茲山魚譜−チャサンオボ−

（2019年制作・韓国）
この中年のステキな学者さんは誰？と思いながら視聴してて、後でキャストを見て
ビックリ！なんとソル・ギョングだったとは！
（今までにないソル・ギョングの、学問や人生に懊悩する目、そして優しいまなざしに
改めて感じ入った。）

1801年．国王に信頼される学者でキリスト教徒だったチョン・ヤクチョン（ソル・ギョング）は、
王交代時、迫害により黒山島に流刑になる。
そこは、豊かな海と自然があり、生活は貧しいが親切で素朴な人々との出会いがあった。
ヤクチョンは次第に海の生物たちの様子に興味を持ち、記録してゆこうと決心する。
島民の中に誰より海の生き物に詳しい若き漁夫チャンデ（ピョン・ヨハン）がいた。
勉強が好きで、科挙を受けて出世したいという志があった。
互いに学び、師となり友となった。

人生は思うようにはいかないものだ。ヤクチョンはチャンデに出会うことによって、
いわゆる机上の学問から実学に目覚め、チャンデは本土で採用されるも、腐敗した役人たちに絶望し、
島へ帰ることになる。出世だけではない人間らしい生き方を求める。
回り道のようだが、いくつになっても、どこからでも、本当の自分に回帰しようともがく努力は
ムダではない。二人の姿勢がとても良かった。
映画は白黒で、ラストカットで次第に海と空が青くなる。
風景も心も美しい作品だったと思う。

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17世紀初頭の朝鮮半島。モノクロの映像は水墨画のように美しく、また島の人々の素朴な暮らしぶりは戦前の日本映画をみるようであった。
当時の朝鮮は王を頂点とした中央集権で、両班（やんぱん）と呼ばれる特権階級が国の政治と経済を支配していた。
課税対象は16歳以上の男子のはず。しかし死者や赤ん坊にまで税金をかける。松の木1本1本にまで税をかける。払えないと大切な牛を引っ張っていく。米を炊く釜の蓋まで奪っていく。
基本、「科挙」に合格しないと両班にはなれない。常民（さんみん）よばれる庶民は書物、学問をする機会に恵まれず、科挙の受験資格さえない。別将とよばれていた島の長官はなんにも知らないアホで、科挙に合格したとは思えなかったが両班の家系の出身だったのだろう。
昌大（チャンデ）という貧しい漁師の若者が生まれもった才能と努力、そしてある運命によって科挙に合格した。流刑の身となって島にやってきた著名な学者、丁若銓(チョン・ヤクチョン)を師と仰ぎ、友と慕ったことも大きかった。
ただし昌大がひたすら勉強したのは当時の朝鮮をガチガチに支配していた儒教（とくに朱子学）だったので丁若銓が天主教（キリスト教）を信仰する理由が理解できなかった。キリスト教は儒教の根幹である「祖先崇拝」を否定していたからである。また丁若銓が「王のいない世界」を理想とすることも理解できなかった。
昌大はめでたく本土の官吏となった。しかし衛前（下級役人）たちが当たり前のように民から何倍もの税金を集め、私腹を肥やしているのをみて、自分がその仲間になることに耐えられなかった。あるとき民を虐待する衛前にとびかかってその首を締め、投獄されてしまう。そしてはじめて丁若銓の言葉を理解し、島の漁師に戻る決心をする・・・。

朝鮮王朝時代の海洋生物学書「茲山魚譜（チャサンオボ）」に記された史実を描く

キリスト教が迫害されていた19世紀初頭の朝鮮で、熱心な教徒だった天才学者チョン・ヤクチョンは最果ての島に流刑になる

漁夫チャンデと出会いやがて2人は深い友情を築いていく心に残る感動作品