ＮＨＫスペシャル　新・映像の世紀　第６集　あなたのワンカットが世界を変える　２１世紀の潮流

ＮＨＫスペシャル「新・映像の世紀　第６集　あなたのワンカットが世界を変える　２１世紀の潮流」
（２０１６年放送　日本・ＮＨＫ、モノクロ及びカラー、４９分）　　　　　ナレーター：山田孝之、伊東敏恵（ＮＨＫ）　音楽：加古隆　

‘映像は人類が蓄積した記憶である’．．．山田孝之氏のこのナレーションから始まる衝撃映像の数々。
喜び、怒り、憎悪、涙．．．映像に込められたメッセージは、瞬時に世界を駆け巡る。

まずは２１世紀最初の年、悪夢の記憶が刻まれた。
２００１年９月１１日。アメリカ同時多発テロ事件である。
その日、ニューヨークのローカル局のニュースでは、ワールドトレードセンター（ＷＴＣ）の最後の映像を映し出していた。
一方で、メーン州のポートランド空港や、ワシントン・ダレス空港では、ハイジャック犯たちがセキュリティ・チェックを易々と潜り抜ける様子が映し出されていた。更に同じ頃、ジョージ・Ｗ・ブッシュ大統領が、朝のジョギングをしている映像が流れる。
それから間もなく、アメリカン航空１１便を乗っ取った犯人から ‘我々は複数の航空機をハイジャックした’ 旨の連絡が管制塔に入る。
管制官はＦ−１６戦闘機に緊急発進を要請しているが、米空軍軍曹は ‘これは実戦か？　それとも訓練か？’ と応答している。
実に緊張感が伝わる映像だ。

午前８時４６分。ＷＴＣに１機目の突入。本編で流れるのは、フランスのクルーが撮影していた映像だ。言葉を失う。
世界のテレビ局が次々とその映像を流す中、２機目の突入の映像は、９時０３分、リアルタイムで流されている。

その時、ブッシュ大統領は小学校を訪問していた。首席補佐官の報告（耳打ち）で事件を知るブッシュ大統領の表情が映し出される。
子どもたちに動揺を与えまいと、７分間は子どもたちの朗読を聞き続けいる。
そして２機目の突入から５６分後、ＷＴＣは地響きをたてて倒壊したのだ。　その映像はまさに地獄絵である。

パレスチナ出身でニューヨーク在住のコロンビア大学教授エドワード・サイード氏は、次々と報道されるこれらの映像に警鐘を鳴らした。
「報道番組は、翼を持ったこの忌まわしい恐怖の怪物を、絶え間なく、しつこいほど家庭に持ち込んでいる。恐ろしいほどの喪失感、怒り、憤懣、弱みを傷つけられたという感情、復讐したいという欲望、映像は抑えきれない報復の思いを掻き立てるだけでなく、増幅までしたのだ」と。

そして映像場面は変わる。
２００１年１０月、アメリカはテロ組織「アルカーイダ」の引渡しを拒むアフガニスタンへの攻撃を開始する。
それに対する世界各地のイスラム教徒の反応は様々である。
２００３年、イラクに侵攻するアメリカ。やがてイラクはテロの泥沼と化す。
本編の映像では、米テレビドラマ「２４」の影響も伝えている。

画面はまったく別の映像に切り替わる。
２００４年１２月２６日。スマトラ島大地震によるインド洋大津波の模様を、一般人が撮影した映像が放送の主役となる。
そして翌２００５年４月２３日には、ＹＯＵ／ＴＵＢＥ最初の投稿映像が流れる。
やがて誰でも気軽に映像投稿できる時代に入っていく。

アフガニスタンでは米兵ヘルメットカメラの流出映像が問題になったりと、国家のコントロールを超えている状況に。
又、同性愛者たちを励ますレディー・ガガの歌唱シーンや、２０１１年の「アラブの春」の発端をめぐる事件映像などが流れる。
映像の拡散が更なる新たな映像を生み出し、怒りを共有した人々は、各地でデモを起こす。その模様はインターネットに投稿され、国民の怒りを買い、デモは広がるばかりだ。

特殊カメラが次々と考案され、映像は進化し続ける。
誰もが撮影者で、誰もが発信者である現代。
様々な映像によって、我々は世界の動きを知ることができる。
一方で、今日もテレビ局の無秩序な番組が垂れ流されている。