孤独な天使たち

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大作が多いベルナルド・ベルトルッチ監督ですが、こんな小品も撮るのですね。10年ぶりなんてことを感じさせない若々しい作品です。
孤独を愛する少し風変わりな14歳のロレンツォ（ニッコロ・アンティノーリ）は、7日間のスキー合宿に参加すると母親に嘘をつき、自宅マンションの地下で自由を満喫しようと計画します。けれども２日目の夜、長らく会っていなかった薬物中毒の異母姉が転がり込んで来ます。
突然現われた異母姉オリヴィアと交流を重ねる中で、大人の世界へと足を踏み入れていく様を描きます。

舞台はほぼ地下室であるがために、大きな変化はなく、抑揚の少ない事がラストのちょっとした変化が大きく感じられました。
オリヴィアとの間に何か起こりそうで、意外にもそうはなりません。
ロレンツォが禁断症状が出たオリヴィアに頼られていくうちに自分も何かの役に立てると感じたのかもしれませんね。
お互いが必要だった７日間で、むしろ傷みを共有する仲になったのかもしれません。
終盤の姉弟のダンスシーンが素晴らしいです。デビッド・ボウイの曲をバックにロレンツォとオリヴィアが見つめ合うシーンが中々良かったりします。
多分、少年の中で何かが変わったのでしょう。何も起きていないようで何かが変わっていく心の変化が切ないです。
とても小さなスケールの話で、意外なほど穏やかな作品でした。

「ウォールフラワー」って映画の評判がいいんだけど　その中でザ・スミスの「アスリープ」って地味な曲が使われてるってことなんだけど　
いまだに８０年代ロックの呪縛が続いているね　７０年代でジャズが終わって　ロックは８０年代で終わっちゃたんだけど　
え　君はまだロックなんて聴いているの？　終わってるんだってばさｗ　映画も９０年代以降の音楽を使おうと思っても　８０年代
ニューウェーブなんかに弾き返されちゃうんだね

ベルトルーチは長患いだったんだね　良く知らなかったけど気の毒だったね　しかし冒頭のヘッドフォンで主人公が聴いているのは　
初期のキュアーのボクもヘビロテだったアルバムの中の「ボイズドントクライ」で　ベルトルチも若々しいじゃん　そして今の若い人は
知らないかもね　彼もコッポラ父娘などと同じようにロックに多大な影響を受けた世代なんだよね

問題児の主人公は　スキー合宿みたいのが嫌で　自宅マンションの地下室に隠れてしまう　この設定は何かに似てるね　
つまり閉ざされた空間　ミニアチュルな「ラストエンペラ」なわけでしょう　両親は大金持ち　何の不自由もないけれど　心の中に感じる
自由なんて何もないと　そこに闖入してくる腹違いの姉　市川昆「おとうと」の岸恵子のように美しく優しいおねえさん　胎児でいるように
心地よいここは紫禁城なのである　そこで芸術家でジャンキーでもある姉を通して　現実の一部を垣間見た１４歳の少年は　
デヴィドボウイの「スペースオデッティ」で世界に目覚めるのだ

その朝のラストは相米慎二の映画を見ているように泣けるんだけど　主人公のストップモーションで終わる　昔の映画みたいで
なんだか懐かしく　元気が出てくるんだね　平凡でどこかノスタルジックな小品だけど　ベルトルーチの今年最後の贈り物にありがとうだ

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ああ、これは非常にいい作品ですね。
ベルトルッチはイイ人だなぁと思う（笑）。
基本的に人間を信頼している、こういう作品が私は好きです。

裕福な家庭で何不自由なく暮らしている14歳のロレンツォ。
親しい友達もなくいつも独りで、ＳＦや恐怖小説の世界に浸っている。
自分の好きなことは夢中になって情報収集するのだろう、珍獣を扱うペットショップで
若い店員を質問攻めにしてやりこめてしまうような、ちょっとイヤな子ども。
精神科医から「自我肥大のナルシスト」と診断されるような少年。
でも、病院にいるおばあちゃんを見舞いに行く優しさがあるのだね。
この年頃の男の子なら母親となんか必要なこと以外に口もきかないだろうに、
この子はペラペラと自分の妄想の世界を語り出してママを呆れさせたり（笑）。
うっすらと髭も生えて身体は大人になりかけているのに、精神性は幼い子どものまんま。
そして冒頭のカウンセリングのシーンで、「また来週」と握手を求めた医師に対して
おずおずと手を差し出すところでは、「ああ、この子は大人が差しのべる手を
素直に受け入れられる子なのだな」と思わせる。
・・・うん、この作品は人の内にある善き意思の存在を信じているよ。

そんなロレンツォ君が、スキー合宿をサボって地下室に閉じこもる。
籠城のための食べ物もバッチリ準備して自由気ままな１週間になるはずが、
異母姉のオリヴィアの闖入で事態は思わぬ方向に・・・。

ジャンキーの姉がドラッグ断ちするという壮絶な現場に思いがけず立ち会うことに
なってしまったロレンツォは、禁断症状で苦しむ彼女のためにいろいろと心を砕く。
この辺の、「“他者から必要とされる自分”を自覚することで成長する」っていう筋立ては
まぁ一番分かりやすいんだけど、彼のブレイクスルーを助けたのはそれだけじゃない。
これまでヌクヌクと平和に暮らしてきたロレンツォは、自分が知らなかったこと、
知らずに済んでいた家族の現実について姉から聞くことになる。
すべて分かっている（と思いこんでいた）親たちの別の顔を知って、
彼は「自分の見知った世界の向こうには、また別の世界が広がっている」ということを
少しだけ理解したのだと思う。
ヤサグれたヤク中の姉が実は芸術家の顔を持っていたことも、人間存在の多面性や
複雑さに気付かせてくれたかもしれない。

そして、少年は薄暗い地下室から出て、明るい陽光の中を前を向いて歩いていく。
このラスト・カットが実にグッときます。音楽もいい。
ほんと裸足のラヴァースさんが仰るように、元気が出る。
ああ、映画はこうでなくっちゃと嬉しくて涙が出そうになった（笑）。


蛇足ながら、ヒネた主人公が地下室にこもって、可哀想な女が訪れてきてって
プロットはもしかしたらドストエフスキーの『地下室の手記』に目配せしてんのかも、
なんて思いましたが、どうでしょうね。
原作はラストが悲劇的らしいし。

ベルトルッチの最新作「孤独の天使たち」（2012）。

青春を描く、といえば、この映画よりも、前作「ドリーマーズ」（2003）が、ふさわしい。
エヴァ・グリーンの美しさ。

「ドリーマーズ」では、マイケル・ピットと、ルイ・ガレルと、エヴァの三人が、ルーブル美術館を、
ゴダールの映画の一場面を真似て、走り抜けるところがあった。

あの中に、ベルトルッチの「そのまま」自身は、いなかった。
あこがれ、夢という意味で、彼はいたのだろうが。

この「孤独な天使たち」は、私小説のような映画。

原作はある。
ニッコロ・アンマティーニティという小説家で、「ぼくは怖くない」（G・サルヴァトレス監督）があるそうだ。未見だが。

風采の上がらぬ男子高校生。
自分もそうだった。
本や、ヘッドフォンで自分を外界から守っていた。

家族と違和感があり、学校でも居場所がなく、精神科医の言葉も信頼できない。

彼は、その日、機械の工作機で、金属を削る音を聞いて、覚醒する。

物体を作るということは、長い工程だ。

鉱山から堀り出した石を砕き、精錬し、粗い銑鉄にし、そこからもう一度溶かし、鉄材ができる。
その鉄も、建築用の鉄となるか、包丁の鉄となるか、料理鍋の鉄となるか、その先は分からない。
しかし、鉄は、鉄である。

ひとも精錬されるが、自分で何になるかは、決められるだろう。

この映画の青年も、精錬されているのだろうが、まだ銑鉄、つまり、混じり物の多い鉄である。
ところが、まじりもの、土や、ほかの金属、銅やマンガン、イオウのような有機物があるから、
悩むのだし、可能性があるのだ。

純粋な鉄は、脆（もろ）い、錆（さび）やすい。

この映画には、退廃的なものはあるが、それは全く許していい。

なぜならば、彼らは、模索している。
伸びようとしている樹木なのだから。

18歳のロレンツォ役の男優（アンティノーリ）、年上のオリヴィア役の女優（ファルコ）。
どちらも当時、無名であるが、こういう俳優を使って、ベルトルッチは、私小説を書こうとした
のかもしれない。

「ふわふわで白くてきれいで　毛糸みたいで　何だか天国にいるみたいだ
　でも　それは見上げる空で　ここは地上なんだ」

これは、ロレンツォが、初めて男になったあと、蠅だらけの朝を迎え、語る詩だ。

青春のひとこまであり、子供と大人のはざまにある微妙な感性が伝わってきた。