人数の町

２０１９年。監督・脚本・荒木伸。
第1回木下グループ新人監督賞準グランプリに選ばれて長編初映画化した作品。

簡単な仕事だけで、衣食住が保証されて、セックスも満たされる「謎の町」
理想郷ではないか？
うかうかと惰眠をむさぼり、楽しく過ごせそうに思える。
しかしそこには、自由も夢も希望も、そして個(自分)も、無いのだった。

カード破産したり、ネットカフェ難民になったり、殺人をしたり、夫に虐待されたり・・・
居場所のない人間のユートピア「人数の町」
町というよりは巨大な施設。
ホテル並みの個室と社交場のプール。
ネットに書き込み（誉めるandディスる)をすると餌(食べ物)が、供与される。
部屋番号札を渡す→相手が受け取れば、OKのサイン。
セックスが供与される。

さて主人公の蒼山(中村倫也)は借金取りに暴行を受けている所を、
黄色いツナギの男(チューター=指導員か？)に助けられて、バスに乗り込み
「人数の町」の一員となる。
蒼山はそれなりに「人数の町」を謳歌する。
暫くして妹・緑（立花恵理)と姪のももを探して紅子(石橋静河)が、
「人数の町」に現れる。
ここから、町を脱出を試みる蒼山と紅子の冒険的になるのだけど、
今ひとつ盛り上がらない。スリルがない。

「人数の町」を創った《黒幕は？》
「人数の町」の目的は？
デュード（アイツとかおまえとか・・)と呼ばれ、名前も戸籍も奪われたとき、
人は生きる目的を持つことが可能だろうか？

その恐怖を、もう少し具体化するラストのインパクトが不足している。
惜しい作品だ。
(しかし気付がないだけで、実は私も人数の町の住民なのではないのか？
・・・そんな気にもなるディストピア・ミステリーだった)

　辛口です。

　このようなアイデアの面白さを楽しむ映画にこんなことを言うのは野暮というものだろうが、マイナス面の現実の統計数字（失踪者、ネットカフェ難民、倒産、自己破産、等々）が引用されている以上、現実批判の意図は皆無とは思えないので、人数の町の外の現実がもっとしっかり描かれなければ、この町の住人になる動機が稀薄過ぎる。暴力や借金苦から逃れられて、衣食住と性欲を満たすことさえできれば満足し、幸せだろうなんて、人間を見くびっている。はたして衣食住を保証されることが自由なのだろうか。しかもその食ときたら、空腹を満たすだけという代物で、とても食事とは呼べないような単なる餌だ。

　プールだけが娯楽で、美しいと台詞で言われる景色と若い女性以外、書籍も音楽も美術も、美しいものは何もない。外の世界にある暴力や嫉妬や醜さ（唯一、太った男性を豚と呼んで侮辱しているが）もない（ことになっている）。犯罪者をも受け入れて基本的欲望のままに生きているのだから、洗脳や恐怖や懲罰といったある種のコントロール手段がなければ、町の平穏は保てないと思うのだが、それ（自由と友愛の町にとって極めて不都合なこと）も描かれていない。この町の存在を肯定しているのか？あるいは、否定しているのか？　必要悪と見なすのか？あるいは、反面教師とするのか？　それらも曖昧なままなので、伝わってくるものがない。それとも、観る人が勝手に解釈せよということなのか？

　人数の町のアンチテーゼになるはずの、妹を捜しにやってきた女性と姪と主人公との３人による愛の逃避行も、表面的で極めて即物的に表現されているので、ドラマティックどころかむしろ不快なだけだ。結局人数の町からは逃れられないし、現実の生活は過酷だから、チューターになったり、人数の町に住む方が無難で苦労がないのだとでも言いたいのだろうか。　

借金で逃げていて、追いつかれ暴力を受けた蒼山（中村倫也）。
「どこにも居場所がない」と絶望してると、黄色のつなぎ服の男が現れ、
「デュードへ行こう」と誘う。
町はずれの大きな建物に着くと、首筋に何かマーキングされ、部屋の鍵を受け取った男女が無表情に歩をすすめていた。

「デュード」そこはマニュアルに従ってさえいれば、衣食住が保証され、ごく簡単な作業をして、SEXさえも自由、しかも管理人（見張り？）は優しいという、『楽園』だった。
中村倫也がとまどいながら、デュードの中をあちこち覗いて（いちいち驚く）という序盤である。

面白い設定だと思うが、既視感は否めない。先が読めそうである。
ボンヤリした展開にやはりあるのは「絶望」であり、表面的なごまかしだけ。
まさか、行ってみたいと思う若者はいないだろうが、
『自由意志』があるようで無くて、かすかに『洗脳』の香りがするとなれば、
連想するのはあの施設である。
私的にはオススメはしないが、新人監督の気負いは空回りしない程度には、感じられる。

人数の町と呼ばれる町が何カ所もあるらしい。
ここは人生に挫折した人、罪を犯した人、行き場の無い人などが
衣食住を無償で与えられ、毎日気ままに住む施設。
一見自由のようだが、決して自由ではない。
ICチップのようなものを埋め込まれた彼らは
何をしても許されるが、結婚して家族を持つという構想はここではない。
彼らがやるべきことはネットへの書き込み。
絶賛タイム、ディスりタイム、で書き込む度に食べ物がもらえるのだ。
まるで芸をしたらおやつをもらえるアシカと同じだ！
それが終わればまた体たらくに過ごしていいのだ。
唯一町の外へ出れる日、それは選挙の日。
不正に手に入れた選挙権を使って、決められた人に投票をするという一日を過ごすと、
ご褒美が待っているのだ。

こんな街を作ったのは誰なのか？
こんな街を支配しているのは何者なのか？
それはこの話では重要ではない。
ここに住む住人は名前も戸籍も奪われ、脱走することは出来ない。
ただ人数の一部として一生を生きていくだけだ。
主人公はこの生活から抜け出ようと抵抗を試みるが。。。

ラストのオチは切ない。

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他の方の評価が高いので言いにくいのですが、個人的には全然はまりませんでした。
あえて言えばできの悪い「星新一さんの間延びしたショートショート」ですかね。
ストーリーそのものは途中で既に丸解りなのですが、そこからジタバタしてるのが今一つでした。