哀しき獣

　傑作『チェイサー』のナ・ホンジン作ということで、期待値マックスで劇場へ。うーん、がっかり。
　前作よりもはるかに大作だし、熱気とか力の入れ具合は買います。しかしひとつには、シーンの密度の濃さに対して人の移動が軽すぎるということ。
　延吉からグナムがやってくる→社長キム・テウォンがミョンを殺しに延吉へ部下を送る→ミョンがソウルに乗りこんでくる。数日間で怒涛の移動があるんです。
　実際の距離とか航空路線がどうとかいうんじゃなくて、映画としての移動が軽い。隣町へいくくらいの感覚で描かれてしまっているのが残念です。だってそもそも、グナムが妻を探しに困難な旅に出ているってのが根幹のお話なんだから、嘘でも映画的に故郷とソウルの隔絶感を感じさせないといかんと思うんですよ。
　原題だって海なわけだし、そのためのラストシーンでしょう？　そんなに近いなら、最初から素人のグナムにはサポート役とかきちんとつけとけばいいのに、とか思っちゃいますね。
　それぞれのアクションシーンは悪くないです。グナムの殺しの顛末はアパートの前で何日も張りこんでプランを練ったり、電燈の使い方などすごく考えてるし、決行当日の静から動へ転じる思いがけない展開とか、なかなか見せます。
『チェイサー』に比べて、プロットが複雑になった分、散漫に。アクションシーンに気合いが入っている割に、前作ほどエモーショナルになっていかないのは、そのせいだと思います。ひとりの女を救えるかどうかということだけで胸をわしづかみにされた前作に比べれば、グナムの奥さんの結末なんて、なんとわざとらしいことでしょうか。「ああそう」としか思えません。
　派手でグロい場面のつるべ打ちでいいという向きは別として、あえて観るほどの作品ではないですね。
　いちおう、三作目には少し期待。ガッカリ度を加えてやや厳しく、30点。

『 チェイサー』観てからのこちら、何かやるせない。
個人的には『 チェイサー』のが好きだけど、こちらもなかなか面白かったです。

中国・延辺朝鮮族自治州でタクシー運転手を営む韓国系中国人の男は、借金返済のために殺人を強要される

韓国へ出稼ぎにいったまま音信不通の妻に会うためにも殺人を請負

韓国に密入国してから罠にはめられたと気付き警察とヤクザから追われる身となってしまう

衝撃のクライムサスペンス

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　借金まみれの朝鮮系中国人が韓国へ出稼ぎに行った奥さんが音信不通になったということで借金返済と奥さん捜索の2つの動機で、韓国へと殺人しに行くところまで。
　入念な下調べを結構長いこと描いていて緊張感あるものでよかったです。ところが主人公が殺害をしようとすると別の暗殺者が来て殺害してしまう。そして主人公が犯人だと思われて警察からも狙われる。

　ここまでが開始50分ほどと事件が起こるまでが長いです。画面の緊張感で引っ張るので退屈はしないですが、ここからいろんな人物が登場していろんな動機が発生するので誰が誰だかわからない状態になってしまいます。3回見ても理解できないです。
　それは、やたらと長いバイオレンスシーンが強調されるのでそちらに頭が行ってしまって結局誰が何のためにバカバカ斧で人間をたたきつけてるんだろう?　と思いながら見てしまいます。

　追いかけっこが印象的に挿入されますが、主人公はどんな絶望的な状況でも逃げおおせることができますが。最初の方に足が速いことを説明してくれないと何であんな状況で逃げることができるのかわからないです。何でもありの登場人物だと思います。
　主人公を追い詰める男もめちゃくちゃ強い男ですが、ナイフで腹を刺されようが車から振り落とされようが何のダメージも負わないのがよくわからなかったです。
　漫画のようなキャラクターたちで血が通ってないように思えます。
　
　そしてややこしい人間関係をまとめきれてないし、バイオレンスシーンだけで140分はつらいです。なぜ、主人公の殺害依頼に別の暗殺者が来たのか?　そこの理由も最後にズッコケるようなものでいきなりすぎるし、正直どうでもいいような理由だしでがっかりの映画でした。

わりと地味な前半から一転した、
中盤からのスリリングな超絶血みどろバイオレンスアクションの熱量が半端なく、
あきらめの悪い主人公の爆走逃亡劇と、
悪鬼のごときキム・ユンソクの破壊神ぶりには血液沸騰！

事件の真相が明かされたときの脱力感とやりきれなさにも、
イーストウッドの名作『ミスティック・リバー』に通じる現実の残酷さがありましたよねぇ……。