私のちいさなお葬式

　邦題やジャケットの雰囲気から、温かみのある物語という印象を受けたのだけれど、ユーモアは硬質で、寒々とした悲哀を感じる内容だった。ロシアの小さな田舎町で独り暮らしをしている主人公の73歳の女性エレーナは、元教員で、地域には教え子がたくさんいる。教員だったという自負を持ち、慎ましく真面目に生活しているけれど、周囲と楽しく交流したり、周りを優しく思いやる様子には見えない。

　心臓が悪く、医師にいつ心停止してもおかしくないと宣告され、第一に仕事で忙しい都会に住む息子に迷惑をかけたくないと、自分で勝手にお葬式の算段を始める。ところが、自分の死期まで決めて、具体的にお葬式を計画し、周りを巻き込んでしまう。死んでもいないのに、教え子の検視医に死亡診断書を書かせ、戸籍登録所では無理やり埋葬許可証を出させる。お気に入りの棺を買い、墓掘り人に棺用の穴まで掘らせる。大量の食料品を買って、葬儀用の料理を用意しようとすると、察した友人たちがさすがに手伝ってくれる。

　死の時に備えてドレスアップまでするのだが、ところが、当然のことながら予定通りには死ねない。結局友人に自分を殺して欲しいと頼み込む始末。介護施設に入れようと帰ってきた息子オレクは、母が死んだと思い違いをして深く後悔する。けれど、実際には元気な母と口論になり、投げた車のキーを母が飼っていた鯉が飲み込んでしまい、騒動となる。（これは、冷凍から生きかえった鯉で、「解凍された鯉」が映画の原題。）

　母は息子を思いやり、息子は母の残り少ない人生に寄り添おうと決意するという結末だとは推測するのだが、はっきりとは描かれていない。エレーナは息子を誇りに思い大切にしているけれど、（鯉と）息子以外の人にはあまり優しさを示さず、実直だが温かみに欠ける気がする。

主人公のおばあちゃんが、とってもチャーミング。73歳？それ以上に見えたけど。
自分が死んだ時、忙しい一人息子に迷惑がかからないようにって、自分で自分の葬式を準備するなんて。
息子も息子だ。こっそり老人ホームを見学して、あまりの現実にガクゼンとするなんて。明日は我が身だよ。楢山節考（姥捨山）を思い出したじゃないか。年寄りが、若いもんに遠慮しながら生きてるって、かわいそうだ。
鯉が、いい仕事をしていた。ような気がする。うまく言えないけど。

主人公のおばあちゃん可愛らしくて息子のために一生懸命で良かったです。近所のお友達も毒舌でもみんな思いあっていて良かったです。でも自分の死のお手伝いに友達を巻き揉むのは止めて欲しいなと思いました。
息子は最初冷たいなと思ったし本当は都会に行きたくなかったのかなと思うと少し息子さんの気持ちも理解出来ました。

いつ死んでもおかしくないとわかると、普段適当だった絆が少しずつ戻ってくる。それぞれの日常を大事に過ごすと離れていくけど、思い出したりする。私も病気が続いているので遺言書などを書いたりしているけど、これからの手術の前に少しだけ家族らしさが戻った気がする。