こおろぎ

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監督：青山真治（2006年・101分・劇場未公開）
脚本：岩松了

3回観たけど、私にはさっぱり解らない話だった。でも、画面には何故か惹き付けられて、観て良かったとさえ思う。
「ネタバレ」や「あらすじ」が書かれているものを片っ端から調べて読んでみたけど、やっぱり分からず、何処にそんな描写があったっけ？と思うことも。
いつか又観るかも知れないので、私の今の感想と疑問、思ったことを思いつくままに書き留めておく。
アイリスショットで幕を開けると、映し出されるのは海。
舞台となるこの地（伊豆）に1620年、ポルトガル人宣教師ベネディクト・フェルナンデスが教会を開き、十年も経たないうちに幕府の弾圧を受け、1633年にはフェルナンデスは長崎で殉教したという説明が出る。
シーンが変わって白杖を持つ山崎努と、付き添うように歩くカオル（鈴木京香）。
山崎努の役は、目が不自由で口もきけない男。カオルは、その男と出会って半年が過ぎた。
「自分なしでは生きていけない男に初めて会った。」カオルは、そう思っていた。
男は目が見えない分、ニオイと音には敏感なようだ。
本作には食事風景が度々出て来るが、男の食べ方は何ともインパクトがあった。
目玉焼きの黄身をチューチュー吸う。瓶に入ったヒマワリの種を食べては、プッとその辺に飛ばす。男とカオルが骨付きの鶏肉を食べるシーンは、手掴みで指を脂まみれにして、その指を舐めるのが妙にエロチックだった。
男の見えない目は白く濁り、その目で見つめられると、カオルは不安げに男の目をサングラスで覆うのだった。
カオルは、実は男の空洞のような目に魅了されていた。そんな自分を恐ろしいと感じていた。
ある夜、男の隣のベッドで、カオルが一人喘ぐシーンがある。男はその様子を見えない目でじっと見ているように私は思ったが、ひょっとして男には不思議な力（例えば念力）があって、離れた位置からカオルに触れずに犯しているのかも知れないと、ふと思った。
この男は不思議なことだらけ。
陽の射す方に手のひらを向けてみたり、部屋の中に現れた七色の光に頷いたり、木の幹に耳をつけて何かを聞いたり…
この物語がさらに訳のわからない方向に進んで行く。
カオルが一人で買い物に出た時、聞こえて来る音楽に誘われるように行ってみると、そこは共済組合が運営している集会所（バー）だった。
ミラーボールがあり、カウンターの中のバーテンダー二人は、左を向いて並んでシンクロするように同じタイミングでシェーカーを振っている。（何かの冗談？）
離れたところからカオルを見ている若い男（安藤政信）の視線。そこに若い女（伊藤歩）が加わる。
この二人が登場することで、さらに話はミステリアスになって行く。
ここは「安良里」という地名で、その昔、船に乗ってやって来たのは宣教師に化けた商人たちで…と、若い女がこの地の因縁めいた話を始める。
その後、盲目の男は益々行動が奇妙になり、やがて死んでしまう。若い男女は、人を集めてカオルが自由になったお祝いをする。そして、あのオジサンなら昔からここにいて、また直ぐに現れると言う。
この若い女は「本物が見つかったら、偽物は要らない」とか何とか言って、トラックに撥ねられると同時に姿を消してしまう。
カオルは日常を生きているようで、でも、カオルの周囲は盲目の男も含めて非日常のようで…
分からない。全く理解不能。タイトルの「こおろぎ」の意味さえ分からない私に、誰か解答を…

FUKUSHIMA50なる反動的な邦画が大ヒットしてる様ですが 一方で福島の惨事
を真摯な思考へと促すべく 2013年から続く三部作「それから」「SEARING」
「共想」の篠崎誠作品は 未だに一般公開のめども立ちません 青山真治の今作
も又 14年もお蔵になっていました 先ずはめでたい世界的映画作家の復権なの
ですが この事態はなんとかならないのでしょうかね

アイリスイン アウトで始まる この作品はスタンダードのビデオ作品の様な按配
しかし たむらまさき撮影他 スタッフもキャストも渋く豪華 伊豆方面のロケか
盲人の男と 女の物語 別荘に入る光と風 食べる事の味覚で無く触覚のエロス
ミラーボール 嗅覚 若い男が混じって来る 聴覚など この辺は常套的か

何気に前半は 三角関係のTV的ドラマかと思えるのですが どこか平凡かとも
海と月からのサスペンス 滝と洞窟 鏡！ 隠れキリシタンと あれよあれよと
どんな展開なんだよとなります このわけわからなさが面白い 原案をどんどこ
膨らまして行くんですね 脚本のメインは岩松了！

アラリ！！ 雉も鳴かずば撃たれまい 白昼の幻想 光は闇の中で輝いていた 暗闇
は それを理解しなかった いや逆なのかだろうか この後半の融通無碍な展開が
何とも魅力的なのだ流石 青山は違う ユーモアも伴い ふっと鈴木清順の風狂
諧謔などに 想いを馳せることになるだろう

しかし やはりジャスティスの人 青山真治は個別のエロス談義から 歴史への
思考へと観客を促すのだ それが隠れキリシタンの挿話の意味だ 死と再生の歴史
歴史の証言者として 妙に多弁な女の子 伊藤歩は その役目を終えるとトラックに
跳ね飛ばされてしまうだろう それは悲劇で無く単に消えるのだ

既に退色して古いTVドラマの様な画面はつらいところだが 中身は予想に反して
滅法面白い事を保証しますよ 久々に青山作品を見て あの日々が 青山真治と
黒沢清 そして北野武の新作が同時に発表されていた日々が思い出されるのでした