ルイス・ウェイン　生涯愛した妻とネコ

　ヴィクトリア朝のロンドンを彷彿とさせるリアルな街の情景や地方の四季折々の美しい自然が活写されていて、映像や美術は素晴らしい。主演のカンバーバッチは、繊細で風変わりな異端者ルイス・ウェインを熱演していて、さすがの存在感。猫が中心の映画なのかと想像していたら、キーワードは当時の科学の最先端だった電気で、ルイスはその魔力に憑りつかれている。彼にとって電気は、「人生で最も深く驚くべき秘密への鍵」であった。そして、後年、猫は電気導体なのだと猫の本質まで電気で説明する有り様。

　エンディングには表情豊かな様々な猫のカラフルで楽しいイラストが続々と登場するけれど、彼の絵が作中で丁寧に紹介されるわけでもなければ、愛猫のピーターを除くと、多くの猫がその魅力をたっぷりと振りまいてくれるわけでもない。人間と猫との深いかかわりの物語を期待したらがっかりするかもしれない。あくまでも、電気に執着し続けるとともに猫の価値を発見した画家ルイス・ウェインの特異な人物像と、決して順調だったとは言い難いその苦難に満ちた生涯を描いた映画なのだ。

　ルイスの家庭は上流階級というよりアッパーミドル階級だと思われるが、早くに父親を亡くし、母親と５人の妹たちの生計を支える責任が長男のルイスに重くのしかかる。しかし、彼は不器用で世情に疎く、「ロンドン・ニュース」紙に得意のイラストを描く仕事で何とか収入を得る。この時代には、女性の生き方は階級によって明確に峻別され、女性が仕事をすることはたとえ家庭教師であろうと卑しいことだとみなされて、中・上流階級の女性は働くべきではないとされていた。彼女たちにとって体面を保つ唯一の生きる方法は、身分に相応しい相手を見つけ結婚することだけだった。（以下、予告編程度の、多少ネタバレです。）

　ところが、妹たちをしかるべき家柄に嫁がせる責務を負っていたルイスは、妹たちの家庭教師として雇われた年上で身分違いのエミリーに恋をして、周囲の反対をものともせずに敢然と結婚する。当時では、これは大スキャンダルで、彼の一途な恋愛は、結果的に妹たちの結婚の障害となってしまう。しかもエミリーが末期の癌と分かり、ふたりの幸せな日々は長くは続かない。そんな時庭で鳴いていた子猫をピーターと名付けて飼い始め、ピーターは闘病するふたりの心の支えとなる。まだまだ猫の社会的認知度は低く、猫をペットにすることは珍しい時代だった。エミリーとの幸せだった日々は猫の愛らしい絵に昇華されて、彼の猫のイラストは大評判となっていく。

　映画後半は、エミリー亡き後、次々と不幸に見舞われるルイスと彼の家族の生活が描かれている。ルイスの描く猫のイラストは人気を博し、彼はナショナル・キャット・クラブの会長にまで選ばれるが、経済的手腕に欠けるルイスは、版権も取らず、絵がどんなに売れても、彼自身の収入は一向に増えなかった。妹たちは結婚できないまま一家は次第に困窮し、家族の社会的地位は地に落ち、ルイスも精神的に追い詰められる。それでも彼の心にはいつも最愛のエミリーと猫のピーターとの幸せな思い出があった。作家のH・G・ウェルズをはじめ、ルイスの絵を愛する人々によって、彼の晩年が穏やかだったことはせめてもの慰めだ。ルイスや彼の家族の人生が、彼の真価に相応しい、もっと満たされた幸福なものであったらどんなにか良かったのにと思う。

ルイス・ウェインという画家、誰やそれ、と思ってしまうのだけど、描いた作品をみると、どこかで一度は観たことのある画家です。映画では愛玩としての猫の価値を高めた人みたいな感じになっておりましたが、本当のところはどうなのかな。

かなり色々あった方のようでして、その半生をぎゅっと凝縮して描いております。ただ物語としては深みはあまりなく、気心のあった奥さんとの部分を美しく描けばよかったのでしょうが、人生においてその期間が短かったため、ドラマ的な部分で盛り上がることなかったです。

主演のベネティクト・カンパーパッチの良さを再確認して終わる作品ですかね。本当、こんな人だったんだろうなぁ、と思うような話でした。色々あったのだろうけど、絵になるとあぁなるのは芸術家というのはすごいなあ、と思いました。

この猫の絵たちは見たことがありましたが
ルイス・ウェインという人が描いたことを初めて知りました。
「チャーミングだけどちょっと変わった人」と言われていたようです。
そんな変わった人であるルイス・ウェインの生涯を
１１１分で描くわけですから、駆け足で人生を辿ることになります。

１８６０年生まれのルイスは、２０歳の時に父親が死去し
５人の妹と母親の暮らしを支えるために
雑誌や新聞の挿絵を 描いていました。
話しながら左右の手を同時に動かしてあっという間に絵を描いてしまうという特技があり
そしてその絵が素晴らしく素敵なのです。

ブルジョアとはいえ、暮らし向きはとても大変だったようです。
年端のいかない妹たちはともかく、大人になっている妹たちにも
働きに出てもらえばいいのに、とか思いましたが
そういう時代ではなかったのでしょう。
やがて妹たちの家庭教師として住み込みで雇ったエミリーと恋に落ちるルイス。
彼女は年上で、家柄も良くないことから周りは大反対します。
その反対を押し切って二人は結婚、ロンドン郊外で生活を始めます。
二人は迷い込んできた子猫を飼うことに。
子猫にピーターと名付けて、ルイスは妻を喜ばせるためピーターの絵を描きます。
上流階級は犬は飼うが、猫はネズミ捕りの道具とされていた時代のようです。
ルイスが愛らしいイキイキとした猫たちの絵を新聞に載せたことで
猫の地位は上昇し、愛玩動物として猫を飼う人たちが増えていくのです。
そんなこんなで、イラストレーターとして人気者になるルイスですが
エミリーがガンでこの世を去ってからは、精神を病んでしまいます。

妻のエミリーとピーターの思い出は精神を病んでしまったルイスの中に
生涯美しい思い出として残っていたのでしょう。
絵画のような美しいラストシーン。
もしかしたらあそこは天国だったのかもしれません。

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ベネディクト・カンバーバッチさん演じる上流階級男性と妻や猫との暮らしの話と思っていました。が物語は5人もいる妹や母親を支える家長の苦労も描き運命に翻弄される主人公を興味深く最後まで目が離せず見応えがありました。映像も絵画のようで古き良き英国は惹きつけられます。