ペテロの葬列

原作は、宮部みゆきの同名小説。
2014年7月から9月まで、TBS系の月曜ミステリーシアターで放送されました。
前年の同時期に放送されていた『名もなき毒』の続編にあたるようですが、
見逃してしまったのが残念です。
本作『ペテロの葬列』の主人公・杉村三郎（小泉孝太郎）がいずれの事件にも関わることになり、素人探偵まがいの観察眼と推理で事件の全容を解き明かしてくれます。
タイトルにあるペテロとは、新約聖書に出てくるイエス・キリストの使徒の一人で、過去に罪を犯したが後に悔い改めた者の象徴です。

今多コンツェルンのグループ広報室副編集長を務める杉村三郎は、この日、広報誌の取材のため編集長の園田瑛子（室井滋）と編集部員の手島雄一郎（ムロツヨシ）と共に森（柴俊夫）の自宅を訪れます。
そして、その帰りにバスジャックに遭ってしまいます。
犯人は佐藤一郎（長塚京三）と名乗る老人で拳銃を所持。
佐藤は、指定の場所にバスを停めさせ、運転手と迫田という老婦人をバスから降ろし、警察に通報するよう指示します。
バスに残された人質は、男女合わせて６人。
佐藤は、その６人に「後日、慰謝料をお支払いしますから」と信じられない約束をするのでした。
やがて、警察がバスジャックの現場に到着し、佐藤は「これから名指しする三悪人を探して連れて来て欲しい」と要求します。
この佐藤と名乗る老人は話術が巧みで、人質に取られているはずの乗客たちの恐怖は薄れていき、いつしか変な連帯感まで生まれていきました。
警察が不意を突いてバスに雪崩れ込むのと同時に、佐藤は持っていた拳銃で自殺してしまいます。
その後、人質全員に慰謝料が本当に送られてきて、彼らの人生が狂い始めます。
そもそも佐藤と名乗る老人は何者だったのか？
三人の悪人とは、どういう人たちなのか？
何故、あのバスが狙われたのか？
この慰謝料は、一体どういうお金なのか？
杉村たちは、宅配便で慰謝料が送られてきたことから、送り状を基に贈り主を探します。

杉村たちがいつも利用する喫茶店＜睡蓮＞には、マスターの趣味で絵画が飾られていて、
レンブラントの「聖ペテロの否認」
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「いかさま師」
ムンクの「思春期」など、
悪は伝染すると煽りながら、ペテロの改心を示してみたり、共謀した三人が善人を騙そうとしている表情を見せていたり、それらが物語に謎めいた邪な雰囲気を醸し出しています。
人はある条件や特定の状況下において、どのような反応をするのか？
突然大金を手にした人々が、善と悪の狭間でどのように葛藤するのかなど、人間の弱さ、脆さを突きつけられます。
バスジャック事件とは別に、心の隙に忍び寄ってくる誘惑など、登場人物たちの対応も含めて複雑な人間模様も描かれていました。
広報室において騒動を起こしたり、人の痛い所を衝いてくる井出正男（千葉哲也）の存在は強烈でした。
衝撃に次ぐ衝撃。
毎週、次回が待ち遠しい極上のミステリーでした。

４巻

８話　衝撃の一夜
９話　第２のバスジャック事件発生

３巻で新しい事実がするする出てきて、もうこのまま解決に向かうだろうと
思っていたら、また大きく道がぐねる。

死んだはずの暮木老人、本名羽田光明（長塚京三）から慰謝料が送られてきた。
人質になった者たちで誰が送ったものかを調べていくと、新たな人物が現れる。

言霊って、わたしもあると信じている。
頭の中に浮かぶイメージを口に出すか出さないかで、その現象はそのまま消えていくのか、
力を持って現実に現れると感じているのだけど、
小泉孝太郎演じる杉村は、まんまと豆狸みたいな親父の吐き出した言葉に
飲み込まれてしまっている。

マインドコントロールも、こういうことの延長なんだろうな。

宮部みゆきさんのファンなのでレンタルしました。宮部さん原作のドラマですが、小泉さんの杉村役がぴったりはまっていて、とても面白かったです。
原作は続編が出ているのでぜひドラマ化してほしいです。

６巻

これで最終回。

１巻の低速で視聴者が次々脱落していったと想像できるけど、
２巻以降最終回までぐいぐい引き込まれて面白くてやめられないドラマだった。
これだけ面白いんだから、もっと多くの人に見てほしいなあ。

聖書の中に登場するペテロ。
裏切り悪人と堕ちたが、自分の中の黒い部分を認め聖者へと変身した。

このドラマの中には色んな悪が出てくる。
登場人物の誰もが、表向きには幸せだったり普通だったり平穏だけど、
心の奥底にしまっている人には言えない薄暗い部分をもつ。

その人間の醜さや弱さを自分自身で内観し、認め、ペテロのように
変われるか。
そこが見所。

このドラマを見ると、観客自身、ペテロになれるか、
少しこころの中をぐるりと見渡したくなるだろう。

これまであまり興味がなく、なぜ人気があるのかよく分からなかった
小泉孝太郎さんと高橋一生さんと峰竜太さん。
この３人がすごく男前でかっこよくて大人のいい男に見えた。
高橋一生さんって、こんなに色気があったのね。
峰竜太さんも、ただ怖い嫁のしりにしかれたさえない中年男性って思ってたけど、
すごい役者さんなんだと目から鱗だった。

そして、主役を演じた小泉孝太郎さん。
なんだろう。
声というか、話す速度やトーンが、あらくれた人にも耳を傾けさせる
不思議な魅力と力が宿っている方だと気づいた。
これって、小泉さんの父、兄にも通じるもので、そういう血筋なんだろうなと
感心した。

もっと、たくさんの人に見てほしい作品だった。

４巻

６話　母の愛と罪
７話　バスジャック犯の本当の目的と理由

なぜ暮木老人がバスジャック事件を起こしたのか、
なぜ暮木老人は人質に慰謝料を支払うと言い残したのか、
ここへきてするするもつれた糸がほどけてくる。

暮木の前職、日商フロンティアというねずみ講詐欺集団との関係、
暮木と人質としてバスに乗車していた迫田老婦人の関係。

人質だった者たちの心情も右に左に大きく揺れる。
目の前で自死した暮木が言っていた慰謝料が何者からか送られてきた。
母子家庭で娘の学費が滞っている。
父親から引き継いだ町工場が赤字。
住宅ローン。
老人ホーム入所費。
それぞれに家計が切迫し、棚ぼたで手にした大金はのどから手が出るほど欲しい。

もらうか。
警察に申し出て返すか。

この決断もそれぞれに面白い。

他方で、夫婦関係が揺らぐ。
一見幸せそうにみえる杉村夫婦。
でも、財閥の娘の婿養子になり、その会社に就職されられ毒にも薬にもならないような仕事を
させられて自分の人生に疑問を持ち出した杉村三郎（小泉孝太郎）。
その妻杉村奈保子（国仲涼子）も、誰にでもやさしすぎて家族を一番に考えてくれない
ように見えてしまう夫に対し不満がむくむくわき上がり、いつも自分を見てくれている
父の秘書（高橋一生）の存在が大きくなってくる。

見ていて、この夫婦は一緒にいても本当の夫婦にはなれないって感じる。
杉村はいつもどこかに引け目を感じ、気をつかい生きている。
本当のことを妻に言えない。
一番大事なときや、辛い時、喜びたい時、まず最初に妻が浮かばない。
その時点で終わってる。

ペテロの葬列。
悔い改めた者の行進。
暮木が最初にふえを吹き、歩き出し、その後をぞろぞろと人がついていく。
あるいは、何も変わらない人。

脇を固める俳優陣が渋い一級品の方ばかりで、より作品が重厚になる。