新しい人生のはじめかた

＜ネタバレ＞ございます。



愛すること　と、愛おしむこと。
この違いが心身共にわかったのは、この数年。
四十代に入ってから。
人生の折り返し地点を過ぎてからです。せっかく分かったというのに、
素晴らしいその事を自分の守りだけに使ってしまいます。どうしても。

そこのところを、それではだめ、と否定することもなく、
でも、そのままじゃもったいないんじゃない？って、つついてきて、
それじゃあどうすればいいかって事も教えてくれた、
素敵なグレーカラーの作品でした。

「この歳でもう傷つきたくない」…ケイトとの気持ちがストレートに胸に響きました。
すっかりあきらめているわけではない。
好きな事はあるし、したいこともある。
でもそう思うその後　「…けれども」と、なる。
今までの経験、苦いばかりではなかった、甘かったり、酸っぱかったり、
キラキラしてたり、土砂降りだったり。
楽しかったことは記憶に鮮明ですが、それと肩を並べて鮮やかな記憶が、
後悔。
繰り返したくない過ちや、二度と味わいたくない悲しみ。

一歩踏み出す勇気…欲しいけど、今さら、持たない方が楽、と引いてしまう。

ハーヴェイとケイトが英米の国民性の違いを話すシーンがあります。
表情を崩すことなく、内心の苦しさを表に出さない、
"stiff upper lip"
ハーヴェイが、「君ら（英国人）は閉鎖的だろ？」
「そんなものはダイアナが死んで以来、無くなっちゃたわ。オープンになった」
そう受け答えながら、
ケイトは"stiff upper lip"の表情を実際にしてみせます。
「歯をくいしばるような感じ」
この表情が、とてもよかったです。可愛らしい大人の表情。
「そうすれば、泣きそうになってもくちびるが震えない」
そんな時、試してみよう…と、真似てみました（笑）

ケイトの孤独、ハーヴェイの喪失感、共鳴しあって恋に落ちてハッピーエンド。
ハーヴェイが簡単に結論を出しているように見えたら、それは、あなたが”若い”ということ。
アッサリ生き方を変えているようにみえて、ハーヴェイのその表情には、
そこでは語られていない”確固たるこれから”が伺えました。ダスティ・ホフマンの名演技。
　　　
４２年前『卒業』のラスト、エレインを教会からさらってバスに飛び乗り見つめ合うふたり。
じきにホフマンの顔に浮かぶ、不安な表情。若いふたりのこれからの人生を暗示するような表情で終わります。

当然ある”先行きの不安”。でも、年齢と人生経験を積んで変わるその不安への表情。
同じ俳優さんだけに、とてもわかりやすいその違い。いえ、ダスティン・ホフマンが名優ゆえ、ですね。

Sall we walk？
ラスト、ケイトはヒールのある靴を脱いで、ハーヴェイと腕を組んで歩きます。
「これでいいわ」
それは、若い頃の彼女にはできなかった、思いつかなかったことと思いました。

この冒頭のじゃあどうすればいいかの答えです。『そっか、それでいいんだ』
一歩踏み出すことは、そんなたいそうな、お行儀のいい勇気は必要ない。

エンディングロールにケイトのママのサブストーリー。これよいです！
呼び鈴を押す勇気。一言、言葉にする勇気。
はじめるには、人生でもなんでも、そんなささやかな勇気で十分なんだろうな…
あったかい微笑みのおまけつきの勇気が後引く、お話しでした。

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何かを始めるには遅すぎることはないと教えてくれる映画ですが、でもそれなりに年を取るとかなり勇気が必要です。
その一歩を頑張って踏み出そう！とする映画ですね。

NY在住のCM作曲家ハーヴェイ（D・ホフマン）は、娘の結婚式に出席するためにロンドンへ。
ところが、「花嫁の父」の役目を元妻の夫にとられて失望してしまします。ヴァージンロードを娘と一緒に歩けないなんて、父親としてはショックでしょうね。ハーヴェイの心情が切ないです。

次々と災厄が降りかかり、自棄酒をあおるために入った空港のバーでケイト（E・トンプソン）と出会います。
この恋は最悪の出会いから始まるストーリーなんです。
D・ホフマンは、情けない父親役も仕事運に見放された男も見事に嵌っていました。
そして、もっとやるせないのはケイトのキャラクターです。同僚の誘いでデートをしてみても、気持ちは晴れないし逆に、居場所が見つかりません。そんな自分にもどかしさをも感じていたのかもしれません。
みんな優しくて楽しそうな人たちなのに、大勢の輪に入れず雰囲気にも馴染めずに孤立してしまうのは、新しい出会いによって自が傷つくのが怖いからなのかもしれません。

披露宴でやや強引にスピーチを始めたハーヴェイが、娘を思う気持ちを吐露する場面や、ケイトが思いの丈をぶつけるシーンでは、思わず胸が熱くなりました。
二人の名優の洒脱なやり取りも素敵でした。

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「５０歳の恋愛白書」と同じく中高年の恋愛や生き方を描きながら、非常につまらなかったあちらとは雲泥の差！
とても素敵な映画でした。

ＣＭ作曲家のハーヴィー（ダスティン・ホフマン）は、娘の結婚式に出席するためにロンドンを訪れる。
滞在中も仕事のことが気になって、携帯電話が手放せないハーヴィー。
離婚した元妻の新しい家庭の雰囲気から疎外された上に、娘からは
「バージンロードは新しいお父さんと歩きたい。」
と言われたハーヴィーは、披露宴にも出席せずＮＹに戻ろうとするが、飛行機に乗り遅れて足止め。
空港のバーで出会ったケイト（エマ・トンプソン）に声をかける。

ケイトは統計機関で働く未婚の４０女。父親に捨てられた上にガンを患い、精神的に不安定な母親からのひっきりなしの電話に悩まされている。
ハーヴィーとケイトが出会うまでの、ふたりの人生の対比の仕方がまずうまいです。

仕事に夢中で家庭を顧みなかった結果、娘に拒絶されてしまうハーヴィーは、「一体何が悪かったのかわからない。」というけれど、本人が気づいていなかっただけで、多くの人を傷つけてきたはず。
きっとこれが人生をやり直す最後のチャンス。（原題は「Last Chance Harvey」）
ケイトのすすめで渋々出席した娘の披露宴でのスピーチには泣けました。

背も低くて決してハンサムではないし、しょぼくれた初老の男になってしまったダスティン・ホフマンですが、リハーサルディナーの会場のトイレでのシーン、大きな鏡があって、そこに写るハーヴィーの横顔がものすごくかっこよくて、この人ほんとに名優だなあと思いました。

エマ・トンプソンは脂肪のたくさんついた普通の中年女なんだけど、それがリアリティがあっていいです。
ホフマンが背が低いのでバランスが悪いんだけど、ラストにさっと靴を脱いで腕を組むところがかわいいね。

ケイトのお母さんの「隣人殺人鬼」事件の顛末もよかったです。

劇場で一度観ていたけど、先日放送があったのでもう一回観てみました。

これって見方によっては単に中年の恋愛にしか見えなくて
退屈に感じるかもしれませんが、
世代とは関係なく、
シンプルだけど難しいこと
「心を開いて」「自分に素直に」「周囲を気にしすぎるな」
っていうようなことが間接的にスゴク伝わる映画だと思いました。

ハーヴィとケイトがバーで出会うシーン。
1人で読書をするケイトに話しかけるハーヴィ。
実際ああいうシチュエーションで
あんなに話しかけることって難しいかもしれない。

だけど、「恥ずかしい」とか思う前に
自分の思うことを話してみるのもイイもんだし、
相手に心を開いてもうには、自分が心を開かなければはじまらない
当然なことで、幾度となく描かれてきたことだけど、
決して若くない、美男美女でもない２人（←失礼！）が演じることで
ほどよくリアルに感じるんだと思います。

実際にこうもうまくいく話は少ないかもしれない。
でも
カラに籠もっていてはなにも変わらない
これだけは言えると思います。

似た話もたくさんある中、本作は
シンプルなストーリーからシンプルなメッセージが
強く感じ取られる映画でした♪

落ち着いたロンドンの町並みが
２人に非常にマッチしていて良かったです♪

結論からいうと、これ大好き。
すごく良かった。

エマ・トンプソン演じるケイト、どこにでもいる中年の平凡な女性。
まさしくおばさんと言われる世代。
年を重ねると、日々の平穏な暮らしを乱されたくないと思う。
平凡でも普通のいつもと変わらない暮らしが幸せなんだと思う。
そう思うことで自分を納得させているのかもしれないけれど・・
だからケイトが、ハーヴェイ（ダスティン・ホフマン）が約束の時間に来なかったことに、ちょっとほっとしたという気持ちがよくわかる。
自分の人生ががらっと変わることへの恐怖と不安の方が、おばさんには大きいのだから。

たった一日の出来事で、彼女がまるで少女のように、ときめいたり、悲しんだり、喜んだりするたびに
私の心がふわふわとして感情がかなり揺さぶられた。
どこにでもいる等身大のおばさん像、そして決しておとぎ話のような話ではないから、余計に感情が入ってしまった。
ダスティン・ホフマンの暖かい微笑みも魅力的。

新しい人生を始める勇気。
それはほんの少しの決断力と一歩前へ踏み出す勇気があれば始められるのかもしれない。
背中を押してくれる人を待っていてはダメなのかもしれない。