エイブのキッチンストーリー

（2019年・アメリカ、ブラジル）
あのノア・シュナップ君が、今回はブルックリンに住む12歳エイブ君を演ずる。
料理が得意で、完成品をインスタ映えするようにアップするのが、とにかく楽しい。
監督はフェルナンド・アンデラーデで元祖ユーチューバーだった人だから（笑）、
映え映えのこのシーンは高評価。いいねいいね。

四六時中スマホいじってたおかげでエイブくんは、フュージョン料理専門のブラジル人のシェフと出会えた。ネットばかりやってても、リアル人物と出会う事が可能なのだ。
フュージョン料理とは各国の味をかけ合わせて、新たな味を創作する多国籍料理のことだ。

なんだって、エイブ君はフュージョンに興味を持ったの？
実は、エイブ君は、パレスチナ出身イスラム教徒の一家の父親とイスラエル出身ユダヤ教徒の一家の母親の間に生を受けたのだ。
親の対立を見て育ったパパとママはエイブを無宗教で育てる。だが、誕生日会や何やらで集まるとジイちゃんたちとバアちゃんたちは、いつも大ゲンカ・・・。悲しいエイブ・・。
宗教の枠を超えたフュージョン料理にエイブは希望を感じたわけさ。
そして、頑張って仕込み、七面鳥を焼き、お菓子も出来た・・・。
なんと、エイブ君は食前のお祈りまで、ユダヤ式とイスラム式をフュージョン（融合）させてしまいます！（どんだけ苦労したんだ・・）

さあ、ジイちゃんバアちゃんにエイブの心は伝わるのでしょうか？
『バベットの晩餐会』じゃないんだから、崇高な感動こそありませんがね。
めちゃ可愛いエイブ君の健気な気持ちにホロリとさせられます。

画面が童話か？絵本か？グラフィックか？
と言うほどセンスあってポップで楽しい。
エイブ君がFacebookに載せる料理もめちゃ美味しそう。
そんな可愛い映画なのにサブテーマは、対立するふたつのカルチャー(祖国)

２０１９年(アメリカ／ブラジル)
監督はブラジル人のフェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ。
自身の体験を元に映画にしました。

料理を愛する12歳の少年エイブを悩ませる２つの祖国。
パレスチナ人の父親とイスラエル人の母親を持つエイブはニューヨークのブルックリンで暮らしている。
文化と宗教の違いからすぐ口論になる家族に悩んでいる。
エイブ君(ノア・シュナップ)が見るからに愛らしい。
画面もお料理本のように美しくセンスあります。
そしてエイブの尊敬する料理人チコはブラジル人。
なのでBGMが明るく乗りの良いアップテンポの多国籍音楽。

楽しいはずの映画なのに、問題は難問で複雑。
父方の祖母はラマダンの絶食。
エイブは豚肉を食べないユダヤ人。
エイブの企画するフュージョンのお家族みんなの食事会。
エイブ君にも、家族のみんなにも嵐が吹き荒れるけど、ふたつの祖国を持つエイブ君に妥協点は見つかるかしら？

祖国をふたつ持つことの難しさと、過去の遺恨を水に流せない大人たち。
味付けも複雑だけど、《ルーツに悩むエイブ君》のチャーミングな映画でした。

　12歳のエイブは、料理が大好きで、とっても気立てのいい素直な少年。彼の悩みは複雑な自分の出自。父方はパレスチナ出身のムスリム、母方はイスラエル出身のユダヤ人で、彼自身はブルックリン生まれのアメリカ人。言語も文化も宗教も違う。父親は対立を避けて無宗教を貫こうとするが、宗教的バックグランドは大事と考える母親は内心それが気に入らない。エイブは父方と母方両方に気配りをして、両方の文化や宗教に平等に関心を示し理解しようとするけれど、そんな彼の気持ちを誰も分かってくれない。皆が集まればいつも口論になってしまう有様。

　夏休みとなり、料理サマーキャンプに参加するも、ナイフ禁止のあまりにお子様なレベルに、速攻退散したエイブは、潜入したレンタルキッチンで、ヒュージョン料理の屋台を営むブラジル人シェフのチコに出会う。彼に頼み込み、サマーキャンプに行くふりをして、チコの仕込みを毎日手伝うようになる。料理の基本や、生きていくのに大切なことをチコから学び、次第に信頼され大事なパートを任されるようになるけれど、これからという時に中断せざるを得ない。

　感謝祭が近づき、エイブは、ギクシャクした家族の和解のために、自分が料理をして、皆をディナーに招待しようと思いつく。自ら検索して工夫したパレスチナやユダヤのヒュージョン料理、伝統的なローストターキーにデザートまで準備して、本格的なテーブルセッティングで皆を迎える。感謝の祈りもヘブライ語とアラビア語でするという念の入れよう。けれど、エイブの奮闘も虚しく、料理そっちのけで、またもや言い争いとなり、祖父母は両親の子育ての批判までする事態に、落胆したエイブが家を飛び出してしまって、という展開。

　映画は様々な新鮮な食材や料理で溢れていて、カラフルな多国籍料理がとっても美味しそう。多様な味を融合したヒュージョン料理が、文化や宗教の違いにいつまでもこだわるなんてつまらないと、教えてくれます。エイブが言っているように、どんな料理も、塩味、甘味、酸味、苦未、そしてうま味のハーモニー。余談ながら、うま味の概念を発見したのは日本人で、日本料理の基本の味です。今では、うま味という日本語は、世界の料理共通の言葉になっています。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

お気に入りのレビュアーさんのご紹介で観てみることにしました。
素晴らしい作品でした。
ご紹介ありがとうございます。

さて本作の根底に流れるのは未だ解決が見いだせない宗教、人種の問題。
多人種社会のアメリカならばこその問題ですね。
その問題を取り入れライトに作り上げた監督の手腕は見事でした。
明るい画像と作品に流れるポップな音楽も良かったのでしょう。

パレスチナ人の父親とイスラエル人の母親の間に生まれた主人公のエイブ。
二人の狭間に揺れる10代の少年の葛藤を、料理を通じて上手く描いていました。
自分のアイデンティティーはどちらなのか？
父を立てれば母が立たず、母を立てれて父が立たず、立ち位置に悩まされるエイブ。
父方の実家に行けば父方の習慣を押し付けられ、母方の実家に行けば母方の習慣を押し付けられる。
これは相当にキツイ・・・

しかし大好きな料理とブラジル人シェフのチコとの出会いが彼に救いをもたらせます。
そして色々なことが上手くいきかけた時、両親が離婚の方向に・・・
エイブが二つの国家の料理をフュージョンさせ何とか仲直りをさせようと目論見ますが、結末やいかに・・・

面白かったです。

僕はエイブラハム。呼ぶ人によってはアブラハムとかイブラヒムとか
でも僕はエイブがいい。
パパはパレスチナからの移民の息子。
ママはイスラエルからの移民の娘。
相反する二人が出会ってしまい、恋におちた。
当然双方の両親は反対したんだよ。
でも二人は反対を押し切って結婚、そしてめでたく僕が生まれたんだ。
そんなわけでパパは無神論者になった。
そして僕も無宗教になれとパパはいう。
とはいえ、ムスリムの儀式に参加したり
ユダヤ教の儀式にも行ったり
半分ずつ彼らと同じ血が流れる僕は、どっちつかずで何時だって戸惑うんだ。
ムスリムであるお爺ちゃんと、おばあちゃん。
ユダヤ教徒であるお爺ちゃんと叔父さん。
僕はみんな大好きなんだよ。
喧嘩なんかして欲しくはないのに、集まると事ある毎に
互いの悪口の言い合いになって、険悪な状態になるんだ。
だから、僕は考えた。
フュージョン料理でムスリムとユダヤを結合させて、皆で食べれば
きっと皆は笑顔になれるはず！
だからブラジル人のチコの弟子になって、フュージョン料理（多国籍料理）を勉強したんだ。
パパとママには内緒でね。
それは悪かったとは思うけど、でも僕の気持ちも判ってよ。
半分半分の僕の立場は、何時だって大変なんだ。
この国には色々な人種と宗教の人がいるんだから
こんな思いをしているのは僕だけじゃないって判っているよ。
でもね、僕は悲しいよ。
どうして大人はお互いを理解して、違うことを受入れようとはしないのか？
自分たちの言い分ばかり言ってたら、一生仲良くなれないじゃないか。

『ストレンジャーシングス』のウィルを演じたノア・シュナップ主演です。
彼はあのドラマのときから綺麗な子供だなと思っていましたが
何と現在16歳で、メチャカッコよくなっているようですよ！
本作でも多感な年頃の複雑なアイデンティティーに悩める少年エイブを見事に演じています。
彼がSNSにあげる料理がカラフルで可愛いこと！
パレスチナとイスラエルの対立の問題を、深刻ぶるわけではなく
さらりとかる〜いタッチで問題提起する作品です。
なかなか良かったです。