ダークホース　〜リア獣エイブの恋〜

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（重大なネタバレあり。未見の方はお読みにならない方がいいと思います）



最近この手のダメ男が出てくる作品は多いので、トッド・ソロンズの描く地平も
メジャーに埋没しちゃうのかなぁと懸念しつつ観るも、やっぱりこの人のは違ったね。

主人公エイブの「イタさ」加減は抜群で、仕事も出来なきゃ性格も悪いで、いいとこナシ。
そんな彼のプロポーズを軽く受けちゃうミランダも、境界性人格障害っぽい。
こういう人物造形はホントに上手いと思う。

ストーリーがどうのってより、細かい「描写」の巧みさでリアリティを積み上げていくやり方が
個人的には好きだ。
「会いたい」って呼び出しといてベッドに突っ伏してる女なんてサイコー（笑）。
父親と喧嘩したエイブが「録画予約なんが自分でやれ！」って叫ぶのも笑っちゃう。
クリストファー・ウォーケンのものすごいハイウエストが醸し出す“おじさん臭”もキョーレツです。

ところが、後半の展開がビックリするほど意外な方向に行ってしまって、ちょっと「括り」が分からなくなる。
え、緩いコメディじゃなかったの？と。
エイブの苦悩が胸に迫ってくるラストで、観ているこちらは足元をすくわれてしまう。
「期待に応えられなくて辛かったね」って、なんだかシンミリしてしまう。
あの最後は、彼にとっては救いだったのか、とすら思えてしまう。
だってきっと彼は変われないもの。あのまま一生。

ミランダのように分かりやすく心を病む人は、案外、体は丈夫だったりするけど、
逆にエイブみたいに「自分は悪くない」って強固に自我を守り抜く人のほうが、
ストレスが身体に来て簡単に病気になっちゃったりするんじゃないかな。
あの事故だって、無意識の「自己否定」が引き起こしたのかもしれない。

大切な人の「ダークホース」であることは、幼い頃には“希望”であっても、
年齢を重ねるごとに、生き辛さを助長する“重圧”になっていくだろう。

なんだか哀しいオハナシだった・・・。


蛇足的疑問。
前半、トイレで電話を受けるシーン。合わせ鏡になっていて、エイブの姿が
何重にも画面の奥まで映り込んでいた。
不吉なことが起きると言われる「合わせ鏡」。
欧米でも同様の言い伝えがあっての、敢えての演出なんだろか・・・？

主人公エイブは典型的なダメ男。
いい年をして実家住まいだし、父親の会社で一応働いてはいるけれど、与えられた仕事も満足にこなせない。
そしてそれを人のせいにばかりしていて、誰もが嫌悪感を抱いてしまいそうな奴。

結婚式で知り合ったミランダ（セルマ・ブレア、久しぶりにみました。）にいきなりプロポーズ。
ところが意外にもあっさりＯＫが出てしまう。
どんどん話が進んでしまうのについていけないのか、現実と妄想の区別がどんどん曖昧になってゆくエイブ。
ミランダの方がエイブ以上の曲者だったということですね。

エイブの両親がクリストファー・ウォーケンとミア・ファローというすごいカップル！！
ひとつ確実に言えるのは、親にとってはどんな子供でもかわいくて、
エイブみたいなだめな奴でも、きっといつかは大成するダークホースだと信じているってこと。

終わりに近づくにつれて、どこまでがエイブの妄想なのか、わからなくなってしまいました。
ひょっとすると全てが妄想で、実はエイブは何も変わらず、「永遠のダークホース」のままだったのではないかと思わせるラストシーンでした。

（疑問１）
エイブがフィギュアを返品しに行くシーンで、建物の店名が消されていたのはなぜ？
せりふでははっきり店名を出してたのに。
あの店、融通きかないし、置いてる商品もいまいちで嫌いだったな〜。

（疑問２）
エンドロールのキャストリストのセルマ・ブレアの役名が
Miranda (Formerly Vi) となっていたのはどういう意味？
ソロンズ監督の「ストーリーテリング」でセルマ・ブレアがやってた役の名がViですけど、
あの映画の主人公とこの映画のミランダがつながってるってことでしょうか？

リア充をリア獣と言ったり、他のマンガのコピーを引用？したり、ちょっと過剰な装飾はあまり合っていないように思えます。
コメディ的な設定なんですが、トッド・ソロンズですからね。
笑えそうな題材を笑えるようには描かない。どんどんいたたまれなくなっていきます（クリストファー・ウォーケンやシシー・スペイセクは実におかしくて楽しいけど）。
いい年こいて現実と折り合いをつけられないで、昔の怪獣おもちゃだのに執心しているエイブの生態は、まあ想定内というか、それほど面白いものではありません。
もちろん、エイブみたいなヤツは嫌いです。
しかしエイブは幼児的ではあっても、口だけではなく、メンヘラのセルマ・ブレアに対して行動に移すわけですね。
それも必死というよりは、確信的に行動して、彼女を押し切り、意外とスムーズに結婚まで行ってしまう（理由はあるわけですが）。
この映画が面白くなるのは、僕にとってはそこから。
エイブは彼女ができたことで、どんどん落ちていく。現実と妄想の区別もつかなくなっていく。
この落ち方が、前半のエイブのワガママぶりに対する「罰」としては過剰なので、それまでエイブを不快に思っていた僕は、気持ちのやり場に困ってしまいました。
映画はあまりエイブの妄想と現実を分けようとしないので、社会と外れ者エイブの関係が曖昧に崩れてしまいます。
それまでエイブを眺めていた目線が、宙に浮かされてしまうんですね。
すると、孤独なエイブが浮かび上がってくる。
気持ち良いとは言えませんが、なかなか面白い映画体験でした。65点。

トッド・ソロンズ作品ということだけ事前情報として頭にあった状態で鑑賞。

でも、結局アレでしょ？いい年してパラサイトで
彼女も出来ず、オタクで、妄想癖もあって・・・
なんていう中年男が
ひょんなことからハッピーになるやつでしょ！？

ベッタベタだけど、面白おかしく撮ってるのかな？
なんて思ってたら・・・・・

そうだ、この監督は・・・・

ちょっと人間の痛々しいところ見せつけたり
観てるほうが二ガイ顔になっちゃうくらいの
「こうはなりたくない」を見せ付けたり・・・・

まさにそんな感じ。

この主人公エイブは
まさに中年パラサイト独身。

結婚式で一目惚れした女性に好意を抱き猛アタック。

んで、ハッピーになりました♪

なんて展開ではありません・・・・（苦笑

しかも、ダメな展開で笑わせようとかいうコメディでもない。
コメディ調だけど、もうこの二ガイ感じを見せ付けてくる。

いい歳してそんな生活して、
仕事も親のコネでゲット、ろくにできず・・・・

そんな男が出逢って間もない女性と結婚。

いまからでも大丈夫
なんとかなるさ
愛があれば大丈夫

そんなポジティブシンキングを
一気に玉砕する終盤の展開。

現実と妄想の区別はつかなくなり
挙句の果てには・・・・・

今までほとんど苦労もせず、楽して生きてきたツケだぜ！
なんて言わんばかりのね・・・・・

コメディ調のジャケ写真、
エイブのいかにもコメディな風貌とは裏腹に
シニカルすぎる後半が
なんだかんだですごく印象に残る・・・・

とにかくイタすぎる・・・・（汗

観始めたときにこの結末予想してなかったけど
やっぱりこの監督。

まったくもってハッピーじゃなくって、
気分も晴れるもんじゃないけど、
印象にはすーーーーーごく残る映画。

好き嫌いは別にして、これは観てよかった映画ですね。

虚を飲む現
来し方途中
人生謳歌は
途切れがち