちょっと飽きて来ておりまして（だって、セリフ回しも拳銃捌きも結局ワンパターンですから、ファンの方、ごめんなさいね）、この作品は脇役に注目して借りました。バカ息子を可愛がって一帯を牛耳る牧場主アレック・ワーゴマンを演じたドナルド・クリスプ、この人は「國民の創生」(1915)、「散りゆく花」(1919)とサイレント映画からスタートして、「戦艦バウンティ号の叛乱」(1935)、「ゾラの生涯」(1937)、「黒蘭の女」(1938)、「嵐が丘」(1939)、「我が谷は緑なりき」(1941、アカデミー助演男優賞受賞！)、「緑園の天使」(1944)などなど、出るわ出るわ名作のオンパレード、しかもこの人の場合、脇役なのに存在感が大きく、時として主役を食っちゃってこの人の演技の方を覚えていたりするのです。

　あとは、この悪い牧場主にバカ息子の世話を任されたばかりに損な役回りを押し付けられたヴィックを演じたアーサー・ケネディはいつもこんな役で本当に気の毒で、本作でもそれほど悪い奴ではないのに見ている我々も納得の行かない形で悪者にされてしまいます。本作の3年前に制作された西部劇「怒りの河」(1952)でも、ジェームズ・スチュアートに敵対する悪役でしたよね。

　もう一人、本作のヒロイン、バーバラ・ワーゴマンを演じたキャシー・オドネルは、「我ら生涯の最良の年」(1946)で快調な滑り出しを見せたのに、ハリウッドでは珍しい幸薄い引っ込み思案のような風貌そのままに「探偵物語」(1951)他、本作を含めて十数本に準主役級で出演、そして一番美しかったのが「ベン・ハー」(1959)でベン・ハーの薄幸の妹ティルザを演じ、何とこれが最後の映画というはかなさでした。それもこれも、名監督ウィリアム・ワイラーの兄であるロバート・ワイラーと、23歳も年上なのに結婚してこれにMGMが激怒して彼女との契約を解除、他のスタジオにも干された、と、まぁ何ともひどい扱いです。しかし、とても仲のいい夫婦で彼女が死ぬまで添い遂げたのが救いではあります。

　そんなこんなを思い出しながら見ていたのでとても楽しめました。

期待したほどではなかった。。。
ただ面白いことは面白いです。
Ｊ・スチュワートは少し線が細いので今一つ迫力に欠けた感がありました。

　ジェームズ・スチュワートが西部劇に出ていたとは知りませんでした。全般的にアクションは少なく、人間ドラマに徹しています。復讐談はむろんのこと、理不尽なことにはがまんならない、無法の町で孤軍奮闘する、主人公の静かな闘志がおういつする作品です。
　もう少しロマンスがほしいような気もしますが、さまざまな人間模様が交錯するストーリーは、娯楽作品として、たんのうできると思います。