水は海に向かって流れる

と、言うほどでもない、水がさらさらと流れるような、とても淡白な映画。不倫というハードな重い現実を描くのに、細部の設定のリアリティはすごく緩い。高校１年の直達は、通学に便利だからと、叔父の家で暮らすことになり、いきなりやって来て、そこがシェアハウスだと知ってびっくりする。息子が親戚の家にお世話になるのに、事前にその環境を調べたり、挨拶に訪れたりしない親なんているのだろうか。シェアハウスだと知らなかったという設定にするのなら、展開にもう少し工夫が必要だと思う。あるいは、突然の雨で千紗が駅まで迎えに来たというだけにして、直達がシェアハウスに驚くというのは省いてもいいと思う。観客がその意外性に驚くだけで十分ではないだろうか。

　シェアハウスの他の住人たちは一応どんな職業に就いているのか明らかになっているのに、主役の榊千紗だけが、どんな時間軸で動いていて、何で生計を立てているのかさっぱり分からない。日常を描きながら、最後まで職業不詳というのはとても不自然。26歳だから、親から仕送りをしてもらう年齢でもない。16歳のときに受けた痛手のせいで彼女の時間は止まっていて、彼女の抑圧した怒りや、恋愛はしない主義というのは理解できるけれど、どこかリアリティ希薄でとらえどころがない。他の登場人物は個性豊かで楽しいのに。

　高校生が年上の素敵な女性に恋をするというのはありふれていて、とても陳腐に感じる。ふたりに共通する過去の重い現実という、せっかくのストーリーの核心が揺らいでしまう。恋愛は溌溂とした同級生の楓を相手に、直達と千紗は同じ問題を抱える同志として共闘し、ガツンと行動するといった強さが、どこかに欲しかった。映画の趣旨とは離れてしまうかもしれないけれど。シェアハウスの古い日本家屋とか、生活感のある雑然とした雰囲気とかはとても良かったと思うが、母親との対面も何となく中途半端で、主演ふたりの関係の、甘ったるい、どっちつかずの感じが好きになれなかった。観客に丸投げのエンディングも。クレジットにもネコのコロときちんと表示されている、そこにいるだけで癒される可愛い子猫のムーちゃんが登場していなかったら、さらに星半分減点です。

４点

まあまあでした。

高校生の直達、学校に通うのが便利なので叔父の家に同居することになったが、駅まで迎えに来たのは榊千沙という大人の女性、叔父の家はシェアハウスになっていて同居人は一風変わった連中ばかり、そこで直達が知るなんとも奇妙な人間関係。
いつもぶっきらぼうで怒っているような榊さんの気持ちを自分も半分背負って行こうとする直達、そこには彼女に対するほのかな恋心が芽生えていたのだろうか。
26歳の大人の女性、でも彼女の心は16歳で止まっていると同居人の教授の言うように「私は恋愛しない」「今のまま全てをなかった事にして静かに暮らしたい」とその心のわだかまりは不倫をして出て行った母親に対して消えることはないみたい。
直達も榊さんの母の不倫相手が自分の父親だったと知った時の驚きと、自分中心にしか物事を考えようとしない父に対するいら立ちとそれを許した母親に対する怒り、そんな思いを榊さんと共有したいと思っているもののその気持ちはなかなか伝わらないようだ。
「いつまでも怒っているつもり」多感な16歳の少女にとって不倫で家族を捨てて出て行った母親に対してというよりも社会全体に対する屈折した思いはなかなかぬぐい切れないのだろう。
当然不倫相手の息子直達に対しても複雑な感情を持つのはいたしかたのないところだろう。
そんな榊千沙と直達を中心に展開されるストーリー、秘かに漫画家をしている叔父、女装した占い師とその妹楓、教授、それに直達の父親、千沙の父親、千沙の母親とその家族たち、皆個性があってなかなか面白い。
エンディングは少し原作とは違う流れだが「馬鹿じゃないの」と言う千沙の台詞が今後のいろんなケースの展開を示唆しているようだ。

親が不倫した子供同士が偶然巡り会うところから始まる物語。
不倫がテーマだけど、ユーモアも取り入れつつ、娘(広瀬すず)が立ち直るところまでを時に激しく時に明るく描いています。

息子役の大西利空が男なら誰しもうらやましがるような役を爽やかに演じている。

見終わった後でふたりの未来の明るさが思い描かれる爽やかなお話でした。