パラノイドパーク

気が滅入るってレビューを３作品続けたので、ガラッと変えようとしつつも４作目いきます。私はガス・ヴァン・サント監督が大大大好きだから、この作品も観ないわけないのですがかなり気が滅入りました。ガス・ヴァン・サント監督作品では１０代終わりから２０代初めの青年期の描写が好きなので、「パラノイドパーク」では１０代半ばの少年なのでちょっと躊躇しました。

苦手なんですね。１４歳から１６歳辺りを描いた作品って。
たとえば「スタンド・バイ・ミー」や「さよなら、僕らの夏」、
「エレファント」もどちらかというとですね。
映画だから大人が作りますよね。でもこの年代の子供たちってなかなか喋りません。
喋らない子供の心を、すっかり大人になった側が描きます。
大概良く出来ていたりするので、分かったような気がします。
ガス・ヴァン・サント、やっぱり上手いですから。
でも、その側でこの年代の少年たちの物言わぬ視線を感じて、思わず目をそらせてしまいます。
私も大人になってしまいましたから。

なので「パラノイドパーク」を観た後に、すぐにカーテン閉めてしまいます。
「時計じかけのオレンジ」もアレックスだった、と変なことも浮かびましたが、
関係ないですよね。うん、関係ない。

少年が初めて視線を向ける世界。
もうそこには大人しかいませんから。

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幾度となく映し出される主演少年のクローズアップの何と美しいこと。まるでギリシャの彫像、ダビデのよう。でも、この美しさは、生との乖離が生みだしたものでしょう。悩み、苦しみ、悶えるという醜い姿からかけ離れているからこその美しさ。だから、彼のクローズアップが美しければ美しいほど、私は怖くなりました。その透き通るような白い肌に血は通っているの？

自分が犯したできごとなのに、警官に詰め寄られてもまるで他人事のよう。何が起きているのかわからない。事実を受け止められない。アレックスにとっての日常って、白昼夢みたいなものなのでしょうね。そうした、現実感の薄さというのは、これぐらいの年頃にはきっと誰にも当てはまるものかも知れない。ガールフレンドとそういう関係になると煩わしくて別れると言い出すというのも、理解できる。むしろ、私は警官から渡された被害者の写真をスケボー仲間が回し見て、嫌悪の表情を全く浮かべずに「こりゃあスゲーや」とヘラヘラ笑ってるシーンの方がショックでした。

彼らにとって現実と言うのは、どれほど確かなものなのだろう。「君は明日死ぬんだよ」。そんな宣告を受けても、やっぱり「そりゃすげーや」と笑ってやり過ごすのだろうか。そんなことを考えると、やりきれなくなる。でも、ガス・ヴァン・サントは彼らを理解不能なモンスターとしては撮っていない。傍観者でもなく、告発者でもなく、彼らの心情に寄り添いながら静かに耳を傾けている。その繊細な心遣いにとても引き込まれる作品でした。

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　アレックスは特別悪い子ではない。弟のことも気にできる優しい普通の男の子だ。
　でも色々なことが面倒くさいし、あまり深く考えたくない。
　特にしたいわけではないけど彼女が誘うからセックスする。でもその後やたらウザいし今はそれどころじゃない。別れよう。ひとつ面倒くさいことを“切る”。
　誘われるままパークに行った。誘われるまま貨物列車に乗り込んだ。
　あんな大変なことが起こってしまってからも、彼は自分で自分の身に起きた出来事やこれからどうしたらよいのかを考えることができない。
　とりあえずボードを捨てて衣服を脱ぎ棄てる。血がついてるから。
　とりあえずシャワーを浴びてみる。これで全てが“なかった”ことになっている・・・わけないか。
　そして、友人に教えられるがまま、出来事に書き出してみる。

　彼の行動のすべては、まるで飛んできたボールをラケットで打ち返す作業に似てました。それって「生きる術を知らない」「やりたいことがわからない」現代人の特徴のように思えた。何だか自分と彼はそう遠くないことに気づき、少し恐ろしく感じてしまいました。

多くを語らない映画ですね。
淡々と少年を追いかけるカメラ。
「エレファント」でも延々と青年の後姿を捉えていたけれど、この映画も前から横から無表情なアレックスを静かに追っていく。

スケボーの聖地パラノイドパーク。
楽しい場所を見つけた−自分の中で広がる新しい世界。
でも広がったはずの世界が残酷な事件を引き起こす。
彷徨う街、忘れられない事件、忘れようとする心。
必死に日常を送ろうとしているのか、
それとも無関心であり続けようとしているのか、
恋人とのセックス、別れ、何もかもがだらだらと流れていくようで、でも記憶を積み重ねているようにも感じられた。
あの日が夢であった様な、記憶をどんどん遠ざける様な。
アレックスの心の内は近いようでとても遠い。

アレックスの横顔は時折ドキリとするくらい綺麗です。
印象的なシーンもたくさん。友人とレコードを選ぶ無邪気な横顔、廊下を歩くスケボー少年たち、何かに目覚めるようなシャワーシーン、丸い排水管を走るスケートボード…。
人によっては退屈に感じられるかもしれませんね。
でもアレックスから目が離せない、彼はどうなるのだろう。どうするのだろう、と。
ガス・ヴァン・サント監督、「エレファント」も面白かったけれど、これも好きだなぁとしみじみ思っていたらこの2作しか観ていなかったようで、慌てて追いかけようと思っています。

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ひとりの人間の命を誤って奪ってしまった。
その当事者になってしまった16歳の少年。
彼はこの事態にどう対処していいかわからない。容疑をかけられた他のボード仲間とともに聴取を受けるが、何とか切り抜けようと躍起になるという風でもなく、淡々とその質問に答えていく。映画は普通の日日をたいした目標もなく過ごす大半の若者と同じように友人やガールフレンドとの会話で流れていく。

ノートにPARANOID PARKと太い鉛筆で書くたびに彼の心情はそうした少年の日常から、ある事件を起こしてしまった核心に近づいていく。自分自身でもその作業がなければ重大な事さえ、ふと忘れて日常に埋没していきそうな不確かさだ。
刑事の質問中に、死んだ男の無残な死体の写真を目の当たりにする。
そして誰にも打ち明けられない真実をガールフレンドの助言に従って自分自身への告白として綴り始めるのだ。

私はそこで初めて彼が幾度かノートに書いていたPARANOID PARKと書く意味を知る事になる。彼が消せない事実を受け入れる作業だったのだ。
思春期の不確かさ。それは弱い生き物が様々な外敵からの防衛本能のように現実をそのまま受け止めることを拒否しているようだ。脳から手から、そして不確かな記憶から自身の体を刺激して、本来の自分に起きた現実へフィードバックしていく作業。
現実との遊離を映像にして少年の心象をあぶりだした作品だから、社会的価値観はあえてそのずっと先にあるのが良いのだろう。