選ばなかったみち

ニューヨークに住むメキシコ移民、レオ（ハビエル・バルデム）は認知症を患っている。
ヘルパーの助けがなければ生活もままならないような状況だ。
娘のモリー（エル・ファニング）はその日、父親レオを病院の検査へ連れ出すのだが、
レオが歯医者の診察台でおもらしをしてしまうなど、四苦八苦。
しかし、モリーは父とトイレにこもり着替えをさせる。
「脱いで。ほら、こうして。私も脱ぐから。簡単でしょ？」怒りもせず臭いとも言わず、
保母さんの如く天使の如く、エル・ファニング最高だ。けなげな笑顔よ。

しかしながらレオ（ハビエル）は、起きてる時も脳内は過去をさまよっている。
心ここにあらずといった惚うけた顔をして、これまでの人生で自分が選択してこなかったいくつかの道の、その先を夢想していた。
ヒゲモジャハビエルが、クルッと振り向くと、ヒゲ無しハビエルになっていて
ギリシャの青い海で女の子を追っかけてたり、メキシコで初恋の女性と打ち解けてたりする。

（時系列バラバラなのには）ねらいはあるのだろうが、見てる方も切り替えが大変だ。
少し前に『ファーザー』という映画では、
認知症患者ホプキンスの視点で進行する現実と妄想が混濁するこわさが描かれていた。
本作『選ばなかったみち』は異なる三つの世界が入り乱れる
認知症のレオをヘルプするモリーの視点と
レオ本人の現在の目線、レオの深層心理を映像化して、行ったり来たりすることでストーリーが展開する。

モリーはその日、会社で重大なプレゼンかなにかあったのだが、
休まざるをえなくなって会社から戦力外通告をされる。

父親の介護とやりたい仕事、その両方をすべてモリーがこなすことは物理的に無理な話だ。一方を選べば、もう一方は選べない。
（ん？「選ばなかった」ってモリーの方の事かな？）

介護と仕事の両立は難しい。ヘルプを入れるにも選択肢がある。
また、育児と仕事、育児と家事もキツイ場合がある。
ラストで、仕事にゆくモリーを介護するモリーが見送るという現実離れしたシーンが描かれるが、カラダが二つあれば良いのにと
願わずにいられない願望なのか。
笑顔でいても、疲れ切って顔色も悪く、きれいな金髪がまとまっていないエル・ファニング。切なかった。

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認知症の父親レオが、頭の中で、自分が選ばなかったみちを
想像して旅をしているのでしょう。
メキシコとギリシャは、父親の妄想だと思います。
認知症の人は、現実と妄想の区別がつかなくなるといいます。
この父親もまた、妄想の中で自分探しをしているのでしょう。

かつて好きだった恋人と結婚して生活をしているメキシコと
ギリシャを旅している自分
そして娘が医者に連れていこうとしている現実
３つの風景が交差して描かれていきます。

認知症がかなり悪化している父親の
妄想の中の出来事も、シリアスで悲劇的です。
自分の娘であるモリーですらわかっていない様子の父親レオ。
周りからは『頭がおかしい』と言われてしまいます。
まだまだ認知症への理解が出来ていない社会を目の当たりにして
悲しくなります。
それでも献身的に介護をする娘のモリーがとても優しいことが救いでした。
でも。。。ラストシーン。
二人のモリーが映し出されます。
冷たい視線で父親の家から出ようとしているモリーと
父親の傍らで寄り添っているモリー。
父親もモリーも、帰ろうとしているモリーを見つめているのです。
どちらが、現実のモリーで、どちらが選ばなかったみちのモリーなのか？
それは見ている人たちに選ばせようとしているように思えました。
私は、帰っていくモリーが、選ばなかった方だったと信じたいです。
でなきゃ、この作品はあまりにも暗く寂しいものになってしまいますから。

ただ、ひっかかるのは、モリーにとってこの日は仕事が決まるとても大切な日だということ。
それなのに、父親の歯医者と眼医者の予約を入れるかしら？
命にかかわることではないのに。。。
そう考えると、父親に付き添っていたモリーこそが、選ばなかったみちだったのか？
なんて深読みをしたりするわけです。
いずれにしても、認知症のことを考えさせられる悲しい話でした。