別離

「彼女が消えた浜辺」でベルリン国際映画祭の監督賞を獲ったイランのアスガー・ファルハディ監督作品。今作もベルリン国際映画祭で金熊賞を含む３冠を獲得、アカデミー賞では外国語映画賞をも授賞した作品ですが、前作の時も感じたのですが、宗教色が強くて、かなり意味不明な部分も多いです。
物語はいきなり夫婦の離婚裁判のシーンから始まります。
妻のシミンは１１歳の娘テルメーの将来を案じてイラン国外での生活を望み、夫のナデルは認知症の父を置いて移住などできないと突っぱねます。決裂したため、シミンが実家に帰ってしまったので、父を介護してもらうヘルパーとしてラジエーという女性を雇います。
ラジエーが無断で外出し、その間に父親が意識を失ったことに怒ったナデルは、理由も聞かずにラジエーを解雇。家から追い出そうと玄関から押し出す時に、ラジエーは階段で転倒し流産してしまいます。
今度はラジエーの夫から、胎児を死にいたらしめたことで告訴されます。妊娠１９週目の胎児だとイランでは殺人罪が適用されるらしいです。

日本と大きく違っているところは宗教の存在感が絶大で、特に敬虔な信仰心を持つラジエーは貧困層で、ラジエーが、ナデルの父がそそうをしてしまった時に、体を触っても良いかと電話をして聞いたりと、多分これも裸の男性を触るのも宗教上ではタブーなのかもしれません。宗教と生活と密接で、この辺も分かり辛い所以です。
悪人は一人もいなく、家族を守ろうと懸命で、そのため、小さな嘘が秘密を作ってしまいます。その嘘は事態を予想外の方向へと導き、問題を大きくしてしまいます。一体何が真実なのか？最後まで先が読めない展開はスリルがありました。
イランの宗教や女性の立場が語られ、物語の核心が明らかになるキッカケの演出はイラン映画らしく見事でした。
ラスト、最後の選択は描かれていなく、鑑賞者に委ねられることになります。この辺も前作同様アスガー・ファルハディ監督らしいです。

長くなればなるほど、肉親の介護は嘘がなくてはやっていけない。
その嘘のほとんどは認めたくはない非人道的なこと。
わかっていても見て見ぬふり、知って知らぬふりしてごまかしてきたことを、
赤裸々に見せつけてくれて、
見なけれよかったと思いながら観てしまった作品でした。

”賞”にはほとんど興味ない私ですが、アカデミー外国語映画賞は、今年は何だろうと楽しみにしています。
鑑賞できるまで時間がかかりますが、嗜好に合う珠玉作品だらけです。
今作は２０１１年受賞作。

嘘に信仰心が絡むと生き地獄だなあといつも思います。
信仰心はコワイ　と、またあらためて思いました。
苦しい時だけの神頼み、控えないとその度思ってすぐ忘れます。

ふたりの母とそれぞれの娘ふたり。
立場のまるで違うふたりの母の共通点、
イラン女性であること。夫の都合に振り回されていること。
そして娘達は嘘を付き合う互いの親、罵り合う父親同士を見上げながら、
逃れられない社会の現実を信仰と共に教え込まれ知らされ、
そして、近い未来の自分の姿を母に見る。
作中何度も繰り返される、「誰のせい？」
互いに責任を擦りつけあう姿は、どうしようもない原因を必死にうやむやにしあっているようでした。
責めることのできないどうしようもない原因。痴呆症、徘徊、介護必須の老父。

時々、聖母マリア象にも見えたシミン演じたレイラ・ハタミさんは、虚偽めいた慈愛迸る美しい女優さん。
ガラスに押しつけたコブタ鼻と白いスカーフが似合っていたのソマイェちゃんは、とてもかわいらしかった。
容姿共にバランスのいいふた組の親子でした。

見慣れた言葉、「別離」が重かったです。
別れて尚かつ離れる　免疫ある大人でなくそれを子供にも強いているところは、
見るに忍びなかったです。ですが、そこに引き込まれもしました。
あそこであのように終わらせるラストは、登場人物を含め大人達の自己都合本位な身勝手さの象徴のようでした。

原題、直訳で「ナデルとシミンの別れ」ですが、テルメーとソマイェのそれぞれの様々な別離の物語と思いました。

日本では観る機会の少ないイラン映画。一部、馴染みの薄い宗教的戒律も見受けられるが、物語そのものは普遍的なテーマを扱っている。
離婚、介護、不幸な事故が引き金となる訴訟など、我々日本人にとっても、いつ自分の身に降りかかるか分からない問題ばかりだ。

覚えている限り、劇中では一度もBGMは使われていない。サスペンスフルではあっても、話のスケール自体は小さく、ダイナミックな展開もない。でも、なんて饒舌な作品だろう。
実際にセリフは多いが、そうした言葉の数ではなく、家族の物語そのものが、それを超えた多くのことを語っている。
イランという国が抱える問題、さらに世界で起こる諍いや争いの本質まで描かれているように思う。

物語の中で起こる様々な衝突は、「誇り」が起因となる。男（夫、父）としての誇り、女（妻、母）としての誇り、人間としての誇り、信仰の誇り…。
一つひとつは間違っていないのに、それらが真正面から対峙した時、寛容さは失われる。まさに人間社会の、世界の国々の、縮図と言えないだろうか。

作り手によって、それぞれの「誇り」に正誤や善悪がつけられることはない。どこまでも視点は中立だ。ラストシーンは、その象徴だろう。
押しつけのない語り口でありながら、何かを突きつけられているような気分。簡単に答えの出るテーマではないが、考えていくことに意味はあると思う。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

「政治色の無いイラン映画」の傑作との評判を聞いて、政治色の無いイラン映画など存在するのか？
っと思いながら『別離』を観てみました。

うん、素晴しい！
イランという国で、イランの未来（子供達）の為に映画を作る監督の熱き想い伝わってくる傑作。

イラン独自の観念を盛り込みながら、外の人々（いわゆる私達）が観ても全く違和感を感じず、
共感しかない人間ドラマとしての脚本の完成度の高さは勿論のこと、
カメラや編集など技術的な違和感が全く無いのも素晴しい。

１本の家族ドラマとして、傑作なのは間違いない。

が、これは本当に政治色が無い映画なんやろか？
この映画には隠された監督からのメッセージがあるんやないやろか？
これほどまでに素晴しい映画を撮る映画監督が、現状のイランについて表現しないことなどありえるんやろか？

夫婦（家族）という最小単位の社会の物語に置き換えて、この映画は何を訴えているのか？

ハッキリ言って、コレが監督の意図したものであるのかはわかりませんが、
どう考えてもそうとしか考えれないので自分の考えをネタバレで書きます。

ググってみても、誰も書いてないので自信が無いんすけど、
当然これ（この家族）はイランの縮図であると考えるのが普通やと思います。

前の世代に問題を抱えた家族が、子供達の為に外にでるかどうか迷う。

子供のためには外側にでることを主張する母と、
内側で前の世代を受け入れて頑張るべきだと主張する父。

他の家族とのトラブルでは、自分の正当性を証明する為に争う父と
家族を守るためにお金で解決しようとする母。

父は、監督自身（又は国内で頑張る人々）、
母は、外に出ることで解決しようとした人々（亡命した人など）、
子供は、子供（イランの未来）という感じかな？

裁判で争う相手家族は、いざこざのある他国ととらえるべきか？

映画のラストで、結論は提示されない。

どちらが正しいのか、もしくはどちらも正しくないのか、それはわからない・・・

そして家族という最も小さな社会に置き換えられたことで、
この問題がいかに難しいかを観客は理解するという構造。

全ての人々を尊重し、全ての人々の考え方が理解できるように作られてるけれども、
父親に最も重心が傾いているように感じるのは、やはり監督自身の想いが投影されてるからでしょう。

彼は内側に残り、映画という表現で戦い続けているのだから。

「子供（未来）の為に外にでましょう」「なぜ内側じゃダメなんだ？」とか、
「あなたのことなんてもう解らないのよ！」「それでも僕の父（国）なんだ！」という場面では、
強き想いに胸が熱くなりました。

母の紹介で祖父（イラン）の介護にやってきた家族（他国）が、自分の子供（自国民）の為に、
結果として父（イラン）にヒドイことをしてしまうことから事態が悪化するという問題は、
アラブ諸国と西洋諸国などとの関係に置き換えると非常に良く理解できます。

思いつくままに書き込んでるので、まとまりが無く、繋がりが悪くてすみません。

社会に起きている問題は、家族でも起き得る問題であり、
家族で起きる問題は、社会でも起き得る問題であるということ。

人間が社会を形成すると必ず起きる問題であるという理解から始める必要があるということ。

※もうすぐ、「これは映画ではない」という映画が公開されます。
※反体制的な映画を撮ったということで、２００９年に逮捕され、
懲役６年と２０年間の映画制作を禁止されたジャファル・パナヒ監督の映画です。

映画制作が出来ない監督は数知れず。
亡命した映画監督も数知れず。

そういうイラン映画界の映画なのです。

個人的満足度　８７点！
オススメ度　８０点！（家族ドラマとしても傑作）

テヘランに住むある家庭の、すれ違いと亀裂を描いたイラン映画

宗教色は強くなく
大きく価値観が違うだろうといった点には、きちんと説明がなされているので
違和感を覚えることなく、最後まで息を呑んで鑑賞しました

思春期の娘、介護の必要な父親
不安を抱くがゆえに選んだ１組の夫婦の結論が、思いもよらぬ結末へと展開していくのですが
「外出して何をしていたのか・・・」
「知っていたのか、知らなかったのか・・・」
っていう部分を、サスペンス的に持っていく上手さが光って
次第に感情をジリジリ追い詰めていって、逃げ場がなくなる
全ての人が、家族の為に善く生きようとしているのに
何も報われない悲しさに、私の心もきゅー・・・と縛られ
その負の連鎖の矛先が、いつも子供たちに向かっていくのが
現代社会を、特にイランの現状を、歴然と表しているのではないかと思いました

二人の子供たち、その、最後の表情が忘れられない・・・

自分が発した一言一言が、そのまま自分を苦しめることになる
その言葉の重み
その度に壊れていく絆
それが一番よく分かっている監督だからこそ
ここまで真に迫る家族の物語に仕上がったのだと思います

信仰の違いはあれど、全ての家族に繋がるストーリー

最後の答えが提示されないのは、必然的なこと
それは、これが１つの道を示す映画ではなく
それぞれが考える為の映画だと思ったからです

思春期の少女を演じた女の子が、素晴らしかった

「答えは出ている・・・」

「今ここで、言わなければいけないのですか・・・」