自由の旗風

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　イントロダクションにあるような剣劇というと快傑ゾロやエロール・フリンのチャンバラみたいなものを想像してしまいますが、19世紀のアイルランド独立運動を描いていますので、チャンバラはなくほとんど銃撃戦でした。
『麦の穂をゆらす風』『マイケル・コリンズ』よりひと昔前の時代に、変装を得意とする義賊めいた運動家が、飄々と支配権力に立ち向かうという本作は、どこかコミカルで牧歌的な味わいを持っています。粗野な田舎の若者ロック・ハドソンが、急にきらびやかな貴族の宴に飛び込んで、おどおどしながら可憐なバーバラ・ラッシュと恋を育んだり、恋敵の役人と背中合わせに歩き出す決闘をする顛末などは、のんびりと楽しいです。
　けれども、実のところ物語は策謀や密告、裏切りに溢れ、背景で陰鬱にくすむアイルランドの空のように重苦しいものです。事実、現実のアイルランドの19世紀はたいへんに悲惨な時代で、英国のカトリック弾圧と大飢饉によって多くの死者が出て、大量の移民がアメリカ等を目指して国を去りました（たしかスコッセッシの『ギャング・オブ・ニューヨーク』はその先の話だったと記憶しています）。
　そのようなアイルランドの歴史を前に、映画が単純な娯楽作になり得ないのもむべなるかな、サークはここで、否応なく爽快感に欠けるこの物語を辛うじて軽快なエンタテインメントの枠内にまとめあげる手腕を披露するにとどまったように思います。もちろん退屈することなく楽しめますし、サーク自身がナチに追われた身であることを思い出せば、このレジスタンス物語にどのような思いが込められているのかも想像できなくはないのですけれども。５５点。
　さて、マイケル・チミノは本作のどのようなところに心惹かれたのでしょうか。

本作はダグラス・サークの物語の二重構造が見えなくて、レビューを書きあぐねていたんですが、この長閑ささえ漂わせる物語が、二重構造の一端を担っているんじゃないでしょうかね。欧米人の感覚は日本人が捉えるアイルランドの歴史とは雲泥の差がありますし、長閑さを漂わせる活劇を描くことによって、その悲劇を際立たせていたんじゃないでしょうか。
ラストシーンは何故かここだけ船の旅立ちですが、これも移民による人口の大量流出を想起させる物なんでしょうね。

この物語の悲劇性を知るには、少なくとも「ジャガイモ飢饉」や、その歴史的流れによる大量の移民が存在したことを知る必要があると思います。同胞の信頼関係や策謀と裏切りを描く活劇の裏には、アイルランドの歴史に見る人間の悲劇があるんですね。
日本人には少々馴染みにくいメロドラマじゃないかと思います。

( ネタばれあり　)
ykk1976さんの映画会で４月に取り上げた『　サンダーボルト　』( 原題　Thunderbolt and Lightfoot )つながりでの鑑賞。
マイケル・チミノがインスパイアされた作品が本作で、原題　Captain Lightfoot。

・・・・なんですが、大好きで高く評価もしている『　悲しみは空の彼方に　』や『　愛する時と死する時　』のダグラス・サークとは、あまりにいつもとテイストが違うので、とまどってしまいます。
また『　サンダーボルト　』とも違うので、マイケル・チミノは本作のどのようなところに惹かれたのでしょうか、と　よふかしさんと同じ感想を抱いてしまいました。
そして、ダグラス・サークといえば二重構造( 独特の鏡や窓の使い方は、その前でホンネが炙りだされますのでわかる気がします　)なんですが、見えなくてレビューを書きあぐねたのはケチケチさんと同じです。

表のドラマ、のどかで、自由闊達な冒険活劇のトーンのベースになっているのは、『　静かなる男　』や多くの西部劇でジョン・フォードが描いてきた、どこか荒っぽくかつユーモラスな、どこかホラ話のような「　おなじみのアイルランド人気質　」なんだろうとは思いますが、裏切り者と反逆の闘士の悲劇を描くウラの真実のドラマが姿を見せても、すぐにまたホラ話のような語り口に戻るので、全般としてはさほど感情移入できず、よくわからなくなりました。　表のドラマが強すぎます。
毒のあるユーモアが効いた『　バリー・リンドン　』や『　プルートで朝食を　』とも違いますね。

成功作とは言い難いのが、正直なところではないでしょうか。